山本夏彦がいなくなってから、世の中がつまらなくなってしまった。今世紀に入ってからすぐの2002年にこの世を去ってしまったからだ。あれだけ世の中を皮肉る言論人は珍しかった。
山本の「資本主義には正義がない」(『寄せては返す波の音』収録)という一文は、もっと多くの人に読まれるべきだろう。資本主義は人間によって運営されるから限界がある。それだけに、山本は「人間は邪悪な存在である。サギをカラスと言いくるめる存在である。だから資本主義は資本主義は己がカガミで、清く正しく美しいものだと思いたくても思うなと私は言うのである」と書いた。
しかし、山本は間違っても、左翼のように資本主義を打倒しろとは言わない。謙虚であることを望んでいるのだ。それと比べると、社会主義者は「社会主義には正義があって資本主義には正義がない」と御託を並らべる。それをあてこすった文章なのである。
山本は日本の現状を嘆いたのだ。「社会主義の御本尊は破綻したのになおその正義で育った若者はいま新聞、学校、裁判所あらゆるところのデスクになっている」からだ。
朝日新聞が毛沢東の文化大革命を礼賛し、ポルポトをほめ讃えたことを、山本は厳しく断罪した。文化大革命では1000万、ポルポトの虐殺では150万から200万人が死亡したと推定される。
さらに、山本は、岩波書店の「世界」が連載した「韓国からの通信」(T・K生)についても言及し「北朝鮮を十何年ほめちぎって、あとで問いつめられたらT・K生は実在しない、正義のためならウソは許されると言葉をにごしたと伝えられる」という真相を暴露した。
正義を声高に叫ぶ者たちこそ、危険極まりない代物なのである。colabの不正疑惑も、そうした観点から見れば、ドロドロしていても驚くにはあたらない。若年女性を救済するという正義を振りかざし、疑問を抱くことも許さないというのは、絶対的な正義を過信しているからであり、迷惑千万極まりないのである。