光君が行ってしまうと、蛍さんの祖父は光君の祖父に話し掛けました。
「あんたさん、この状態が良くないという事は分かっておいでだね。」
「まあ、分かります。」
光君の祖父は言葉少なでした。意識が無くいびきを掻くという状態は、本当に良い状態とは言えません。
「しかし、あんたの孫も悪いんだよ。あの子は苦しんでいる。」
そう光君の祖父は言い出します。
光君が?何を苦しんでいるのだろうと蛍さんの祖父は思います。
毎年酷い目にあっているのは孫の蛍の方です。それなのにいつもこちらの方で謝って来ているのです。
何を光君の方で苦しむ必要があるのでしょう。蛍さんの祖父には全く合点がいかないのでした。
「あの子はね、記憶力がいいんだ。毎年お盆が終わると、こういった出会いの後で丸々1年間苦しんでいるんだよ。」
分かりますか、と光君の祖父は言うのでした。
「分かりませんね、謝ってもらって偉い立場になるのに、何を苦しむ必要があるんです。」
蛍さんの祖父はこう答えを返しました。
あんたさんじゃね、実際分からないかもしれないね。
光君の祖父は向こうが本当に分からないという事を、本当にそうだろうと思いながら説明します。
「あんた自分より年下の者に庇われて嬉しいかい。」
蛍さんの祖父はもう1人の祖父の言う事がよく分からないのです。何とも返事のしようがありません。
例えば、あんたさんはあのお宅の息子さんに庇われたらどう思います。嬉しいですか?
蛍さんのお祖父さんは、その時の様子を想像するとムッとして眉根に皺が寄りました。
「ほら、腹が立つでしょう。」
人間自尊心という物が有ってね、家の孫はまた、それが人一倍強いんですよ。
自分が悪いのに年下に庇われて、しかも悪くないのにごめんなさいと言って謝って来るんですよ。
感じ悪いじゃないですか。お宅の一家は皆そうだ。