今回の東日本大震災の大津波は千年に一回のことであるといわれるが、それをもっとも恐れていたのは、亜細亜大学、創価大学で教鞭をとられ、地理、民俗学者であった、故山口弥一郎先生である。山口先生は三陸海岸が津波の常習地帯であることを重視して、絶対防災のための集落の移転を訴えていた。東北日本の東側に太平洋底に、日本海溝があり、それに沿うプレートが西漸して、日本列島の下にもぐるこみつつあり、それが原因で地震が起き、津波が発生することが裏付けられている。それだけに、山口先生は「三陸海岸の津波災害地域には、絶対に集落を再建させないように」と主張していた。しかし、そこは同時に漁村地帯であり、海岸から離れて住むことに抵抗感を持つ人が多かった。このために、晩年になって釜石を訪れた山口先生は、住宅がかつての罹災地に充満しているのに危機感を抱いていた。私は度々会津若松市山鹿町、東北地方農村生活研究所を訪ね、山口先生からじかに話を聞くことができた。とくに嘆いておられたのは、津波の経験者がいなくなると、悲惨は事実が風化してしまうということであった。いかに想定外のことであっても、それを予言した人がいたことを、私たちは忘れるべきではないだろう。山口先生の助言に従わなかったことは、天災ではなく、人災であるわけだから。
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