この映画の主人公の少年は、ラスト近くにある決断をする。そのことで批判を受けるのではと新海誠をはじめとした作り手は身構えているようだけれど、わたしは支持します。
前作「君の名は。」は超がつくほどの大ヒット。ジブリがローテーションから外れ、夏休みの東宝アニメ戦略に狂いが生じた2016年。細田守作品だけでは心許ない……そこへ登場したのがあのとんでもない作品だ。
確かに良質のアニメだったが、噂が噂を呼び、雪だるま式に騒ぎは大きくなり、そして興収250億という誰も想像もしていなかった地点へ。東宝にとってこれほどの福音はなかったはず。
で、新作。誰もまた250億稼ぐとは期待していないだろうが(いや、油断はできない)、わたしはとても満足した。
主人公は“島”から家出した少年。新宿で窮した彼を救ったのはフリーライターの須賀(声があの人だったとは最後まで気づきませんでした)。オカルト系のネタを追いかけるなかで、彼らは“100%晴れ女”なる女性と出会う。彼女は確かに天気をコントロールできるが、その代償として……
前作の成功が、新海を追いこむのではなく、むしろ余裕を与えているようだ。そうでもなければジブリを思い切り意識した声優の選択(倍賞千恵子、島本須美)や、前作と同様のセリフ(「あんたあたしの胸見たでしょ」)はなかなか(笑)。
そして例によって画像の美しさは圧倒的。おそらくは製作費も大幅に増額されただろうし(時間的には追いまくられただろうが)、延々と続く雨の描写と、徹底して東京、とりわけ新宿から代々木にかけてを微細に描いていてすばらしい。
子どもの観客など最初から無視して、発砲やラブホテル、そしてヒロインの裸体を盛大に提供してくれるのもおじさんうれしいです。故郷の島が、単に息苦しいだけという見切りも、実はリスキーだったろう。主人公の家族は一瞬たりとも登場しない。正解だと思う。
さて、公開直前に“あの事件”があったことは、このアニメにどう影響するだろう。感情移入できるポイントは数多く用意されているが、ガソリンの携行缶をもって火をつけるだけの男に、東京を沈める覚悟などあろうはずもなかっただろうが。