モンシロチョウやキタテハが飛び交う様子が見られるようになってきたが、モンシロチョウは蛹で越冬して、この春に羽化した「春型」で、一方、キタテハは前年の晩秋に羽化して、成虫で越冬した「秋型」の個体である。
トンボの仲間では、先述のホソミイトトンボ以外は年1化であるが、チョウ類では、1年に一回しか羽化せずに一か月も経たないうちに産卵して死んでしまう種(ギフチョウやミドリシジミ等)や夏に羽化してそのまま冬を越して、翌年の初夏まで生きる長寿の種(ヤマキチョウやキベリタテハ等)がいる。また、一年のうちに何回も羽化する種もいる。こうした種は「季節型」と言って、羽化した時期によって「春型」「夏型」「秋型」に分けられ、それぞれ翅の色彩や形状が異なっているという特徴がある。
この記事では、代表的な種の写真を掲載しながら、チョウの季節型について紹介したいと思う。
まず、チョウの季節型には形態的差異が見られる。例えば、アゲハやクロアゲハは夏型の方が春型より大型となり、一方、シルビアシジミは春型の方が大きい。これは、幼虫期の食草の状況と幼虫の成長期間に関係があり、栄養価の高い新芽の時期に比較的ゆっくりと十分な大きさに達するまで成長した後に蛹化へと進めば大型になる。
他の形態的差異では、外来種であるホソオチョウでは、夏型は春型に比べて尾状突起がかなり長いという違いがあり、キタテハは、越冬する秋型の翅の縁の切れ込みが夏型に比べて深いという特徴がある。キタテハでは、生理的にも夏型は低温に弱く、越冬できるのは秋型である。また、メスの成熟も夏型では羽化後1週間もすれば産卵できるのに対し、秋型では越冬後はじめて卵の成熟が見られるなど大きな差をもっている。ただし、同じく成虫で越冬するキベリタテハやヒオドシチョウは年1化で、夏に羽化してそのまま成虫で越冬するから面白い。
チョウの季節型による差異で最も顕著なものは、翅の色彩的差異ではないだろうか。サカハチチョウやトラフシジミ、外来種のアカボシゴマダラの春型と夏型は、別種かと思われるほど色彩を異にしている。また、ベニシジミでは春型の方が紅色が鮮やかである。また、キタキチョウやヤマトシジミでは、夏型の方が翅の外縁の黒い部分が大きいという特徴がある。
チョウの季節型を決定する要因は、幼虫期や蛹期の日長条件が主であり、温度条件が副次的であることが研究で分かってきている。例えば、キタテハでは老令幼虫の日長条件が長日では夏型が羽化し、短日では秋型になると言われ、臨界日長はおよそ13時間であるという。しかし、短日条件下でも高温がはたらくと秋型化が抑制されることが分かっている。ベニシジミにおいても、幼虫期の短日条件で春型、もしくは秋型になり、長日・高温条件により夏型になることが分かっている。
これまで年1化と考えられていた種でも季節型が存在する可能性も示唆されている。例えば、ルーミスシジミがそうである。ルーミスシジミの詳しい生態は、未だ完全には解明されておらず、特に成虫の発生回数や時期については諸説ある。以前は、初夏に1回の発生と言われていたが、6月中~下旬に第1世代、さらに8月に第2世代、9月に第3世代が発生する(川副・今立, 1956)という説や年2回という説があるが、11月下旬の翅の痛み具合や同属のムラサキシジミとムラサキツバメが複数回発生していることから、少なくとも年に2回以上発生し、夏型と秋型が存在することは間違いないように思う。(参照記事:ルーミスシジミ)
また、季節型(春型、夏型、秋型)の差は連続的なものなので、年5~6回の発生のうちには、その中間型も出現する。例えば、春型初期の成虫から生まれた幼虫が一ヶ月で成長して羽化した個体は、形態的に春型と夏型の中間型になることがある。(参照:ヤマトシジミ(季節型))
ここに掲載し紹介した季節型をもつチョウは一部にしか過ぎない。私自身、この記事を書きながら希少種を追いかけるばかりに、普通種であるナミアゲハやモンシロチョウの季節型を撮影してないことに気づいた次第である。また、春型だけで夏型を撮っていない種も多いので、時間があれば揃えていきたい。
もうすぐ春本番で、多くのチョウたちが見られるようになる。季節型というものを念頭に置いてチョウの撮影をするのも有意義ではないだろうか。
注釈:掲載写真のチョウは、同種の雌雄を同じにし季節型の違いが分かるように画像を左右に並べています。
尚、写真は、500*333 Pixels で掲載しています。スマートフォン等画面が小さい場合は、左右ではなく、上下で表示されます。
サカハチチョウ(左:春型/右:夏型)
トラフシジミ(左:春型/右:夏型)
ベニシジミ(左:春型/右:夏型)
ヤマトシジミ(左:春型/右:夏型)
ホソオチョウ(左:春型/右:夏型)
アカボシゴマダラ(左:春型/右:夏型)
シルビアシジミ(左:春型/右:夏型)
キタキチョウ(左:夏型/右:秋型)
クロコノマチョウ(左:夏型/右:秋型)
キタテハ(左:夏型/右:秋型)
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