褒めたのにお前が泣き出したから、きっとあの子はびっくりしていると思うがなぁ。
そうかしら?
お祖父さんはそうだと思うよ。
お祖父様にそう言われて、光君は何となく小川での蛍さんの様子が理解できたのでした。
だからあの時びっくりしていたのか。
自分が泣き出した時、どうだいと言う意地悪な顔をすると思っていたのに、あの子はひどく驚いていたっけ。
「そうだね、あの子は意地悪で言ったんじゃ無いと僕も思うよ。」
「 僕か…、」光君の祖父は何だかこそばゆい気がして孫に言います。
別に俺でもいいと思うがなぁ、お前のお母さんは何をあの子に張り合っているんだろう。
あの子にしても、お前が俺と言っても驚いたりガラが悪いとは思わないだろう。反対に僕と言ったらお堅いと思われるぞ。
え、そうなの?
そうさ、この辺の子で僕なんて言う子に今まで出会ったことがあるかい?もちろん男の子でだけど。
それはないけど。光君は答えます。
ほらな、この辺では普通男の子は自分の事を言う時は俺を使うよ。お前もそうしなさい。
お祖父様の言葉に、光君は気持ちがぱあっと明るくなりました。
今まで押さえつけられていた頭が、重しが取れてグーッと軽くなり浮き上がった気がしました。
「うん、分かった。俺もそうする。」
ああ、ただしお前のお母さんが家にいない時にだよ。
「そうだね、オッケー、そうするよ。」
決まりだね、祖父と孫はにこやかに握手するのでした。