Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、55

2017-02-25 15:25:57 | 日記

 歩き出して直ぐに、光君の祖父は彼女に言いました。

「あなたの場所はここですよ、ここから真っすぐにあちらへ向かって歩いて行きなさい。」

私が後ろから大丈夫なように見ていてあげるから、私の場所はもう少し先の場所なのでね、あなたを見送ってから戻りますよ。

そう言ってからにっこり笑うと、女の子の手は小さくてか細い物だね、あの子の手はふっくりしていて骨太だが、

あの子の母も幼い頃はこんな手をしていたんだろうか、女の子の方は細君に任せっきりでね、

私の方は男同士、兄の方ばかりを構っていたものだ。幼い女の子の事は皆目分からなくてねぇ。そんな事を呟くのでした。

 実は光君の祖父には子供が2人有りました。光君の母の上に男の子がいたのでした。その兄は若くして亡くなったのです。

生きていれば光君の伯父として、当家の跡継ぎ然としていた事でしょう。

光君の母も兄の死後、1人娘、跡取り娘として気苦労しなくて済んだのでした。

 「あの子がね、そんな事を気にしていたとは。」

光君の祖父は息子の思いをはっきり聞いた後なので、大きな秘密を胸に抱え込んだ気がするのでした。

そしてその事を、誰かに打ち明けてしまいたい衝動に駆られるのでした。そんな彼は1人の人物を思い浮かべました。

 さて、蛍さんの方は光君の祖父に言われた通り、1人で言われた方向へと足を進めて行きます。

と、ぽっかりと水の中から水面に顔を出した様に、軽い抵抗を顔の皮膚表面に受けたような感じで目を覚ましました。

『何だろう?』

彼女は思いました。天井が見えます。どうやら寝転んでいるようです。何時もの様に昼寝していたのかなと思います。

次に手に障るのは畳ではないので、木、床のようです。あれ?床に寝転んでいるなんて、家にこんなところあったっけ?

未だぼんやりしている頭で考えながら、頭を起こして見てみます。何だか見覚えの無い雰囲気です。

そこで半身を起こし、少し落ち着いて周囲を見回してみます。薄暗くて広々としています。廊下のようです。

広くて長く続く廊下、薄暗い雰囲気からするとお寺にいるようです。

蛍さんは遠足などで大きなお寺に行った事があるのでした。それでこの雰囲気から察する事が出来ました。

 「ここはお寺だわ。」

蛍さんはここが自分の家の菩提寺だとまでは思い当たりませんでしたが、

一般的なお寺の本堂に自分が居るのだという事は把握できました。

そして何度も周囲を見回しながら、何故自分はこのお寺の本堂で昼寝していたのだろうと不思議に思いました。

 

 

 


ダリアの花、54

2017-02-25 15:05:19 | 日記

 住職さんに問いかけられた光君の祖父は、

「ああ、そうでした。あの子はもう念が晴れて彼岸へ旅立ちました。もう此処にはいません。」

と答えます。

「おや、ではお1人成仏されましたね。結構結構。」

住職さんは穏やかな顔になると、片手で合掌して一節お経を唱えるのでした。

 さて、と住職さん。お宅はどういう寄り集まりになったんです。と、今度はまた蛍さん一家に問いかけて来ます。

源と澄には、あなた達がこの2人を此処へ呼んだんでしょう、いけませんね。と、叱責します。

 「いや、僕が呼んだわけじゃないよ。」と、源。

「私でもないわよ。」と澄。

じゃぁ誰が呼んだんですか、ご先祖様が呼ばないのに如何やってその子孫が此処へやって来られると言うんです。

住職さんの言葉に、源と澄は顔を見合わせてみますが、どちらも思い当たる節が無い様子です。

2人で両手を上げてお手上げの格好をすると、さぁねぇと、これは本当に、2人共に心当たりが無いのでした。

 困ったわねぇと住職さん。暫く考え込んでいましたが、此処でこんな事をしていても埒があきません、

皆さん生あるものは来てはいけない所にいるんです。早く元の場所に戻りましょう。と、

蛍さんの父には、私に付いて来なさいと指図すると、そろそろと歩き出す気配です。

 「そちらの方は頼みますよ。ちゃんと元の場所に戻してくださいね。」

光君の祖父に蛍さんの事を託すと、光君の祖父もああ分かりましたよと引き受けました。

返事を聞いて住職さんは後も振り返らずに無言で歩き出しました。

蛍さんの父を従えて霧深い中にでも入るようです、厳かな感じで進み、小さく遠くなって行きました。

 「さて、我々も帰るとしましょうか。」

光君の祖父が言います。じゃあ、お2人ともお元気で、と言うのも変でしょうが、

また来る時までには成仏していてくださいね。とでも言った方がよいのでしょうね。

そう言って笑いながら源と澄に手を振ります。

「あの子が本当にお世話になりました。成仏してくれてホッとしました。良かったです。」

そう言って蛍さんの手を取ると、2人でゆっくり歩き出しました。辺りはすぐに霞か霧のような靄に包まれました。