ゲンジボタルの幼虫上陸を観察するため山梨県の自生地を訪れた。この場所は、2011年から幼虫の上陸を観察しており、その内3回は写真に撮影しているが、私の休日と当地の上陸時期と降雨が一致したので、定点観察として訪れた。
ゲンジボタルの幼虫は、9か月~3年9か月もの水中生活に別れを告げ、上陸して蛹になるが、日長時間等の条件がクリアされて上陸時期になっても、初日は雨が降らなければ上陸をしない。一度、上陸が開始されれば、その後は岸が湿っている状態ならば上陸をするが、水中から陸地に上がる幼虫には、雨が一番必要なのである。
当地は、富士外輪山と南アルプスに挟まれているためだろう、雨が少ない。天気予報で雨マークが出ていても、河口湖が雨でも当地へ移動すると一滴も降っていないことが多い。何度も足を運び、何度も天気に裏切られ、上陸観察を諦めて帰ったことがしばしばである。13日(火)にも訪れているが、まさに前述の状況であった。気象庁の過去データをみると、当地において、4月になってからの降雨はほとんどなく、降っても短時間にわずかな量である。今回は、13時から降り続き、18時頃からは本降りである。このまとまった降雨は、当地におけるゲンジボタルの幼虫上陸の初日になると思われる。
ゲンジボタルの幼虫上陸が開始される時刻は、地域によって違いがあり、千葉県では18時半頃から水際で発光を始めて開始されるが、当地では19時を過ぎてからである。千葉県に比べて日の入り時刻が10分ほど遅いことが関係しているかも知れない。今回は、気温13℃。18時より川岸に降りて待機していると、19時14分に1頭の幼虫が発光を始め、しばらくすると上陸を開始した。
当地は、東西に流れる川のおよそ1.5kmにわたってゲンジボタルが発生するが、上流部と下流部では、周囲の物理的環境が異なっている。上流部は、農村地帯に見られる「農業用水路」であり、一方は県道、一方は水田となっている。下流部は、渓流的な様相を呈し、水田の代わりに木々が生い茂った林が川まで迫っている。上流部では、決まった上陸場所はなく、両岸に上陸しているが、下流部においては、かなり限定的な場所に上陸をしている。なだらかな岸を上陸するのではなく、水中からいきなり巨岩を登る個体がとても多いのである。これは、過去に2度撮影した時も同様であった。この部分は、水深が浅い急流部を示す瀬ではなく、流水が緩やかで深みのある淵であり、淵が幼虫の生活場所であると言える。
ちなみに、上陸する方向は、両岸の場所もあれば、片方の場所もある。どちらかと言えば、一方の岸に上陸する場所の方が多い。東西南北は決まっておらず、生息地域によってバラバラである。幼虫が、どのように上陸方向を決定しているのかは、未だに謎である。上陸方向が潜土に適した環境もあれば、そうでない場所もある。写真の上陸場所と方向は、決して蛹になるのに適しているとは思えないが、静岡県内の生息地では、潜土せずに岩の隙間で蛹化する地区もあるので、この場所もその可能性はあるだろう。
写真には12頭の上陸幼虫が写っているが、この日の上陸数は、50mの範囲でおよそ20頭。流域全体を観察してはいないが、単純計算では約600頭の幼虫が上陸したと思われる。明け方近くまで観察する予定でいたが、途中から豪雨となり、川の水位が上がってきたため危険と判断し、こちらも上陸して引き上げることにした。
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ゲンジボタルの幼虫上陸
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 60秒 ISO 800 ×90カット多重(撮影地:山梨県 2021.4.17)

ゲンジボタルの生息環境
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F4.5 30秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:山梨県 2021.4.17)
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