各短篇の登場人物たちが、実はお互いに関係があって……といういつもの伊坂幸太郎タッチが、この作品では特にさく裂している。
これは、まず短篇「アイネクライネ」が斉藤和義とのコラボで発売され(詞を依頼されたけれども、それは無理だったので短篇を書いたのだとか)、書籍化するためにいくつかの短篇を加えたという経緯があったため、むしろ積極的にコンセプトアルバムっぽく仕上げたのだと思う。
斉藤和義と伊坂幸太郎はお互いがお互いのファンなのでいろいろとからんでいる。映画「ゴールデンスランバー」のエンディングには名曲「幸福な朝食 退屈な夕食」が流れたし(伊坂はこの曲を聴いて会社勤めを辞める決心をしたのだとか)、他の映画化作品にも斉藤の曲はいくつか使われている(現代の作家で、伊坂ほど映画化されている人はいない)。そして今度は伊坂の方が作品に斉藤和義を投入しているのだ。
相互に関係した登場人物のなかで、ぽつんと浮いているのが、100円渡すと、相手にぴったりのフレーズが入った曲をパソコンで再生してくれる“斉藤さん”という形で。もちろんそのフレーズはすべて斉藤和義の楽曲から引用されています(笑)。
柱となっているのは某スポーツ映画。ぶっちゃけ、「ロッキー」です。イタリアの種馬が次第にスーパーマンになっていく2以降ではなくて、シルベスター・スタローンがしこしこと書いた第一作ね。生卵いっぱい飲むやつ。あの、みんなが知っているストーリーを、伊坂はひねりにひねって、そして最後に泣かせてくれる。
成り立ちもあって、意外なほどそれぞれの短篇はストレートな恋愛小説になっている。そしてそれらを相関させるテクニックこそ、伊坂幸太郎の芸というものでしょう。わたし、この本大好きです。