2人の決戦の時、ご本尊の後ろには、各々の孫の様子を眺めていた祖父2人がいました。
手に汗握る攻防戦どころではありません。一方通行のストレート勝ち。片方の祖父はほくそ笑みました。
『危ない!』蛍さんのお祖父さんは急いで祭壇の後ろから横へと回ると、駆けるのももどかしく前の方へと跳び出して行きました。
が、時遅く、孫の傍に駆けつけた時には、眼前にぐったりと横たわる2人の子供がいるだけでした。
本堂はしんとして、やや熱気を帯びた夏の木陰の様な涼し気な風が通って行きます。
大きく開かれたお堂の入口からこの風は吹き込んで来るのです。
墓所には人がいないのでしょうか、辺りは本当にしーんとしています。
「これは酷い。」
蛍さんのお祖父さんは孫の変わり果てた姿に思わず彼女の傍にへなへなとしゃがみ込んでしまいました。
あの様子では、そのまま敢無くなってしまったのではないか、不安に思いながら恐る恐る彼女の息を確かめてみます。
横たわる孫の胸の小さな動きに注目すると、どうやら上下して息をしている様子です。
良かったとほっとして、あどけない蛍さんの顔の上を覗き込みます。そっと声を掛けてみます。
「ほーちゃん…」
しんとして返事はありません。祖父の目には心なしか蛍さんの顔色が青ざめている様に見えます。
まだ息はあるけれど、祖父の胸に不安が広がります。もしかしたらこの子はこのままになってしまうのではないか。
そう思うと、目の前に横たわる孫の手を握り、手首の脈を取ってみます。思ったより脈はまだ確りしているようです。
蛍さんの祖父はまた少しホッとしました。
暫く孫を静かに寝かせて置きながら、向こうの様子、孫の対戦相手の様子を窺がい見ると、
うっと如何やら気が付く気配です。
そこで光君の祖父は孫の胸に耳を当てると、鼓動を聞くふりをして、もう少し静かに寝ているようにと耳打ちします。
光君も心得たとばかりにピクリとも動かず、そのまま身動きせずに横たわっていました。
蛍さんの祖父にはその様子が手に取る様に分かりました。自分は馬鹿にされているんだろうか?
何だかあからさま過ぎて、自分への悪意の様なものを感じます。