Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、61

2017-02-28 23:13:11 | 日記

 「父さん、もう駄目だよ。」何をしてももう手遅れだろう。蛍さんの父は祖父に言いました。

それでも、もう駄目だと分かっているからこそ尚更に不憫で可愛いものだろうに、

何でも途中にして放り出して、投げやりだなお前は。

そう祖父は言って、お寺の奥様に文句も言えません、怒りの全てを八つ当たりの様に父にぶつけるのでした。

俺に当たらなくても、と父も分かっていて物調面をして奥の座敷へ入って行きました。

奥様の方もバツが悪いので、祖父と顔を合わせないように静かに台所の方へ周りました。

 さっきまで元気だった幼い子が亡くなったと思うと、心情的にも直ぐにその子の遺族の顔を見られませんでした。

今まで一緒だった蛍さんの父の、静かに嘆く様子を見ていると、やはり自分にも目に込み上げて来る物が有ります。

もらい泣きというものでした。奥様はそんな自分の中に湧き上がってくる悲しみを払拭するように、

ついぞんざいに蛍さんを座布団に投げ下ろして仕舞ったのでした。とても座敷には入れませんでした。

 蛍さんの方は、具合が悪いからと何時もより優しくされたり、そうかと思うと酷く無造作に放り投げられたりと、

大人の扱いの適当さに如何なっているのかと呆れて仕舞いました。正直腹が立っていました。

それでもふっかりとした座布団の上で横になると、気持ちよく、暖かく、そのままじーっとして休んでいました。

ドスンと下ろされて、また頭が少しくらくらして頭痛もして来たので、自分でも大事を取ってゆっくりと座布団の上で温まっていたのです。

 「お前大体、その手のタオルは自分の子の頭を冷やすのに持って行ったんだろう。なんでまだ手に持っているんだ。」

祖父の声が隣の部屋から聞こえて来ます。

父が祖父に言われて蛍さんの所へやって来ました。ほいと濡れタオルを蛍さんの頭の上に載せて行きました。

体が温まり、頭の冷えたタオルが心地よく感じられるようになると、蛍さんはお風呂にでも入っているような感じを受けました。

「あったかーい、気持ちいー。」

そんな事を呟きます。そしてまた眠くなって来ました。心地よい暖かさの中ですやすやと寝込んでしまいました。

「ちゃんと額にタオルを載せて来たんだろうな。」

奥座敷に戻って来た父に祖父は念を押しました。頭に載せて来ただけという父に、

「最後まできちんと世話をしてやるのが親だろう。」

と祖父が諭して、父はまた蛍さんの傍まで戻って来ました。


ダリアの花、60

2017-02-28 11:57:21 | 日記

 『父さんもこんな感じだったのかな。』

こんな胸を締め付ける思いを父は何回も経験したのだろうか。そう思うと、やはり父だなと、

親という者は大変なものだなと思うのでした。

今までそんな悲しい素振りやつらい思いを周囲に感じ取らせる事無く父は来たのだ、

やはり父親という者は偉いものだと思うのでした。

そして、こんなつらい経験をして、自分も少しは父親という強者に近づいたのだと思うのでした。

 『折角ここ迄育ったのに、折角ここ迄育ってきたのになぁ、この世に縁のないやつだ。』

そう心の中で繰り返し思いながら、蛍さんの父はつい口に出しても呟いてしまうのでした。

この時、蛍さんはさっきよりはかなり感覚もしっかりし、気分も良くなっていましたから、

父がこう呟くのを聞いて大げさだなぁと思いました。自分はそんなに悪いわけでは無いと思っていたのです。

「お父さん大丈夫だよ、昼寝してただけなんだから。」

病気じゃなんだからと蛍さんは笑って見せます。父は父で、これが昼寝のせいだと思っている娘が異常だと分かるので、

何とも説明の仕様が無く、話す言葉もありませんでした。

 廊下の入り口をくぐると、お寺の奥さんに出会いました。

「娘さんの具合はいかがですか?」

大した事も無いのでしょう、心配無用でしょう。と声をかけられて、蛍さんの父はいやぁと微笑んで見せたものの、

「もう駄目な様です。」

本人は何も覚えていなくて、具合が悪いのは昼寝のせいだと思っているんです。

体ももうこんなに冷たくなってしまって、そう長くはないでしょう。そんな事を力なく言うのでした。

 「それでは、救急車は断りましょう。」

奥さんもしんみりと言うと父を手伝って蛍さんの足の方を持ち、続きの座敷の間の、前の座敷まで2人で蛍さんを運びます。

皆は襖を隔てた奥の座敷に集まっていました。

皆から見えないように、襖の影に2枚の座布団を並べます。その上に蛍さんをよいせと載せました。

もうだめと聞いていたので結構ぞんざいです。ドスンという音に、座敷にいた祖父がびっくりしました。

お前何をしているんだ、そ―っと下ろさないと駄目じゃないか。と父を叱りました。