「あのう、そういう言い方をされますと、何だか気が滅入りますので。」
蛍さんの祖父はそう言って、この話はこれでと、自分の家庭の事情を話すのは止めにしようと思います。
「いやいや、亡くなられたとはいえ、それでも沢山のお子さんをお持ちで羨ましい事です。」
「でも、今あなたも言われたように半分以上がもう亡くなりましてね。」
空しいものです、話しても仕様の無い事でした。話した私が悪かったと、蛍さんの祖父は話を切り上げようとします。
「あんたさん、さっきも言ったように、あなたは悪くありません。」
私の物言いが素っ気無かったんでしょう。私の方が悪かったようです。
そういって光君の祖父は蛍さんの祖父の傍に一緒に座り込むと、蛍さんの祖父に申し訳ないと詫びるのでした。
「実は、家は私が1人っ子、私の子供も1人娘なんです。」
だから、その子供が1人でも亡くなれば家が絶えます。それで我が家では子供大事で今まで来ました。
自分もそうだったし、娘の時もそうでした。
その娘が恋愛結婚しましてね、これが、向こうも1人息子さんでね、2人がどうしてもというんで、
娘は家を出て、最初の子供を内に跡取りに貰うと言う約束にしてあったんです。
それで、今のところ向こうでも家でも、光1人が跡取りなんです。
これであの子がとても大事な子だという事がお分りになったでしょう。あの子の言う事は何でも叶えてやりたいんです。
こう光君の祖父に言われると、蛍さんの祖父は何とも責任重大な話に、相当気が重くなってしまったのでした。
今迄、目の前の孫の容体を案じて鬱々として来ていたのが、そう酷い事も無いようだと少しほっとして、
向こうの話につられ、家の事をつい話してみたら、相手の孫はかなりの重責を担う貴重な孫であるという、
その事実が蛍さんの祖父の心痛をより深い物にしてしまいました。彼は胸の内に、焦燥感にも似た圧迫感を感じるのでした。
『具合の悪くなる話だ。』
蛍さんの祖父は酷くげんなりしてしまいました。顔からは血の気が失せて、顔色が白々と白んで来ました。
その時です、本堂の奥、座敷の奥の方向から、光!光!と2回、声は小さくても鋭い声が上がったのです。
2人の祖父は何かしらの異変を感じて、目の前の畳にまだ転がっている青銅色をした鋳物製の燭台を眺めたのでした。