「ああ、こんにちは。お世話になりまして」
何時もありがとうございます。と若い男の人は年配の背広姿の男の人にお礼を言いました。
女の人の方もにこやかな笑顔です。やはりありがとうございますとお礼を言っています。
「いやいや、家の方もお世話を掛けましたね。」
今回はあの子の方もご迷惑を掛けて、こちらこそ申し訳なく思います。
年配の男性は何やらお詫びめいた言葉を2人の男女にかけていました。
3人はどうやら顔見知りのようでした。蛍さんはこの年配の男の人が例の「あの人」なのかなと思いました。
『それではこの人と出会えてよかったんだ。』
と思います。
「やっぱりあれは居ないんでしょう?。」
背広の男性が言うと2人は、影も形も、全然どこに行ったのか全く姿が見えないんです。と話します。
多分そうだと思います。あれはもう向こうに行ったんです。私に伝えたいことがきちんと伝わったので気持ちが晴れたんです。
あれはこの機会をうまく利用したんだな。あの灯篭を最初に見た時に気付くべきでした。
もっと早くに気付いてやっていれば、あれもこんなに長く此処に居る事は無かったでしょうに。
2人の事は聞きました。お世話になったそうで、こちらこそありがとうございました。
蛍さんは男女3人の会話を聞きながら、あれという人はもうここにはいないのだと悟ります。
そして、大人の話、長話になりそうだなと思います。その間少しどこかで遊んでこようかと思うと、
お寺でも、此処でも、大人の用の間は、子供が暇で仕様が無くなるのにはそう大した違いは無いんだなと、
可笑しくなりました。それで、ウフフフフと笑います。
する事が無い彼女は、しゃがみこんで灰色の地面に絵を描き始めました。
蛍さんの描く絵といえば花はチューリップ、虫は蝶、お日様や山、池に金魚などです。
今回もそんな絵を暇に任せて描いてみました。一筆がきの歌を歌い、歌に合わせて絵を描いてみます。
蛍さんがそんな風に時間を持てあましている間、3人の男女は何か打ち合わせをしていたようでしたが、
では、行こうという声が聞こえると、男の人2人は直ぐにその場から出掛けていなくなりました。
女の人が1人残っただけです。辺りは急に寂しくなった気がしました。
後に残った女の人は、今回、直ぐに蛍さんに近付いて来ると話しかけて来ました。