今の日本の思想界ではハーバーマスは神様扱いである。その影響力といったら大変なものがある。それだけにハーバーマスがコソボ紛争でのNATOの空爆を容認したことは、日本の左翼を仰天させた▼週刊Die Zeitに1999年4月29日に掲載された「獣性と人道性―法とモラルの間の限界線上の戦争」という論文では、迫害された人間や民族を放置しておくべきではなく、国家権力による大量犯罪が行われ、他に手段がない場合は「民主的隣人は、国際法的に正当化される『緊急救助』を急がなくてはならない」と主張したのだった。道徳的な判断で善悪を裁くのではなく、国際法にその根拠を求めているのは、新しい国際秩序に向かって一歩踏み出したことではないだろうか▼東アジアに住む私たちにとっては、ハーバーマスの決断は他人事ではない。ウイグルやチベットに対しての、中共の民族抹殺を放置していいのかという問題とも結びつくからだ。「民主的隣人」であるのならば、何らかの行動を起こすべきなのである。突きつけられた厳しい現実に、思想家としてのハバーマスは、真剣に向き合った。日本のお花畑の自称左翼やリベラルと違って、武力の必要性を認めたことは立派である。お花畑でなく、まともな左翼やリベラルであるのならば、口に出せなくても、心の中ではハーバーマスに共感しているのではないだろうか。
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