事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「淵の王(ふちのおう)」 舞城王太郎著 新潮社

2016-01-26 | 本と雑誌

酒田の図書館から5冊、遊佐の図書館から5冊借り、正月に9冊読み切って、残るはこの「淵の王」。

うーん、舞城王太郎かあ……と逡巡するのにはわけがある。彼の作品は、読者に緊張を強いるじゃないですか。さりげないやり取りにものすごい意味をこめていたりするものだから、のんべんだらりとした“楽しみとしての読書”の姿勢では蹴散らされてしまう。

いやもちろん舞城に翻弄されっぱなしでもいっこうにかまわないわけだけど(ディスコ探偵のときはそうでした)、お正月に読む本って感じでもないかな……でも返却期限が近づいているし、いったるか!

読み終えて呆然とする。いま、おれって感動してる?この、軽佻浮薄なやりとりしかできないかのような若者たちのお話に、五十を過ぎて、ど感動してしまいました。すげー。

みっつの中篇からなる。「中島さおり」「堀江果歩」「中村悟堂」。タイトルになっている若者たちの、一見おだやかな生活。しかし例によって彼らの発することばには、二段三段下に深いものが潜んでいる。会話の冴えはあいかわらず。

で、いずれもラストにとんでもない展開が待っていて、これは「新潮」に載ったから純文学じゃろと予想していたのに、小野不由美の「残穢」にも匹敵する大ホラーだったのだ。ひいいい。

問題は、それぞれの主人公の物語を、誰が語っているかだ。主人公の人生をほとんど把握していて、彼らを応援してはいるのだが……よく言えば守護天使であり、悪く言えば背後霊のような存在。しかし、この存在は現実にまったくコミットできず、主人公たちもその存在に気づいていない。小説と読者の関係に似ているかもしれない。

だからこそ、狂気と恐怖によって翻弄される主人公たちに、最後の最後で……とするラストが大きな幸福感を読者に提供してくれるわけだ。いやあ傑作。今回も舞城に翻弄されてしまいました。あまりに面白かったので一気読み。返却期限にちゃんと間に合いました。

コメント
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