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Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、37

2017-02-18 20:18:42 | 日記

 1人になってみると、この灰色の空間はなんだか寂しいような所でした。

何処にでも行ってはいけないと言われていた蛍さんです。それでも、うろうろと山の傍で、山から離れないように、

山の見える場所の近くだけのつもりで、付近を所在無げに行ったり来たりしていました。

 『2人が探しているのはどうやら人らしい。』

そう思うと、こうやって少しうろついている間に、自分でもその誰かに出会えるかもしれない。

蛍さんはそんな事を考え始めました。

 自分でその誰かを探し当てられれば、あの2人を頼らずに自分自身で何とか出来た事になる。

自分の事は自分で、人に迷惑を掛けない、そんな父の教えが、ここでも彼女の胸の内に確固として芽生えるのでした。

 と、彼女は背広姿の男性に出会いました。結構年配の人のようですが、老人というような年齢ではありません。

「おやっ、…」

その人は蛍さんを見ると、一寸微笑んで彼女の傍にやって来ました。

「君、如何したの?まだここの人じゃないでしょう。」

そうにこやかに蛍さんに言います。そうなのかな?多分そうなのだろうと蛍さんは思いました。

 「多分そうだと思います。」

余りうろうろしたら帰れなくなるって言われたから、そう蛍さんが答えると、その男の人は、

「困った子だね、じっとしているように言われていたんだろう?」

何処から来たの?と、山の傍から来たという蛍さんを、元の灰色の山の傍まで連れて行ってくれるのでした。

 少しだけ歩き回ったつもりの蛍さんでしたが、男の人に手を引かれて戻ってみると、

かなりの距離があいている場所を移動した感じでした。

霞のような、細くたなびく雲のような物が、蛍さんと、彼女の手を引く男性の脇を素早く流れて行きました。

 「あ、来た来た。」

お兄さん、戻って来たわよ。さっきの女の人がそう言う声が聞こえました。

そして、蛍さん達は元いた灰色の山の傍に立っていました。そこにはもうあの若い男女の2人が戻って来ていました。


ダリアの花、36

2017-02-18 19:41:19 | 日記

 「お兄さん、何か面白い事があったの?」

何処からともなく女の人が1人、笑っている男の人の傍らに現れました。そして何やら2人でぽそぽそ話を始めました。

「ああ、言うわよ、そんな事。」

女の人はそう言って、そんな事は何でもないという感じで、まだ男の人が続けようとする話を事も無げにかわすと、

やはり探したが見つからないと、かなり困った調子で男に人に話しました。

「困ったな。」

あいつがいないと戻せないだろう。うんと、2人は蛍さんから離れたところでそのまま、彼女の方を気の毒そうに見やると、

彼女の傍らに戻る事を躊躇しているようでした。

 女の人の声を聞いていた蛍さんは、その声がここに来た時最初に聞いた女の人の声かどうか考えていましたが、

彼女にはどうもはっきりしませんでした。違う人といえば、違う人の声にも聞こえたからです。

そうしている内にも、どんどん時は流れて行きます。

 「だめだな、もう戻せないな。」

そうね、と女の人も寂しそうな表情をするのでした。

「お父さん、また悲しむんだわ。」

2人して何だかしんみりとした雰囲気に包まれてしまいます。

 「でも、お兄さん、もう少し探してみましょうよ、完全に駄目になるまでにはまだ少し時間はあるでしょう?」

女の人に言われると、男の人もそうだねと言って、半ば諦めていたようでしたが、

今度は自分が見てくる。お前よりは僕の方が早いから、ここの事はお前よりよく知っていると思う、そう言うと、

じゃあここは任せたよと女の人に頼み、どこかへ去って行きました。

 女の人は男の人とは違って何も蛍さんに話しかけて来ないで、蛍さんから少し離れたところで彼女の事を見ていました。

蛍さんも、彼女に話しかけるという事をしなかったので、2人の間には静かな時が流れて行きました。

と、女の人は不意に蛍さんの傍にやって来ました。

 「こんな事をしていても時間が経つばかりだから、私もちょっとあの人を探してくるわ。」

そう言って、1人でも大丈夫ね、ここから動かないでじっとしているのよ、と言うと、

「あちらこちらに行くと、ここから帰れなくなりますからね。」

そう脅すような口調で蛍さんに言い含めると、彼女も誰かを探しに出掛けて行くのでした。

蛍さんは灰色の山の側に1人取り残されてしまいました。

 


ダリアの花、35

2017-02-18 19:04:05 | 日記

 ふと気が付いて、蛍さんは男の人や自分の周りを見回してみました。

見た事も無い所です。山があるから遊び場かな?そんな事を思ってみます。

 「お兄ちゃん、ここは何処?」

蛍さんは男の人に聞いてみます。此処かい、男の人はちょっと考えて黙っていました。

そして、言っても分からないだろうけど、言えば、『中間地点』だな、と答えるのでした。

そして男の人はフフフと笑います。何だか嫌味っぽい笑い方でした。

君はまだ帰れるけど、僕達はもう帰れない、ここはそういう中間地点なんだ。

『僕達?』そう言えば、女の人がもう1人いたみたいだったと蛍さんは思います。

 ここで目覚める少し前に、蛍さんには男の人と女の人の2人の声が聞こえていたからでした。

男の人の声は、この目の前の男の人の声だと蛍さんは思います。

そうすると、女の人は何処へ消えたのでしょうか?、声を聞いていてすぐに目が覚めたのに、

蛍さんがはっきり目覚めた時、目の前にはこの男の人1人しかいなかったのでした。

 「女の人は?」

もう1人女の人もいたんでしょう、と、彼女は男の人に聞いてみます。

「何でも聞く子だね、そう何にでも興味を持ってあれこれと聞くものじゃないよ。」

特にここではそうだと、その男の人は困った顔をして蛍さんに釘をさすのでした。

「いいね、ここで見聞きした事は忘れてしまう事、後で覚えていないように何でも見聞きしない事。」

今度は蛍さんが困ってしまいました。

「お父さんから、何にでも興味を持って、不思議だなと思ったら、誰でもいいから何かとか、

何故かとか聞いてみるんだよって、言われているから。」

と訴えてみます。

「あれが」

一寸口を開けて、小馬鹿にしたような顔をして、口に拳を当てると、男の人はくっくっくと押し殺したような笑い声を立てるのでした。

そして、笑いを堪え切れなくなったようです。一寸ごめんね、そう言うと男の人は蛍さんからさっと離れると、

蛍さんの少し目の先で、さも可笑しいという具合に、はっははは…と体をくの字に曲げて大笑いをしたのでした。


ダリアの花、34

2017-02-18 18:34:20 | 日記

 『あの様子では、あの人はもうここへは戻って来られないのだろう。』

蛍さんの祖父は思います。

目の前の蛍さんはまだぐうぐう鼾を掻いていましたが、この時くっと鼾が止まりました。

祖父はハッとします。思わず蛍さんの顔に自分の顔を近付けて様子を窺います。

と、むにゃむにゃとその可愛らしい唇を動かして、何やら寝言など言うようです。

フフフと祖父は笑うと、いい夢でも見ているのかしらとまだ幼い女の子の孫を微笑ましく思います。

 『また戻って来たの。』

『しょうがないよ、あの脇への一撃が響いたんだよ。』

せっかく返したのに、そうそう隠しても置けないんだから、そう若い男女が話をしています。

蛍さんは目覚めました。

 不思議な部屋でした。何だか作り物のお部屋にいるみたいです。周りは皆灰色の造形物なのでした。

床も、壁も(有ればですが、広い空間のようでした)、天井も灰色です。傍には少し離れたところに灰色の山、

そう大きくない、家の2階まで届くかな程度のぽそぽそとしたモルタルのような物で出来た灰色の山が1つありました。

蛍さんがはっきり目を覚ますと、女の人は何処かに消え、若い男の人だけが残っていました。

その若い人は蛍さんにとって見知らぬ男の人でしたが、親しそうに彼女に話しかけてきました。

 「よく来るね、今日は2度目だよ。」

折角コッソリ返したのに、見つかったらもう帰れないよ。しょうがないなぁ。

その男の人は酷く怒ったような顔で蛍さんに言うので、彼女は意味が分からず困ってしまいました。

「そんなこと言って怒られても、私には何を怒られているんだか全然分から無いわ。」

そう蛍さんは男の人に言ってみるのでした。

 怒る?ああ、僕は君に怒っているんじゃないんだよ。そう男の人は言って、彼女を安心させるようににっこり笑うと、

君が此処へ来る原因になったものに怒っているんだよ。そうだよ、もうものなんだ。僕達もね。

もの?何の事だろう。蛍さんには全く不思議な事だらけでした。


ダリアの花、33

2017-02-18 09:35:39 | 日記

 「あれは、灯篭でしょうか?」

「そうですね、燭台というか、夜、蝋燭を灯して中に入れておくんですよ。綺麗な物です。灯がね。」

夜来られると本堂はこの燭台に点る灯りが、ずらっとこの廊下の上に並んで、おかげで結構幻想的な雰囲気になりますよ。

そう微笑んで光君の祖父は説明する。

 「あんたさん、何でもご存じなんですねぇ。」

蛍さんの祖父は感心して光君の祖父を見やった。

普段とは違う幻想的な燭台の灯り達の風景、光君の祖父はその光景が好きで、

気が向くと用も無いのにわざわざ夜にこの本堂まで灯りを見るために足を運ぶ時もあったのでした。

 『私の好きなこの灯篭型の燭台が、よりにもよってあの子の頭に落ちるなんて…』

何か不思議な因縁、胸騒ぎを感じる光君の祖父なのでした。

 その時、本堂の奥、墓所の方の廊下の端から、光君の母が顔を出しました。

切羽詰まったようなその顔の雰囲気、憔悴したような、悲壮な何かを訴えるような娘の表情。

光君の祖父は何かしらの悪い予感が当たった事を感じるのでした。

 「父さん」

遠慮したような小さな声で本堂の脇から娘は父を呼ぶのでした。

「何だい、用があるならこっちへおいで。」

と父は手招きしますが、娘の方は廊下の端でうろうろと、こちらへ来るのを躊躇っています。

「如何したんだろう、変な娘だ。」

光君の祖父が蛍さんや彼女の祖父に遠慮して、その場を離れられ無いでいる事に蛍さんの祖父は気付きました。

 「こちらはいいですから、行って来られるとよいですよ。」

そう蛍さんの祖父が申し出ると、光君の祖父はどうもと喜び、あなたは気が利く人ですねと一言お礼のように言うと、

「では、一寸行って来ます。またすぐに戻りますから。」

そう言ってから、思い切ったようにきちんと蛍さんの祖父に向き直ると再び言った。

「家の孫が、お宅のお孫さんに対してとても酷い事をしてしまい、大変申し訳い事でした、お詫びいたします。」

と、まだ寝ている蛍さんの顔を見やり、その祖父を見て一礼すると、急いで立ち上がり、彼の娘の方へと去って行くのでした。