Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、27

2017-02-15 14:58:50 | 日記

 光君が行ってしまうと、蛍さんの祖父は光君の祖父に話し掛けました。

「あんたさん、この状態が良くないという事は分かっておいでだね。」

「まあ、分かります。」

光君の祖父は言葉少なでした。意識が無くいびきを掻くという状態は、本当に良い状態とは言えません。

 「しかし、あんたの孫も悪いんだよ。あの子は苦しんでいる。」

そう光君の祖父は言い出します。

光君が?何を苦しんでいるのだろうと蛍さんの祖父は思います。

毎年酷い目にあっているのは孫の蛍の方です。それなのにいつもこちらの方で謝って来ているのです。

何を光君の方で苦しむ必要があるのでしょう。蛍さんの祖父には全く合点がいかないのでした。

 「あの子はね、記憶力がいいんだ。毎年お盆が終わると、こういった出会いの後で丸々1年間苦しんでいるんだよ。」

分かりますか、と光君の祖父は言うのでした。

「分かりませんね、謝ってもらって偉い立場になるのに、何を苦しむ必要があるんです。」

蛍さんの祖父はこう答えを返しました。

あんたさんじゃね、実際分からないかもしれないね。

光君の祖父は向こうが本当に分からないという事を、本当にそうだろうと思いながら説明します。

 「あんた自分より年下の者に庇われて嬉しいかい。」

蛍さんの祖父はもう1人の祖父の言う事がよく分からないのです。何とも返事のしようがありません。

例えば、あんたさんはあのお宅の息子さんに庇われたらどう思います。嬉しいですか?

蛍さんのお祖父さんは、その時の様子を想像するとムッとして眉根に皺が寄りました。

 「ほら、腹が立つでしょう。」

人間自尊心という物が有ってね、家の孫はまた、それが人一倍強いんですよ。

自分が悪いのに年下に庇われて、しかも悪くないのにごめんなさいと言って謝って来るんですよ。

感じ悪いじゃないですか。お宅の一家は皆そうだ。

 

 

 

 


ダリアの花、26

2017-02-15 14:26:14 | 日記

 蛍さんの方はというと、全く容態の変化がありません。ピクリともせずに意識不明のままの状態でいました。

辺りには何もなく、夜とも思えないのですが暗い闇の中に1人蛍さんは佇んでいました。

歩いてみるのですが、ここが草原なのか、丘なのか、踏みしめる地面は何かしらあるのですが、

足に触れて来る物が有るのか無いのか、それ自体よくわからない場所でした。

 暗いなぁと思って、ここは何処だろうと彼女が思っていると、誰かの手が自分の手を握ります。

おやっと蛍さんは思いました。声も無く手だけの相手ですが、蛍さんの手を引いて行く先を先導してくれるようです。

引いてくれる手は暗闇で見えませんが、彼女にはそのままついて行って良い安心感を与える手でした。

彼女は誰だろうと思いましたが、導かれるままに一緒に歩いて行きました。

不意にぼんやりと薄く明るさが差して来ました。その薄明るい光の中に祖父の顔がぼんやりと見えます。

祖父の声が聞こえます。声はほーちゃん、ほーちゃん、気が付いたかいと言ったようです。

 「ああ、お祖父ちゃん、」お祖父ちゃんの傍まで来たんだ、そう思うと蛍さんはほっとして、

ぐうぐういびきを掻くと、現実世界で、今度は安堵した深い眠りへと落ち込んで行くのでした。

 「こいつ、まだ狸寝入りして。」

光君は起きかけて蛍さんがまた目を閉じて眠り込んでしまったので腹を立てました。

すっくと立ちあがると、寝込んでいる蛍さんの脇腹をどんと蹴りました。

「こら!」

流石に蛍さんの祖父も怖い顔をして光君を叱りました。

この時、驚いた事に光君の祖父も、お前はあっちに行っていろと怒鳴りました。

そして立ち上がり、光君を蛍さんの傍から離すと、両手で庇うように抱え、向こうの廊下、

墓所のある方から本尊の後ろへ続く廊下に向けて、光君を前に軽く押し出しました。

「お母さんにそのたん瘤を冷やしてもらいなさい。」

そう言って彼の手を離しました。


ダリアの花、25

2017-02-15 14:23:12 | 日記

 『もしかしたら、この子に何か恨みがあるというのでは無くて、私に対して胸に一物があるのだろうか?』

そんな風に蛍さんの祖父は考えてみるのでした。ここは腹を割って聞いてみようか。

蛍さんの祖父は光君の祖父に話しかけました。

 「あんたさん、何かうちの孫、または私個人に何か恨みでもおありなさるのか。」

率直な物言いに、光君の祖父も何か言いたげな様子になりました。

「私も祖父です、孫の可愛さは分かります。あんたさんが自分の孫を可愛いと思っているのも分かりますよ。」

そう蛍さんの祖父が言うと、光君の祖父はふんという感じでそっぽを向きました。

「あんたに何が分かると言うんだ。」

これには人慣れした蛍さんの祖父も苦笑いしてしまいます。

 『流石にお大臣ともいえる名士のお家柄のお坊ちゃんだなぁ』

人の顔色を見ながら育ってきた自分とは違い、我が儘一杯、思いの通らぬ事無しで育ってきた、

やっぱりお坊ちゃんなんだなぁと思います。

世の荒波に晒されて、否応なく人生を生き抜いて来た自分です、

相手の事を妬むというより、何時如何なる時にでも自分を通せる、そんな立場に立てる相手の立場を羨ましく思いました。

 『何が原因で臍を曲げているのだろう?』

蛍さんのお祖父さんはその原因を探ろうと思います。

「まあ、学の無い私にはあんたさんの気持ちは分から無いでしょうが、

何か胸に一物おありなら正直に言っていただけませんか。」

私はきちんと言ってもらわないと物事がよく分からない性質だから。そう蛍さんの祖父が愛想よく申し出るので、

光君の祖父も何とはなしに心動かされるのでした。

「 実は…」

光君の祖父がそう話し出そうとした時、急に光君が身を起こしました。

「祖父ちゃん、騙されるなよ。」

そう言うと彼は立ち上がり、

「あっちだって狸寝入りしてるんだ。」

そう言うと光君は、蛍さんにそうだろと声をかけました。


あります

2017-02-15 09:40:13 | 日記

 以前2回か3回乗ったことがあります。1度は受験時期にだったと思います。

試験が終わって寝台列車で帰って来ました。

寝台列車の区間は東京からの事が多かった気がします。

そう回数を乗ったわけでもないのですが、期間が長く離れていたので、車室の変化が面白かった物です。

古くはベッドが並んでカーテンで目隠しされたという、映画でよく見たタイプでした。

父が下のベッドで私が上、映画を思い浮かべながらわくわくして乗車、睡眠、早朝の下車と、貴重な体験でした。

 直近の乗車はもう15年近く経ったでしょうか、趣味の語学関係のイベントに参加した帰りでした。

車内が近代的になり、個室には鍵が掛けられるようになっていました。共同ですが車両にはシャワー室も完備されていて、

物珍しく思ったものです。

シャワー室を見学してみようかなと扉を眺めていると、丁度シャワー使用後の髪を濡らした男性が出てきました。

その人は私が待っていたと思ったらしく、お待たせしました、どうぞ。と言われました。

 どうしようかなと、通路には誰もいなくて、寝るにはまだ間がある時間でしたから、私もシャワーをしようかなと、

何でも興味のある方なので、にっこり頷いて、シャワー室の見学だけのつもりだったんですけど、と言うと、

気持ちいいですよ、どうぞ、どうぞ。とシャワー後の男性はにこやかに言って、そのまま自分の車室に帰って行きました。

 勧められるままに、一旦、私もシャワーするつもりで自分の車室に着替えなど取りに行ったのですが、

汽車旅行するつもりで来たわけではなく、東京でも1泊のみ、そう着替えの持ち合わせはありません。

『やっぱりやめよう。』

降りる駅の到着時間も早朝、勧めてくれた男性も見ず知らずの人、と、ここは安全第一。

そのまま車室の鍵を掛けて、のんびり就寝までの時間を過ごして寛いでいました。

 車内では、車掌さんが1度切符拝見でノックして来たのみ、プライベートに普通に個室で旅が出来る、

しかも当時は割安だったと思います。

普段と違った、ベッドでゆっくり眠りながらの電車の乗車、面白いし、

大抵は早朝の到着駅での下車という、普段見慣れない駅やその時間のひんやりとした空気の違いを感じる事が出来ます。

一風変わった旅の経験は目新しく新鮮なものです。ちょっとしたスリルも感じたのは確かです。