Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、4

2017-02-06 19:01:09 | 日記

  光君は女の人が行ってしまうと、お祖母様とウフフと微笑みました。

どうだった?良かったんじゃないあれで。にこにこして2人は話しをします。

あんな家や子供を捨てて出て行くような女の人、好きな人いないよね、うんうんと、2人で握手し合います。

墓所に消えた女の人と、この祖母と孫の3人には一体どういった関係があるのでしょう?

蛍さんには分かりません。

 それで、覚えているみたい?

いや、忘れているみたいだった。けれど、昨年よりは成長してたみたいだったよ。

去年はにこにこして、直ぐに、私蛍、ホーちゃんって呼んでね、と僕に話かけてきたけど、

今年は黙ったままこっちの様子を伺っていたからね。

おや、まあ、そうなの。蛍ちゃんはいけ好かない子になったんだね。

 そう祖母が言うと、光君はいや、分別がついたんだよと、にっこりして蛍さんに振り返りました。

その彼の微笑みを見て、『今泣いていたカラスがもう笑った』、そんな言葉が浮かんで来た蛍さんでした。

先ずは墓参りを済ませてからと、光君とお祖母様は本堂の陰から姿を現したお祖父様に気がつくと、

お祖父様におーい墓参りは、と呼ばれるままに、そそくさと墓所の方へと急ぎ姿を消してしまいました。

  1人取り残された蛍さんは、今の出来事に何が何だか、狐につままれたような気分で小川の畔に立っていました。

「おーい、蛍。」

今度は蛍さんのお父さんです。

お寺の廊下から蛍さんに声を掛けています。蛍さんはお父さんのいる方へと駆け出しました。

もう帰るの?蛍さんは笑顔になると、うきうきしてお父さんに声をかけました。

いや未だだよ、ちょっと用が出来てなと、お父さんは緊張した面持ちで答えます。

蛍さんはがっかりしました。お寺でこれ以上何もする事がない彼女には、退屈な時間がまだまだ続きそうです。


ダリアの花、3

2017-02-06 13:48:20 | 日記

 男の子のお祖母さんは、はい、よしよしと言って泣きじゃくる男の子の背中をさすりました。

「あの子、僕の事をデブって言った。」

男の子のこの声が聞こえた蛍さんはびっくり仰天しました。

違う、そう思うと、何とか男の子の家の大人の人に事情を説明しようと思います。

私はそんなこと一言も言って無いわ。

「私、デブなんて言葉、一言も言って無いわ。」

蛍さんは主張します。

「桃太郎や金太郎みたいって言ったのよ。」

そう蛍さんが言うと、またか…そんな言葉が呟かれて、

お母さんらしい人が恨めしそうな顔をして蛍さんに振り返りました。

「それがデブという事なのよ。」

この子にとってはそうなのだと女の人は言うのですが、蛍さんにはまだ理解できません。

 かっこいい男の子という意味で桃太郎や金太郎を使う蛍さんには、

絵本で彼らが概ねデブに描かれているという事にまで気が回らないのでした。

 「絵本の中の桃太郎や金太郎は、どんな風に絵が描いてあるかしら?」

女の人が迷惑そうな目付きをして蛍さんに問いかけてきます。

「もちろん、カッコイイ大将みたいに描いてあるよ。」

蛍さんは意気揚々と答えます。

 この蛍さんの答えに、女の人は興味なさそうにそうとだけ言うと、何だかむしゃくしゃしたような感じで、

よいよいされる男の子と、男の子をあやすお祖母さんをその場に残すと、

墓参りの途中だったからと、さっさと墓地の方へ引き上げて行ってしまいました。


ダリアの花、2

2017-02-06 13:22:31 | 日記

 誰かが自分の後ろにいるとは思っていなかった蛍さんの事、声に吃驚して振り向いて声の主を見ました。

そこには声の通りの男の子が立っていました。

どっしりとして、丸っぽい顔をした男の子です。

少し目を輝かせて笑顔で蛍さんの驚いた顔を眺めています。

蛍さんはこの男の子に見覚えがありませんでした。初対面の子だわと思いました。

 それで、目を丸くすると、男の子の頭の先から足の先、上から下、下から上へと眺めてみます。

今いた場所から少し離れて、男の子の全体像を観察してみます。

『桃太郎さんか金太郎さんみたい。』

男の子のどっしりとした風体に、よく絵本で見る昔話の英雄か豪傑のようだと蛍さんは思いました。

 「僕、金太郎さんか桃太郎さんみたいだね。」

てっきり、自分より年下だと思った蛍さんは、褒め言葉のつもりで男の子に言いました。

年下なのに、自分の知らない事を知っている、ちょっと癪に障った蛍さんでしたが、

男の子の堂々とした風格に、やはりここは一目置いたつもりでした。

お姉さんの私が、懐の広いというところを見せてあげよう、そんな気持でもありました。

途端に男の子はくしゃくしゃと顔を崩して、わーんと泣き出してしまいました。

 男の子も桃太郎や金太郎はもちろん知っています。

そして、その昔話の中に登場してくる彼らがどのように描かれているのかもよく知っていました。

 突然の男の子の泣き声に驚いて、男の子の家の人でしょう、本堂の横、お墓のある方向から女の人が2人走って出て来ました。

この男の子のお母さんと、お祖母さんのようです。

当然、傍にいた蛍さんは、若い女の人、お母さんでしょう、から、ぎろっと睨まれてしまいました。

蛍さんが叩くか何かしたと思われたのです。

 この若い女の人は、直ぐに男の子を抱き上げてよいよいし始めました。

蛍さんが驚いた事には、男の子は泣き止むどころか返って激しく泣き出しました。

まるで女の人に抱かれたことを嫌がるように、手足も激しく振ってバタバタ暴れ始めました。

こうなると抱き上げた女の人はお手上げです。手の施しようがなく、男の子を落としても大変だと思ったようです。

女の人が男の子を地面に下ろすと、男の子は直ぐに何か言って、

隣に来ていたお歳の女の人、お祖母さんでしょう、に駆け寄って甘えたように泣き付くのでした。