事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ガリレオを全部観る21 聖女の救済

2021-06-23 | テレビ番組

その20「攪乱す(みだす)」はこちら

前後編の最終回スペシャル。わたしは東野圭吾のガリレオシリーズはすべて読んでいるけれども、「聖女の救済」がいちばんすばらしいと思う。あの「容疑者Xの献身よりも。あ、よく考えたらこの二作はタイトルが連関している。

朝、リモートで会議に出ている社長(堀部圭亮)はコーヒーを飲んでいる。そして夕刻に次の一杯を飲み、絶命する。使用された毒は砒素。そのとき、社長の妻、綾音(天海祐希)は遠く離れた北海道にいて、事件には絶対に関与していないと警察はもちろん判断した。

毒はコーヒー、カップ、ケトルに残されていて、警備保障完備の自宅に侵入者がいたとしか考えられない状況。実際に、その日の午後、紫の傘の女性が訪れていたのだが……

綾音は湯川の中学時代の同級生。だから彼女は“湯川くん”と呼びかけ、岸谷刑事は絶句する。

犯人が湯川の個人的な知り合いであるという設定もまた、「容疑者Xの献身」と対を成している。湯川は北海道の中学から東京に引っ越し、そしてあの石神に出会うことになるわけだ。

この殺人のトリックはネタバレになるので明かせないけれども、よほど強靭な精神力がないと成立しない。その象徴が殺人現場にのこされたタペストリーであり、湯川がそれを引っぺがして壁面に数式を書き始めるのも象徴的。

原作でおとなしいイメージがあった綾音を、強さを感じさせる天海祐希に演じさせたのは、意外性が減じて残念でもあり、薔薇に水をやるときに一瞬だけ邪悪な表情をうかべるあたり、説得力があっておみごとでもあった。うん、やっぱり天海祐希しかない(でも原作の特集でやったように、椎名林檎はありだよね)。

ガリレオXX「内海薫最後の事件」につづく

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「落語家」という生き方 広瀬和生著 講談社 

2021-06-23 | 芸能ネタ

柳家三三、春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、三遊亭白鳥 という、新進気鋭の、というか中堅どころの噺家へのインタビュー集。聞き手はヘビーメタルロック雑誌「BURRN!」の編集長だった広瀬和生

わたしは彼が賞揚してやまない立川談志が苦手な人なので、広瀬氏の数多い落語本がしんどいこともあったのだけれど、この聞き書き(というか広瀬氏がプロデュースした落語会の板の上で行われている対談集)はすばらしかった。寄席通いの回数と文章の芸は比例するのかなあ。ずんずん調査の堀井憲一郎も鬼のように寄席に通っているしねえ。

さて、わたしの世代の噺家といえば昇太や喬太郎ということになるわけだけど、その少し下の世代の彼らは、落語というメディア、落語家という職業について、少なからず醒めているように思える。

もちろん昇太や喬太郎だって落語を客体化していたわけだけど、もう一歩それを進めているというか。とりあえずこの人たちの落語を意識して聞くようにしよう。

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「テスカトリポカ」佐藤究著 KADOKAWA

2021-06-22 | 本と雑誌

な、な、なんだこりゃあ!あまりの面白さに一気呵成に読む。

天涯孤独の日本の少年と、メキシコ麻薬カルテルの王がどのようにして出会い、その結果どうなるか……アステカ文明において生贄の儀式が意味するものと、現代の臓器売買を二重写しにして描く暴力の連鎖。「煙を吐く鏡」というタイトルが象徴するものはなにか。大傑作

鬱々とした精神状態で読み始めたのに、読み終えたらスカッとしていました。抗うつ剤として最適かも。まあ、客は選ぶでしょうが。だって暴力の真ん中に、こんな描写まで挿入してあるのだ。

“高級寿司店はジャカルタに暮らす富裕層と観光客でにぎわい、人々の影をかすかに映し出す水槽のなかを、やがて解体される運命の魚たちが優雅に泳ぎつづけていた。”

のちの展開を予感させる、不気味な静けさ。こりゃ、ドン・ウィンズロウを超えたな。この人の小説、もっと読まなくちゃ。

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「ニュー・ミュータント」The New Mutants(2020 20世紀スタジオ)

2021-06-22 | 洋画

X-メンの新作が出たんだよ。見る?」と息子。

どうやらGEOが先行レンタルしているらしい。見ないんならBlu-rayにすると。ええそうですともわたしは再生するデバイスを持ってないです。

「見る」

にしても新作がいきなりビデオスルー?くさってもX-メンじゃないか……あ、そうか。FOXがディズニーに買収されたあおりか。くわえておなじみのミュータントは誰も出てこないのでした。FOXのシリーズ最終作なのも無理はない。実際には「ローガン」で終わっていたようなものだし。

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明細書を見ろ!2021年6月号 PayPayの町をもうちょっと。紙上初任者研修PART2

2021-06-21 | 明細書を見ろ!(事務だより)

Gaucho

2021年5月号 PayPayの町アゲイン 紙上初任者研修PART1はこちら

21日付けでこの事務だよりをつくってはいますが、給料袋を開けてこれを読んでいるのは23日以降ですよね。給与支給日が振替休日になっているとき、口座振込というのはまことに便利なシステムだと痛感します。今回から全員全額振込になったので、休日出勤しなくてもよくなった学校事務職員は特に。

さて、山形県の場合は21日が給料日。他の地方公務員もおおかたはそうなっています(例外もいっぱいある)。しかし国家公務員は16日、17日、18日のいずれかです(職種によって違う)。

これは、民間会社の決済や給料支払いが5日、10日、15日、20日、25日(「五十日=ごとおび」と言って、金融機関が混む日です。特に偶数月の15日は年金支払いもあるので激混み)であることが多いので、意識してずらしているのかも。先月特集した給料の原則のひとつ、「⑤一定期日払いの原則」が順守されていることがわかります。

さて、給料のデジタルマネー払い解禁に向け、政府内で検討されている件ですが、そのメリットとデメリットを考えてみます。

◇メリット

・口座から引き落としてデジタルマネーに変換する手間がいらなくなる

・ATMの手数料負担軽減

・ポイントやキャッシュバックなどの恩恵を受けやすくなる

・外国人(と反社会的勢力)のように、口座開設がむずかしい人たちに便利

・コロナの影響で現金の受け渡しにナーバスになっている状況を改善できる

◆デメリット

・デジタルマネーの業者が倒産したときのケアがまだ十分ではない(銀行は元本一千万円まで保証)

・支払先が多様化することで、給与事務担当者の負担が増える

・現金しか使えない店はまだたくさんある

・ドコモ口座のトラブルのような、なりすましなど不正への懸念

・そもそもスマホを持っていない

……日本は先進国の中でキャッシュレス化が遅れていることで知られています。そこに現首相がデジタル化推進をうたい上げる余地があるわけ。

しかしこの動きはなかなか具体化しないのではないでしょうか。だって、銀行がだまって見ているはずがないからです。

山形県職員に口座振込制度が導入されたとき、それはもう金融機関はやっきになって獲得競争を展開。いまでもCMなどで新入社員たちにぜひとも給与振込は当行へ、と連呼しているぐらいなのです。

一度指定してもらえば、毎月かならず1回は(④毎月1回以上払いの原則)なにもしなくても預金がころがりこむ仕組み。しかも、指定口座がある銀行に、まず人はローンを申し込む可能性が高いと言われていますし。

市場に直接コンタクトするメガバンクと違い、個人客や中小との付き合いが多い地銀は、店舗に客がやってくること自体が生命線。きっと反撃に出てくることと思います。

本日の1曲「ガウチョ」 Gaucho スティーリー・ダン

前年度の給料袋にはパウル・クレーの作品を貼りつけておきましたが、今年度はアルバムジャケット。生きてきたなかでいちばん数多く聴いた作品かも。

スティーブ・ガッド、ジョー・サンプル、マーク・ノップラーなど超豪華ミュージシャン集結。特にタイトル曲のバックボーカル(パティ・オースティン、ヴァレリー・シンプソン)には陶然。全員全額振込になったので、実はもう給料袋はいらないんじゃないかという話もあるので一応紹介。

2021年6月期末勤勉手当号「祝!初ボーナス」につづく

コメント (3)
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「教養としての平成お笑い史」ラリー遠田著 ディスカバー・トゥエンティワン

2021-06-21 | 芸能ネタ

なにしろ64年まであったのだから、昭和というのはそれにしても長かった。でも平成だって考えてみれば十分に長い。そんな三十年を、お笑い関係の14の事件をもとに概観。ネタはお笑いだけれども、意外なほどシリアスな語り口。品川祐へのむき出しの嫌悪(表紙にまでなってる)だけはちょっとたじろぐぐらいでしたが。

歴史を総括するのだから、その登場人物たちには終わりが見えているはず。でも平成に活躍した芸人たちは(上岡龍太郎と島田紳助をのぞけば)ほとんど代替わりしていない。

タモリたけしさんまのBIG3は現役だし、彼らを追撃するのがウンナン、とんねるず、ナイナイ、爆笑問題という構図に変化はない。ニューフェイスと断言できるのはサンドウィッチマンとオードリーぐらい?なんかいろんなファンから怒られそうだけど。

それはおそらく、お笑い芸人と他ジャンルの芸能人(たとえば大泉洋とか、佐藤二朗とか)の境目が……いやいやえらいことはわたしは言えないのでした。

だって、だいじな場面を、わたしはことごとく見逃しているからだ。この書でもとりあげられている、笑いの潮流を変えたとすら言われる「鶴瓶上岡パペポTV」を一度も見ていないし、「笑っていいとも」のグランド・フィナーレもスルー。

要するに平成という長い時間は、人々が、は言い過ぎかもしれないけれども少なくともわたしが次第にテレビを見なくなっていった過程そのものではなかったか。お笑いだけでなく、ひとりのスターにみんなが熱狂する時代の終わりの始まり。

それでは令和は、令和のお笑い芸人たちは、はたしてどんな時代をつくるのだろう。意外に、とんでもないトリックスターが登場するのかなあ。

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青天を衝け 第19回 勘定組頭 渋沢篤太夫

2021-06-20 | 大河ドラマ

第18回「一橋の懐」はこちら

今回から本格的に経済の話に移る。一橋家、薩摩藩、そして幕府の財政を上向かせようと考えた人間たちのお話……と素直にはいかない。

篤太夫が考えた紙幣の発行(わたしはいつも「はじめ人間ギャートルズ」の巨石の貨幣でものごとを考えてしまいます)は新参の勘定組頭の意欲と慶喜の“信用”だけでうまくいくはずはないし、徳川幕府の内情はもうにっちもさっちもいかないところまで。

だけど薩摩は違う。ディーン・フジオカに、じゃなくて五代才助にその才覚を発揮させる余裕があり、それって薩摩が危ない商売にも手を出していたからじゃなかった?

商売(それは兵站でもある)にあまり興味のなかった慶喜が、そっち方面に意欲を示す栄一に

「やってみよ」

なのはいかにもありそうな話。そんな彼が、根腐れした農本主義の象徴のような幕府を背負うことになるわけだ。

ま、そういう小難しい話はともかく、ドラマとしてプロデューサーが朝ドラの「あさが来た」からディーン・フジオカ玉木宏山内圭哉木村佳乃、そして脚本の大森美香さんを引っぱった意図はよくわかる。

大河ドラマの視聴率は近年、つねに朝ドラより5~10%(それ以上の場合もあった)下回っているわけだし、そちらの視聴者を自然に流入させようというのは当然の話。だったらいっそあのドラマの立役者だった三宅弘城、渋沢栄一だった三宅裕司、福沢諭吉の武田鉄矢を呼んだらどうなんだ……うわあ、ほんとにやりそう。

そしてわたしは提案します。このドラマのキャストのトメに、そろそろ草彅剛をもってきたらどうですか。彼の表情の陰影には、それだけの値打ちがありそう。すげー役者になったなあ。

第20回「篤太夫、青天の霹靂」につづく

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ガリレオを全部観る19 「演技る(えんずる)」

2021-06-18 | テレビ番組

その18「偽装う(よそおう)」はこちら

女優のお話。演技がうまいと思い込んでいる女優を女優が演じる、という離れ技を蒼井優が絶妙に。

オープニングからして彼女と佐藤仁美のからみ。わたしは初主演の「バウンス ko GALS」以来の佐藤ファンなのでとてもうれしい。

衣装係である佐藤に劇団の代表(丸山智己)から電話が入る。しかし彼は何も言わずに電話を切った。不審に思い、代表のマンションを訪ねると、彼は刺殺されていた。部屋は密室。合鍵を持っていた(代表の愛人だとカミングアウトした)蒼井はしかし犯人ではありえない。なぜなら、代表からの電話のとき、彼女は佐藤とそのマンションから20分ほど離れた場所にいっしょにいたから……

携帯電話を使ったアリバイトリックはわたしでもすぐにわかった。わからないのは湯川の研究室の学生たちに

「理系くんに理系さん、もっと社会性を身につけなさい」

とえらそうに説教をたれる岸谷刑事だけである。しかし犯人は(犯行時にテレビを消すなどして)もうひとつのトリックを用意していて……

湯川はそんな犯人に、本心を隠しながら接触していく。演技合戦である。蒼井優はどんなときもICレコーダーを持ってあらゆる経験を記録していく。物理学者に追いつめられる経験にも恍惚としている(つまり、彼女は湯川の演技に気づいている)。

よく考えると彼女が用意したもうひとつのトリック(月はどっちに出ている)はずいぶんと危うい。少しでもタイミングがずれると成立しないのだ。

しかしラストで湯川は彼女に最大の侮蔑の言葉を投げつけ、自らのメソッド演技(演者が役に徹底的に近づく演技術)に酔う彼女を叩きのめす。ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノはどう思うかなあ。

その20「攪乱す(みだす)」につづく

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「幕間のモノローグ」長岡弘樹著 PHP

2021-06-17 | ミステリ

長岡弘樹の最大の特徴はそのトリッキーさだと思う。ただそのさじ加減がむずかしい。「教場」のように、風間という強烈なキャラを利用して無理くりに成立させる場合はいいのだけれど、うまくいってない作品もなかにはあります。

で、この連作ミステリは南雲という老優自身にトリックをしこみ、みごとに成功しています。いやしかしここまでやるか。じゃあドラマ化されたときにほんとうにリクエストにお応えしてくれるかもしれないから言っとこう。南雲は老けメイクの竹野内豊で決まりでしょ。まさかまた木村拓哉は使えないし(笑)

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ガリレオを全部観る18 「偽装う(よそおう)」

2021-06-16 | テレビ番組

その17「密室る(とじる)」はこちら

茨城県で学会に参加し、帰京する途中で寄り道をする湯川研究室ご一行。しかし万年助手の栗林(渡辺いっけい)の車がパンク。しかも雨が降ってきて……な展開は古畑任三郎の第一回と同じよう。

イメージとして横溝正史っぽいというか、TRICKっぽいというのが正直なところ。なにしろ、壁抜けできるカラス天狗の存在がキーになっているぐらいだから。にしても茨城帰りなのだからここはどこなんだろう。埼玉?千葉?あ、湯川に傘を貸してくれた香椎由宇が乗っているレクサス(伏線)は宇都宮ナンバーでした。

湯川が寄り道する気になったのは、院生の地元の神社には烏天狗のミイラがあるからだったが、なぜかミイラはコンクリートで塗りこめてしまっていた。しかも神主は白骨死体で発見され、コンクリートのなかにはミイラが存在しなかった。はたしてミイラはどのようにして壁を抜けたのか……

事件はそれだけではなく、香椎由宇の自宅で彼女の義父と母親の死体が発見される。義父は散弾銃で撃たれ、母親は絞殺されている。この不可解なふたつの事件に湯川が挑む。

警視庁の刑事である岸谷は東京を動けない(でも前回は山梨県の事件だったのに顔をつっこんだ)のでリモートで湯川に協力。

この、実は穴だらけの事件には見せかけの動機とほんとうの動機が存在する。湯川はその動機に納得したからこそある解決法を提示する。犯人が誰かに興味がない人間だからこそ思いついた提案。視聴者を納得させ得たかは微妙なところ。

母親役の宮田早苗(セリフはまったくありません。そりゃもうびっくりするぐらいに)のことがわたしはけっこう好きなので納得してしまいましたが(なんか脇役特集みたいになってきた)。

その19「演技る(えんじる)」につづく

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