事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

いだてん 第35回 民族の祭典

2019-09-15 | 大河ドラマ

第34回「226」はこちら

オリンピックと政治は関係ない、と田畑が願いながらも、しかし翻弄される姿をあからさまにした回。

ベルリンで行われたIOC総会で、次期開催都市の投票スタート。政治的に日本と険悪な状態にある中国がキーポイントとなる。

開票の結果は予想外の大差だったが、そのために会長のラトゥールは「ヒトラーに感謝したほうがいい」と告げる。

つまりTOKYOの勝利は、ムッソリーニとヒトラーという、当時の二大独裁者の後押しがあったという皮肉。そしてベルリン・オリンピックはナチス色が強く、国威発揚の場として機能していた。そのために、日本に併合された朝鮮人であるランナー二人は君が代と日章旗に複雑な思いで表彰台に立つ……

2020東京オリンピックのマラソン日本代表を、ほぼ一発勝負で決めるMGCと同じ日にオンエアされたこととの符合。中国とアメリカが覇権を競い、日本と韓国の関係が最悪な状況下でこの回が放送されたことは、計算などしていなかった(だと思います)にしても考えさせられる。

そして、もうひとつの主役は記録映画だ。

ベルリンにおいて監督したのは、かのレニ・リーフェンシュタール。亡くなったのは気持ち的にはついこの間(2003年)。大騒ぎでした。その「オリンピア」がナチス礼賛映画となったことで批判され、彼女のキャリアは地に落ちるが、作品の完成度は高く、再公開されるたびに賞揚はされたと記憶する。芸術として最高級だったからだ。

同じ騒ぎは64年の東京オリンピックの記録映画にも言えて、鬼才市川崑が撮った芸術に文句をつけたのが河野太郎のおじいさん、河野洋平のお父さんである河野一郎だったのは有名な話。このドラマでは桐谷健太がやっているので、そのあたりの事情もやるのかなあ。

さて、来週は前畑がんばれの回。どんなにシニカルにオリンピックをとらえる人も、ああいう展開になると血が燃えるのは、日本人という民族のお祭り好き体質でしょうか。

第36回「前畑がんばれ」につづく

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「生還」 小林信彦著 文藝春秋

2019-09-15 | 本と雑誌

週刊文春連載「本音を申せば」の年1回の単行本化が途切れているなあ……と思ったらこんな経緯だったのか。脳梗塞で小林信彦は倒れていたのである。

その回復の過程と、無茶をして骨折するなどした私生活が静かに語られている。しかし、その内容は奇怪なもので、“信用できない語り手”によるミステリのようにも読める。

もう四十数年にわたって彼の著作に親しんできた身からすると、むしろ彼の小説としての最高傑作になっているのではないかと本気で思う。露悪的に性的倒錯を隠そうともせず、家族関係についてもうっすらと邪悪なこともしのばせている。

彼の本を読むたびに、もしもこの世に小林信彦がいなかったら、はたして自分はどんな人間になっていたろうと思う。彼の不在が、否応なしに近づいていることを思い知らせてくれる本でもある。

オヨヨシリーズから幾星霜、わたしたちは彼の不在に備えなければならず、そしてこれだけ長いこと小林信彦的言辞を発し続けてくれたことへの感謝を……あ、まだ亡くなってません(このように、意地でもオチをつけたくなるのは明らかに小林信彦の影響)。

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