森田芳光が亡くなって、もう6年たつ。決して巨匠にならず、あくまで才人、鬼才として映画界を突っ走った彼の作品には、独特のスタイルがあった。
①画面から、いい意味で熱が奪い去られていて、クールな肌合いが強調されている。「ときめきに死す」の登場人物たちが「涼しいですね」と何度もやりとりしているのはその象徴。
②セリフに微妙な“間(ま)”と奇矯なアクセントを与えて異世界を構築する。「間宮兄弟」の中島みゆき、「悲しい色やねん」の森尾由美が代表。
……その萌芽は、メジャーデビュー作である「の・ようなもの」にすでにあった。主演の伊藤克信の栃木弁、尾藤イサオとのかけ合い、そしてラストで延々と続く道中づけシーンは、映画と落語の幸福な融合だった。わたしのオールタイム邦画ベストスリーに確実に入ります。
その「の・ようなもの」の35年ぶりの続篇がつくられるなんて、生きててよかった。
森田組のスタッフ、キャストが集結して、まるで同窓会。主演は「A列車で行こう」の松山ケンイチと、なんとなんと伊藤克信が同じ志ん魚(しんとと)役で。うれしい、うれしい。
他にも「家族ゲーム」の宮川一朗太、「愛と平成の色男」の鈴木京香、「おいしい結婚」の三田佳子、「メイン・テーマ」の野村宏伸(彼は薬師丸ひろ子の相手役としてこの映画でデビュー。彼を推したのは森田だったとか)など、泣けるキャスティング。
特に、前作でもみごとな師匠っぷりだった尾藤イサオが、35年ぶりなのにまったく変わっていなくて呆然。彼が歌うテーマソングも同じ曲を使用。はすっぱな娘を演じて北川景子もいい。森田芳光も“向こう”でクールに喜んでくれているのではないでしょうか。あーしかしわたしはどこの馬の骨ともしれない若造の映画に、ソープ嬢として出演してくれた秋吉久美子にふたたび出てほしかった。