光君は女の人が行ってしまうと、お祖母様とウフフと微笑みました。
どうだった?良かったんじゃないあれで。にこにこして2人は話しをします。
あんな家や子供を捨てて出て行くような女の人、好きな人いないよね、うんうんと、2人で握手し合います。
墓所に消えた女の人と、この祖母と孫の3人には一体どういった関係があるのでしょう?
蛍さんには分かりません。
それで、覚えているみたい?
いや、忘れているみたいだった。けれど、昨年よりは成長してたみたいだったよ。
去年はにこにこして、直ぐに、私蛍、ホーちゃんって呼んでね、と僕に話かけてきたけど、
今年は黙ったままこっちの様子を伺っていたからね。
おや、まあ、そうなの。蛍ちゃんはいけ好かない子になったんだね。
そう祖母が言うと、光君はいや、分別がついたんだよと、にっこりして蛍さんに振り返りました。
その彼の微笑みを見て、『今泣いていたカラスがもう笑った』、そんな言葉が浮かんで来た蛍さんでした。
先ずは墓参りを済ませてからと、光君とお祖母様は本堂の陰から姿を現したお祖父様に気がつくと、
お祖父様におーい墓参りは、と呼ばれるままに、そそくさと墓所の方へと急ぎ姿を消してしまいました。
1人取り残された蛍さんは、今の出来事に何が何だか、狐につままれたような気分で小川の畔に立っていました。
「おーい、蛍。」
今度は蛍さんのお父さんです。
お寺の廊下から蛍さんに声を掛けています。蛍さんはお父さんのいる方へと駆け出しました。
もう帰るの?蛍さんは笑顔になると、うきうきしてお父さんに声をかけました。
いや未だだよ、ちょっと用が出来てなと、お父さんは緊張した面持ちで答えます。
蛍さんはがっかりしました。お寺でこれ以上何もする事がない彼女には、退屈な時間がまだまだ続きそうです。