もちろんこの世の中は二人の世界で完結しているわけではない。しかし恋人同士は一瞬そのあたりを誤解する権利があるのに、この小説のヒロインは次第に世の中との関係性に気づいていく。恋人を置き去りにしたままで。なぜなら、ヒロインはこう心に決めているから。
自分は小説を書く、と。
山崎ナオコーラの自伝的作品なのだろうか。父親(世間の代表)との不和に実は思い悩み、自分がテンション高くなっているあたりにすら常に意識的な女性。
かつて「心みだれて」(原題Heartburn=胸やけ)という映画があり、メリル・ストリープとジャック・ニコルソンが主演。メリルの役は監督と脚本を担当したノーラ・エフロンが結婚していたときのことがモチーフになっている。この映画の評で最高だったのが
「もの書きと結婚するとろくなことがない」
確かに(笑)。
作品をものするために、彼ら彼女らは自分を必要以上に客体化する。もちろんそれですばらしい作品を作り上げることはできるだろう。でも私生活はなかなかにしんどいかも。二人組の双方にとって。