ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

岐阜県郡上市の和良蛍

2024-06-20 12:13:44 | ゲンジボタル

 岐阜県郡上市の和良蛍を、今年も観察し、写真と動画を撮影してきた。和良町は、和良川や鬼谷川などに国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオが生息していることで有名だが、ゲンジボタルも見ることができる。地元では和良蛍と呼んでおり、おそらく本州一の発生数であろう。
 鬼谷川の東野地区では、およそ1kmにわたって1,000頭以上のゲンジボタルが乱舞し、2つの違った景観を見ることができる。1つは、ファブリダムによって流れが穏やかになる場所では、平面的ではあるが対岸で乱舞するゲンジボタルの光が水面に映り、光の数が2倍になって見える。一方、川の蛇行を正面から見る下流の場所では、ゲンジボタルの舞いが立体的に見えるのである。どちらも西日本型ゲンジボタル特有の2秒間隔の発光で、一斉に集団同期明滅する様は圧巻である。

 和良町には一昨年と昨年の6月に成虫の飛翔写真と動画を撮影(参照:郡上和良のホタル)、昨年の12月はホタル勉強会の講師として招かれ、今年の4月には幼虫の上陸観察で訪れている。私がこの場所に惹かれた理由は、まったくの自然発生地で乱舞を見ることができるということもそうだが、毎年多くのゲンジボタルが発生する理由が知りたいのである。興味深いことに、幼虫のエサとなるカワニナが非常に少ない。おそらく数十億匹いるだろう幼虫の成長を支えるだけのカワニナがいないのである。富山県ではミミズを食べている様子が観察されているので、カワニナ以外のものを食べている可能性は高いが、それが何かは分かっていない。また、発光飛翔の時間が長いことも挙げられる。午前0時近くまでオスが飛びまわっているのである。こうした素晴らしい場所を、今後も保全したく地元の「守る会」の皆さんに微力ながら協力もしたいとの思いもあり通っている。
 先に記したが、4月には幼虫の上陸観察で訪れている。上陸場所を保全するためには、どこに上陸し潜土するのか確かめなければならない。西日本型であるから、数百という幼虫が集団で上陸することを期待し、上陸条件が合致する日に行ってみたが、何と観察できたのはわずか2頭。もしかしたら今年の発生は極端に少ないのではないかという懸念があったが、成虫の発生は、現地の「守る会」の観察結果を頻繁にお知らせ頂いており、昨年に比べて発生初日が数日早く5月30日に7頭が飛び始め、6月5日では100頭を超え、順調に数が増えているとのこと。実際に6月10日と17日、いずれも月曜日に訪れてみると、いったい、いつどこにこれだけの幼虫が上陸したのだろう!?と不思議に思える程の成虫が発生していた。
 まず6月10日はファブリダム付近で観察を行った。気温21度でくもり。17時半頃から待機したが、残念なことに護岸より上の乱舞する場所の草が綺麗に刈られてしまっていた。自治会が行ったそうだが、これではメスの居場所がない。19時40分から発光が始まり、20時を超えた頃には約200頭が発光飛翔したが、昨年よりも数が少なく、21時を待たずに終息傾向になってしまった。その後下流に移動すると、そちらは両岸と中洲に草が茂っていて、多くの数が発光飛翔しており、21時半になっても減ることはなかった。
 翌週の17日は、15時から産卵しそうな場所など周囲の環境を見て回り、17時から下流の場所で待機した。天気予報では21時から雨であったが、18時ころからぽつぽつと降り始め、19時には本降りの雨となってしまったが、ゲンジボタルは、19時半から発光を始めた。気温は18度で肌寒いが、発光数は少しずつ増え、20時頃には見渡せる範囲だけで500頭を超えるゲンジボタルの乱舞が見られた。晴れていれば、月齢10.6の半月よりも大きな月明かりが、南の空40度の高さに輝くので、ここまで乱舞することはなかったであろう。飛翔中に雨粒に打たれて落下する個体もいたが、本降りの雨でも何ら変わらず飛び回るオスたちの行動には、子孫を残したいと言う本能が強く感じられた。

 以下には、写真5枚と動画を掲載した。動画は、3年間で撮影した記録を編集した。岐阜県郡上市の和良蛍の魅力が伝わるものになっていると思う。
 写真1~3枚目は、17日に下流付近撮影したもので、時系列的に発光飛翔が増えている様子を表している。4枚目は10日にファブリダム付近で撮ったもの、そして5枚目は、国道256号線および県道329号線を通る車のライトが生息域をなめるように照らしている様子を写したものである。
 車は、地元の方々の生活の為であるから仕方のないことだが、平日で20時から21時で20台ほどが通過する。川面よりかなり高い位置を照らすことと、四六時中ではないことが救いであるが、週末ではホタル観賞に来られた車が加わるから大変な光害となることが想像できる。写真から、平日であってもどれだけ酷い光害であるかは分かっていただけるだろう。光が当たるたびに発光をやめてしまう。
 ゲンジボタルの発光飛翔の時間帯は、概ね21時を過ぎると一旦終息するが、この和良蛍は、23時を過ぎてもオスが活発に飛翔している。深夜になるほど車の通行量が減ることとも関係しているのかもしれない。例を挙げれば、都内のあるホテルの庭園にいるヘイケボタルは、客室の灯りが消える23時頃から発光を始める。和良町において、4月に2頭しか確認できなかった幼虫の上陸も、深夜に行われているのかもしれない。

 これまでの観察結果を踏まえて、岐阜県郡上市の和良蛍を守る上での重要な課題をいくつか挙げてみた。

  • 産卵場所の調査
  • 幼虫の食べ物調査(カワニナが他地域に比べて極端に少ない)
  • 幼虫の上陸場所の調査(どこに潜土するのか、上陸時間と光害の関係)
  • 草刈の時期の検討
  • 光害対策(車のライト及び観賞者の懐中電灯)

 近年では、日本各地において台風及び線状降水帯による大雨と洪水によって、ゲンジボタルの生息地も大きな被害を受けている中、岐阜県郡上市の和良蛍は、ここ数年、毎年コンスタントに数千頭が乱舞している。環境や生態系が豊かなだけではなく、地形や川の形状等の物理的特性やゲンジボタルの生態の地域特性もあろう。登録云々に関わらず、ここは「自然遺産」であり「天然記念物」であると思う。上記の事柄を調査し対策を立て、この貴重な場所を今後とも存続させなけれならない。私も、協力は惜しまない。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂き、暗い部屋でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 10秒 ISO 400 2分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1000 1分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 7分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 400 6分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.10)
ゲンジボタル生息地における光害写真
ゲンジボタル生息地における光害
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17 20:09)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
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