1人になってみると、この灰色の空間はなんだか寂しいような所でした。
何処にでも行ってはいけないと言われていた蛍さんです。それでも、うろうろと山の傍で、山から離れないように、
山の見える場所の近くだけのつもりで、付近を所在無げに行ったり来たりしていました。
『2人が探しているのはどうやら人らしい。』
そう思うと、こうやって少しうろついている間に、自分でもその誰かに出会えるかもしれない。
蛍さんはそんな事を考え始めました。
自分でその誰かを探し当てられれば、あの2人を頼らずに自分自身で何とか出来た事になる。
自分の事は自分で、人に迷惑を掛けない、そんな父の教えが、ここでも彼女の胸の内に確固として芽生えるのでした。
と、彼女は背広姿の男性に出会いました。結構年配の人のようですが、老人というような年齢ではありません。
「おやっ、…」
その人は蛍さんを見ると、一寸微笑んで彼女の傍にやって来ました。
「君、如何したの?まだここの人じゃないでしょう。」
そうにこやかに蛍さんに言います。そうなのかな?多分そうなのだろうと蛍さんは思いました。
「多分そうだと思います。」
余りうろうろしたら帰れなくなるって言われたから、そう蛍さんが答えると、その男の人は、
「困った子だね、じっとしているように言われていたんだろう?」
何処から来たの?と、山の傍から来たという蛍さんを、元の灰色の山の傍まで連れて行ってくれるのでした。
少しだけ歩き回ったつもりの蛍さんでしたが、男の人に手を引かれて戻ってみると、
かなりの距離があいている場所を移動した感じでした。
霞のような、細くたなびく雲のような物が、蛍さんと、彼女の手を引く男性の脇を素早く流れて行きました。
「あ、来た来た。」
お兄さん、戻って来たわよ。さっきの女の人がそう言う声が聞こえました。
そして、蛍さん達は元いた灰色の山の傍に立っていました。そこにはもうあの若い男女の2人が戻って来ていました。