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④時代
「ねじまき鳥クロニクル」でノモンハン、「1Q84」で地下鉄サリン事件に取り組んだ作家が、東日本大震災に黙していられるはずはない。ましてや、村上春樹は神戸出身なのだから、震災後の世界に敏感なのは当然のこと。
宮城と福島の県境で主人公が出会う、この物語最大の敵役“白いスバル・フォレスターの男”が何もシンボライズしていないと考えるほうが不自然だ。はたして何の象徴なのかは、読者次第ということだろうか。
後半ちょっとグダグダになってない?とは確かに思った。でも、パソコンが壊れているときだったので、とにかくひたすらに読み進んで満足。なにしろ途中でやめられないんだから。
ストーリーの核に、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」があることは確実。ある目的のためにのし上がり、ある場所に豪邸をかまえたギャツビーの愚行を冷静に見つめる友人、という共通点には多くの読者が気づくと思う。
くわえて、1Q84のオープニングにつづいて、またしても「不思議の国のアリス」が引用されており、それどころか、いくつもの自分の著作をひねってみせる読者サービスもたっぷり。
もちろん、わたしの村上春樹トップスリーである
・中国行きのスロウボート
・蛍、納屋を焼く、その他の短編
・世界の終わりとハードボイルドワンダーランド
を凌駕する出来とは言えないかも知れない。でも“村上春樹を読む快感”を、今回もきっちり味わうことができました。ああ早く次の作品が出ないかな。