Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、42

2017-02-20 19:52:32 | 日記

蛍ちゃんは、この私や此処にいるお兄さん、もとい、おじさんの言う事をよく聞いて、

私達が言った通りにもう1度言葉を繰り返すのよ、いいかな、分かったかな。

では、練習しましょう。

「こんにちは。」はい、言ってごらん。

「こんにちは。」蛍さんは言われた通りに繰り返します。

「私は澄(すみ)です。」

「私は澄です。」澄っていうのは、おばさんの名前なの?

おばさんは笑顔でそうだと言います。そして、この横にいるおじさんは源(げん)と言う名前なのよと教えてくれます。

 そして、もう1度、言葉を繰り返す練習をしましょうね、と、

「澄は言います、お母さん元気ですか。」と言いました。

蛍さんも同じように言います。「澄は言います、お母さん元気ですか。」

それでいいわ、とても良くできたわよ、上出来上出来と女の人は嬉しそうに褒めてくれるのでした。

蛍さんもとても嬉しくなりました。結構面白い遊びです。

 「もうそろそろかな、初めてもいい頃だと思う。」

源がそう言うのを合図に、3人の繰り返し遊びが始まりました。これは蛍さんには、暇つぶしのよい遊びでした。

 先ずは源からです。

「源です、お父さん元気そうですね。」蛍さんは繰り返します。

「姪の蛍の口を借りて喋っています。」え、蛍の名前を言うの、自分で自分の名前を言うのは何だか変な感じ。

蛍さんの余計な言葉が入るので、源は苦笑いです。

 余計な事は言わないで、僕と、澄の言葉だけを繰り返すんだよ。と蛍さんに注意します。

フーンと、蛍さんは不承不承ですが、こういう決まりの遊びなのだと澄に説明されると、そのルールに従います。

 ではもう1度、源は前の言葉を繰り返しました。そして続けて言いました。

「この子を起こさないで、俺と澄の話を聞いてください。」

「俺達の話を信じてね。」

 

 


ダリアの花、41

2017-02-20 13:58:14 | 日記

 背広姿の男性は、喜び勇んだ勢いのまま、そのままちょっと待っててね、と言うと、急いで駆け出して行ってしまいました。

その勢いは、あれよあれよという素早さでした。

 その場に3人になると、若い男の人は蛍さんに向き直り、彼女に気に食わないなという感じの顔を向けました。

「お前今さっき、俺の事を睨んだだろう。」

そう言うと、俺はすごく嫌な気分になったんだと怒るのでした。

 「だって、お兄ちゃんだって私の事を抓ったでしょ。」

と蛍さんも負けてはいません。そうすると、男の人は、お前女のくせに男の俺に逆らうのか、しかも…、

と、怒りながらも言葉を切りました。言いたい事をぐっと飲み込んでいるようでした。

それでも彼はブツブツ独り言を言い始めました。

きちんと口を閉じる事が出来なかったのです。蛍さんに余程文句が言いたかったのでしょう。

 「ほんとに、如何いう育て方をしているんだ、あいつは。」

そう男の人は言って、「あいつ」という人に対して、ぷりぷりと怒っている様子でした。

蛍さんには、今まで話に出て行きた、あれもあいつもあの人も、全て同じ人に思えるのですが、詳細は全く分かりません。

 これを読んでいる皆さんにも分からない事でしょうね。その内、追々と分かってくるかもしれません。

 さて、男の人と女の人は蛍さんに話しかける事にしました。

彼女に何でも教えても何にもならない、自分達が此処にいても、何かを知っても如何にもならない。

そう今迄は思っていたのですが、そうでは無いという事が、立ち去った男性と話をしていて分かったからでした。

男の人は、女の人に彼から聞いた話を説明しました。

 「そんな事が?出来るの?本当かどうか早速やってみましょうよ。」

女の人は大層乗り気です。何だかとても嬉しそうでした。にっこりと笑って蛍さんの顔を見ました。

蛍さんは彼女の笑顔を見て、また何か揶揄われるのかなと思いました。

 「では、あなたの名前は蛍ちゃんだったわね。」

女の人が言います。これからお姉さんの言う事をよく聞いて、

「おばさんだろ、本とにそうだからおばさんにしといたら。」

そう男の人はちゃちゃを入れました。

もう、年寄り扱いして、と女の人はちょっとふくれっ面をした感じでしたが、

直ぐに考え直したようにおばさんでもいいわと言うと、ふふふと、

「いい、おばさんのいう事をよく聞くのよ、」

と、笑顔で言い直しました。


ダリアの花、40

2017-02-20 13:14:56 | 日記

そして、別離という物が理解できると、蛍さんはとても悲しい気分になって来るのでした。

 彼女が泣きそうな気配になると、女の人はくすっと笑いました。

「普通はね、間に合わなかったのよ。」

と言って、泣きべそを掻きそうな蛍さんのくしゅんとした顔を見て、ほんとに小さい子って可愛いわねと呟くのでした。

「お母さんの気持ちが分かるわ。」

 どうしようかしら、言おうかな、如何しようかな、言わないでおこうかな、言おうかな。そんな事を歌うように言って、

女の人は蛍さんを揶揄うように、そして楽しそうな悪戯っぽい瞳をして眺めていましたが、

蛍さんが本当に目に涙を浮かべ出したので、

「まぁ、泣かなくてもいいのよ、大丈夫だから。」

と励ますように言うのでした。

そして、あなたはちゃんとお父さんとお母さんの所へ帰れますよ、と教えるのでした。

 「あなたはね。」

私達は駄目だけど、向こうにも行けないし。私達自分でも自分達がどうなるのか分からないのよ。

そんな事を言うと、何だか元気が無くなるのでした。

 灰色の静寂の中、山の傍で蛍さんと女の人がじーっと待っていると、さっき居なくなった男の人2人が戻って来ました。

「結婚した、結婚したんだよ!。」

遂にあの2人は結婚したんだ、いやぁ、良かった。終わりまで見て来て本当によかった。

背広姿の男性はそう言い終わると、大喜びで頬を紅潮させて、やったーと片手を掲げて高く跳び上がりました。

 若い方の男の人はというと、蛍さんの見た目には、何だかそう嬉しくもない様子でした。

少し疲れた様子です。それでも愛想よく連れの男性に笑顔を浮かべると、

「いやあ、あの先があったとは思いませんでした。てっきり2人は別の人と結婚してそのまま終えるんだと思ってました。」

そう言うと、ちらっと蛍さんに責めるような一瞥をくれると、そっと後ろ手に片手を伸ばして、

蛍さんの頬を軽く抓るのでした。

 『何だろう?何故私は頬を抓られるのだろう。』

蛍さんには、今日起こる出来事が全て、全く体験した事が無い不思議な事柄だらけに思えるのでした。

抓られた頬を片手でさすりながら、恨めしそうに若いお兄さんの顔を見上げるのでした。

 


ダリアの花、39

2017-02-20 00:18:36 | 日記

 「困った子ね、直ぐに何処にでも行ってしまって。」

お兄さんも大変でしょうね。溜め息と共にぽつりとそんな事を女の人は言いました。

さっき行ってしまったお兄さんが大変な事をしているのだろうか?

私の為に大変な事をしているのだろうか?そう思った蛍さんは女の人に尋ねてみます。

 「お姉さんのお兄さんは、私の為に何か大変な事をしに行ったんですか?」

女の人は蛍さんの言った意味が直ぐには分からない様でした。その内合点したように、

今行った兄はそう大変な事をしている訳じゃないけれど、そういって、フフフと笑いながら、

今私が言った方の兄は、あなたが知っている方の兄よ。どう?分からないでしょう。

と本当に、蛍さんには何が何だか分からない会話が始まりました。

「行った」と「言った」、音だけでも混乱してしまい、蛍さんにはよく意味が分からなくなる話です。

 この後もダジャレのような話を少々すると、お姉さんは蛍さんの顔をしげしげと眺め、

そうね、分からないわねあなたには、年だけでもそうだもの。と言います。

如何でもいい事よ、私のいう事は気にしないでね。そう女の人は最後に言うと、

また前の時と同じように黙ったままで静かになってしまうのでした。

 蛍さんは先程女の人と男の人が言っていた、間に合わなくなるという時間の事が気になり出しました。

こんな事をしていて、その時間に間に合わなくなってしまうのではないかしら?ふとそう思ったので聞いてみました。

「時間は?私は帰れるの?間に合うの?」

あ、そうね、忘れていたわ。女の人がうっかりしていたという感じで答えました。

 「その件なんだけど、もう間に合わないのよ。」

にっこり笑ってお姉さんは答えます。蛍さんは何だかとても嫌な気分になりました。

「私帰れないんですか?」

真顔で聞いてみます。此処の事情が蛍さんにはよく分からなくても、

家に帰れなければ、両親はもちろん、祖父母にももう会えないのだ、という事くらいは彼女にも分かるのでした。