「村上さんのところ」新潮社
「職業としての小説家」SWITCHパブリッシング
「小澤征爾さんと、音楽について話をする」新潮社
「ラオスにいったい何があるというんですか?」文藝春秋
村上春樹の(小説以外の)作品をつづけざまに。「ところ」は、期間限定でオープンしたサイトに寄せられた読者からの私信への回答をまとめたもの。「職業」は、初版10万部の9割を紀伊國屋書店が買い占め、アマゾンなどのネット書店に対抗したことでも知られたエッセイ集。「小澤征爾さん~」は、音楽ファンである村上が、音楽の主体者である一流の指揮者に、音楽をつくりあげるとはいったいどういうものかを中心に対談(というより上質のインタビュー)したもの。「ラオス~」はお得意の紀行文集だ。この人は紀行文の天才ですね。
いやー幸福でした。読んでこれほど幸せな気分になれる作家はやはり村上春樹しかいない。現実との距離感を徹底的に保とうとするクールな作家が、しかし誰にもまけないほどのユーモアのセンスをもっていることの奇跡。あ、逆かな。ユーモアのセンスを持っているからこそ現実と折り合いをつけていられるのだろうか。
文章の端々に、この人のバランス感覚がうかがえてうれしい。読者の支持を喜びながらも、教祖のようにあつかわれることを(読者を傷つけないような表現で)敬遠していることがうかがえるし、小説家となることは決して楽な作業ではないけれど、喜びもまた大きいのだという語りにはひたすら納得できる。
他の作家を評することの少ない人だが、小説家として、郷土の誇り、藤沢周平の文章を名文だとしてくれていてうれしい。初めて知ったネタでは、レコード屋でバイトしているときに藤圭子が訪れた話など、ちょっといい。うん、本当にいい感じだ。
次号はクラシック関係を。