事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

追悼八千草薫

2019-10-28 | 芸能ネタ

いつかこんな日が来るであろうことは誰だってわかっていた。でも、“訃報”という言葉がこれほど似つかわしくない人もめずらしいと思う。

八千草薫。

どこか浮世離れしているお嬢様、世間の痛みから目を背ける奥様……的な役柄が多かったせいだろうか。

でももちろん、彼女の代表作は不倫ドラマ「岸辺のアルバム」だ。しかしあの山田太一の傑作にしても、八千草薫が演じたからこそ評判をよんだ側面は確かにあった。

わたしは学生時代に狛江に住んでいた。多摩川沿い。「岸辺のアルバム」の舞台となった場所。おかげで、あ、ここが八千草薫が立っていた小田急線のホームだとか、風吹ジュンがいたサーティワンはここだな、とリアルタイムで感じていたっけ。

「阿修羅のごとく」「前略おふくろ様」「うちのホンカン」……主戦場がテレビであったことは疑いないけれども、「ガス人間第一号」「田園に死す」「ディア・ドクター」など、映画でも光り輝いていた。ぎらつく光ではなく、あくまで淡い光で。

こういう女優はちょっと他に思いつかない。だから彼女はひとりで

「八千草薫」

というジャンルを成していたのではないかと思うぐらいだ。だからこそ、彼女の退場は日本の芸能界にとって痛恨事。淡い光だからこそ、ひたすら美しかった。大好きでした。ご冥福を、お祈りします。

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「世界を売った男」 陳浩基著 文春文庫

2019-10-28 | ミステリ

13・67」「ディオゲネス変奏曲」と大当たりがつづく陳浩基。彼が島田荘司文学賞という華文ミステリのコンテストで勝ち抜いた受賞作。

ある朝目覚めるとまわりが昨夜と微妙に違っている。自分の記憶から6年間経った世界がそこに……これだと典型的な時間SFのように思えるけれど、主人公は担当する殺人事件の真犯人が別にいるという記憶だけは確実にもっている、というあたりから俄然面白くなる。

しかし、結末がどうにもひねりが足りない。この有能な作家にも若書きの時期というのはあったんだなあ、と思ったらいきなりそう来たか(笑)。いやはややっぱりこの作家はすごい。

日本文化がアジア圏に大きな影響を与えていることも感得できて、その意味でも面白い小説でした。やるなー。

タイトルはデビッド・ボウイの曲から。そして謎解きにボウイがからんでくるというサービスまである。やるなー。

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