ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタル(東京都)

2021-07-11 17:08:11 | ヒメボタル

これは、東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録写真である

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola)でゲンジボタルやヘイケボタルと同じ仲間になるが、幼虫は水中ではなく陸地で生活する陸生ホタルである。その生態はまだまだ謎が多く、生息環境も多岐にわたっている。青森県から鹿児島県まで分布し、標高数メートルの海岸や標高およそ1,700mの山頂、照葉樹林、ブナ林、竹林、河川敷、お堀などに生息している。
 ヒメボタルは、東京都内にも生息している。都内におけるヒメボタルは、秩父多摩甲斐国立公園内の標高およそ700m~1,200mの山地に広く分布しているが、生息場所はかなり局所的である。2004年から観察と撮影を行っている場所は、昨年のブログ記事「ヒメボタル(東京2020)」で紹介しているが、今回は知人T氏に案内いただき、別のヒメボタル生息地を訪れた。
 当地は、標高1,000mを越えるブナとミズナラ、シラカンバの原生林と杉林である。ヒメボタルは両方の林を行き来するが、範囲は50m四方ほどである。ヒメボタルの発光活動時間には二通りあり、ゲンジボタルと同じ19時半頃から21時頃までの薄暮型と23時頃から翌2時頃までの深夜型に分けられ、東京都内に生息するヒメボタルは、知る限りでは薄暮型である。成虫の発生時期はほとんど同じであり、その年の気候によって1週間ほどのズレはあるものの、おおむね7月10日前後から発生し、10日から2週間程度である。

 ヒメボタルの当地における発生は、今年は7月5日頃から始まったようであるが、1日に数頭が見られる程度であり、7月8日に前調査で訪問した時は、発光する個体はゼロであった。ちょうど梅雨の末期で、東京は連日の雨。8日も午後から本降りで、夕方から時折止む時間もあったが、飛翔時間になってから霧が立ち込めてきたため発光しなかった。ヒメボタルは、土砂降りの雨の中でも発光飛翔するが、霧が出るとまったく光らない。また、月が明るいと発光飛翔する個体も減る。
 次に訪問した10日は、朝から青空が広がり、日中の気温も上昇。都心では33℃まで上がった。当地へ到着した17時の気温は24℃。その後も気温は下がらず、無風。一斉に羽化し、相当数の発光飛翔が期待できる天候であった。
 飛翔コースで待機していると、19時24分から発光が始まった。45分頃になると、20~30頭ほどのヒメボタルが静寂に包まれた森の中を黄金のフラッシュ光を放ちながら飛んでいたが、これから飛翔数が多くなる20時になって雷雨となり、残念ながら引き上げることになった。
 当地を含め東京都内のヒメボタル生息地は、いずれも国立公園内にあり、優れた自然の風景地を保護するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的として定められた自然公園法によって開発は規制されているので、森林伐採等の心配は少ないが、観賞者やカメラマンによって荒らされないよう、場所についてはマスコミは勿論のこと研究者に対しても一切口外しないこととする。
 以下に、東京都内におけるヒメボタル生息地の貴重な記録を、昨年に続き掲載したいと思う。当地の最盛期は、まだ数日先のように思うが、また来年の今頃に観察を実施しようと思う。その時は、映像も残したいと思う。

 ヒメボタルは、発光の特徴から写真では丸い光の点に写る。飛翔しながら規則的に発光しているから、その点々を辿れば、写真上で飛翔ルートが分かるわけだが、デジタルカメラで撮影した光跡のカットを何百枚も比較明合成すれば、森の中が光で埋め尽くされる写真になる。創作写真には偽りの合成もあり生態学的価値はないが、幻想的ではあるため、昨今ではヒメボタルの写真を撮ろうと単なるカメラマンが群がる現象が起きている。
 写真を撮る事も創作写真を作ることも否定はしない。ただし、ヒメボタルの基本的な生態を学んでから生息地に行ってもらいたい。インスタグラムでは、相も変わらずヒメボタルが舞う場所に人物を立たせて撮った写真が投稿されている。他にも、農道に深夜の時間帯に路上駐車の列ができたり、カメラマン同士のトラブルもある。是非、被写体は貴重な生き物であることを念頭に、自然環境や周囲への配慮を忘れずに撮影していただきたい。

 今の会社に入社して25年。今回、初めて夏休み(9連休)を頂いたが、あっという間に終了。長野へは、心折れる遠征であったが、最後に東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録を残すことができた。All's well that ends wel ! 今月は、まだ週末3回に4連休もある。緊急事態宣言中になるが、いつものように感染対策を徹底して行いながら長野、山梨、静岡へ、ヒメボタル、ゼフィルス、トンボ・・・貴重な記録を残していきたいと思う。
 最後になったが、案内して下さったT氏に、心より御礼申し上げたい。

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以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 3分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 20:00)

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 13分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 7:09)

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