Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、58

2017-02-26 23:25:22 | 日記

 と、手は目の上から頭、額など、そっと優しく触れて覆ってくれるような感じです。

こうやって自分を慈しむ雰囲気は、やはり父の物だと蛍さんは感じるのでした。

 「眠いんならもう少し寝ているかい?」

父が言うので、蛍さんはうんと答えます。そうすると、頭を抱えた手が片方そっと彼女の背中に回り、

そのままそーっと蛍さんの体を畳に横たえてくれるのでした。

 蛍さんが目を閉じたまま体を横たえていると、少し頭がくらくら、地面がぐるぐるして感じます。

それで、何だか地面が揺れている気がすると父に訴えました。もしかすると地震ではないかと父に言ってみます。

そうかと父は答え、いや地震じゃないぞと否定します。お父さんは何ともないからお前だけだ、と。

 これは頭を冷やした方がいいなと父は言い、お寺さんに水で濡らしたタオルを貰って来ると言います。

ここでじーっと寝ているんだよと蛍さんに注意すると、どうやら彼女の傍を離れて行ったようでした。

 蛍さんは畳の上でそのまま寝ていましたが、このぐるぐるした感じが長く続いて収まりません。

幼いながらにこのまま治らないのでは無いかとさえ思えて来ました。

それでくらくらとした目まいに気を使うのに疲れてしまい、本当にぼんやりポーッとして何思う事も無くただ寝ていました。

 どの位したでしょうか。ふと気が付くとくらくらとした目まいは治まり、

感覚も落ち着いた五感の感覚が戻って来ているように感じました。

背中に確りと畳の感覚を感じる事が出来ます。普段はこんなにどっしりとした物の受け止め方を感じているのだなと、

自分の知覚神経について初めて認識出来るのでした。

そう思うと、具合の悪さは健康を感じるという上では貴重な体験のような気がしました。

この時蛍さんは、こんな体調の悪さでさえも、何でも経験してみるものだなぁと思うのでした。

 体調が本調子に戻ったようなので、そ―っと目を開けてみます。

この時視覚も落ち着いていました。それで目の前に見える本堂の木造りの壁の木目と、

茶色系の色艶を確りと目に映し出してくれました。

すっきりとしてどっしりとした質感や木肌の模様をきちんと視認できます。

目に見える物がよく分かると蛍さんは思います。

 いつもこんなによく見えるかしら?、改めて目に映るものを、目で確認して自分は見ているのだなと考えると、

目の働き、目に映るものがどうやって自分に分っているのか等、人体の不思議とまでは考えが及びませんでしたが、

その見えて分かるというまでの繋がり、人の見るという行為がとても大変な事で、

その仕組みが人にとって大変貴重な物だと分かって来るのでした。

 


ダリアの花、57

2017-02-26 17:07:42 | 日記

 「おーい、蛍。」

にこやかな明るい声、それは蛍さんを呼ぶ彼女の父の声でした。

蛍さんは声のした方を見てみますが、父の姿は全く見えません。声はすれども姿は見えず。

声がしたのは廊下の入り口の付近でした。が、入り口を見ても彼女の目に映るのは戸口だけ、父どころか人の姿形も見えません。

「おいおい、蛍。」父の声はさっきより大きくて間近になって来ました。しかし、やはり声のする方には誰も見えません。

蛍、蛍、おいおい、見えないのかい?父の声に、蛍さんは如何も父が見えないという自分の方がおかしいのだろうと感じます。

これだけ間近に父の声が聞こえるのに、いくら頭を振り回して声の付近を探しても、そこに父は全然見えないのです。

 「うん、お父さん何処にいるの?」

蛍さんは声は聞こえるけれど、お父さんの姿は全然、何処を探しても見当たらないと答えました。

うーん、ちょっと待てよ、と困った感じで父は言います。お前1度目を閉じて、頭を振り回さないでじーっとして、

少し頭を落ち着けてから、そ―ッと目を開けてごらん。そう父はアドバイスしました。

 蛍さんは父に言われた通りに目を閉じると、じーっと静かに頭を落ち着かせてみます。あれこれ考える事も止めました。

頭の中も、外も、じーっと落ち着かせてみたのでした。

彼女はしばらく目を閉じていると、辺りがしーんとしているだけに、何だか暗い中にいるのが不安になってきました。

もういいかなと、そ―ッと瞼を上に上げてみます。

瞼が上がると、それと一緒に目玉がくらくらします。あれれと蛍さんが声を出すと、

父の声がもう少し目を閉じていなさいと言いました。。蛍さんは目を開けるのを止めてこの声に従います。

 「じーっとしているんだよ、今お父さんが目の上からマッサージしてやるからな。」

そう父の声は優しく言って、蛍さんの両の目の上に、そ―っと手らしい物が触れると、優しく穏やかに撫でてくれるのでした。

 蛍さんはふと、ここはお寺の事、昔話に出てくる狐にでも化かされているんじゃないのかな、と思いました。

それで、

「本当にお父さん?」、狐じゃないよね。などと冗談めいた声で問いかけてみるのでした。

実は本当に蛍さんは半信半疑でした。何しろ父の姿は見えなかったのですから、声だけ父で、実はその姿は…。

そう思うと一刻も早く自分の目で父の姿を確認したいのでした。

 

 

 

 


ダリアの花、56

2017-02-26 14:57:01 | 日記

 蛍さんはぼーっとしながらも、頭の芯はひんやりとして妙にすっきりと目覚めているように感じました。

何故私はこんな寝心地の悪い廊下みたいな硬い所で昼寝なんかしたのかしら、と妙に思いました。

少しは利口な、というよりも、お利口さんな自分らしくないと感じました。

そこで、座り心地の悪い硬い木の床から、居心地の良い畳の縁に移動してほっと一息、

ちょこんと腰をかけて足を床に下ろしました。尚も周囲を見回してみます。ここで彼女は周りをよく観察して見ました。

何度見直してもそこは、彼女が最初に思い付いた、ここはお寺だという考えに変わりはありませんでした。

そして、どうして自分がここにいるのか、どうやってここ迄来たのか、それがまるで思い出せないのです。

彼女は自分で自分の事を自分ながらに不思議に思えて仕様がありませんでした。

 『如何やってここ迄来たのかしら、如何して私は覚えていないのかしら?』

蛍さんには、そんな今の自分の身の置き所が分からないという奇妙な状態の他にも、

今の自分の体が何処か妙でおかしいという、異変がある事にも気付いて来ました。

何だか今までに経験した事が無い不思議な状態なのです。未曽有の状態とでもいうのでしょうか。

 目覚めた直後から今まで、相変わらず頭がぼーっとしているようです。しかし頭の奥は確りシーンと覚めているのです。

自分の体が少し縮んだ様な感じがします。軽くですが、自分の体に何だか圧迫感を感じます。

また、さっきまでちゃんと見えていた目が今はぼんやりとして来ました。

それで、目に映る物がぼやけているなと、彼女が確り目を凝らして近くの物をみると、

見た物はちゃんと綺麗にきちんと見えて来るのでした。しかし、又何を見るともなく漫然と周囲を眺めると、

視界は曇りぼんやりとして来るのでした。

 蛍さんは目を擦ってみたり、頭を振り手で抱えてみたり、自分の周囲を近い所、遠い所とキョロキョロ見回してみたりしました。

その内、頭を振る事が億劫になって来ました。目を開いている事も物憂くなって来ました。

くらくらと、何度目かに周囲がぼやけて見えて来ると、蛍さんはまた眠くなって来たように感じました。

 ここで蛍さんは、自分で自分の事をこれは昼寝が足りないのだと判断しました。

これはあんな硬い床で寝ていたせいなのだと。それで、今度はこの畳の所でもう少し寝ようと考えるのでした。

自分の体をさっきよりは寝心地の良いこの畳の上に今しも横たえようとしたその時、蛍さんは自分を呼ぶ声を聞きました。