Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、15

2017-02-11 21:42:45 | 日記

 駄目だよ。成りは大きくても女の子なんだし、お前より年も1つ下なんだから。

そんな物で叩いたりして、顔に傷でもつけたらどうするんだい。

「顔の傷は勲章じゃないか。」

そう光君に言われて、男の人はハッとします。

そういえば、男の子の子育てだ、逞しく、頑張れと教育してきたが、男女の場合の違いを教えていなかったと気付きました。

 う~んと、男の人はうなります。

今この場で手短に教えて置いた方がよいか、出直して仕切り直すか、後者の方がよいように思いました。

『結婚までは相当時間があるし、ゆっくりでいいな。』

男の人は思います。ちらっと蛍さんを眺めます。

 蛍さんはというと、我知らずの内に、無意識のまま、竹箒で戦う相手に対しての戦闘態勢に入っていました。

堂々として姿勢を正し、手を組みパキパキと指慣らしをして、腕をぶんぶんと振り回し、

首を左右に捻じりパキパキと音を立て、バランスよくどっしりと足を開いて、

さあこい!と、ポーズが決まったところでした。

 『そんじょそこらのガキ大将より逞しいんじゃないかな…』

蛍さんの様子を一目見て、開いた口が塞がらなくなったの男の人でした。

 この人は光君のお祖父様でした。

孫の対戦相手の様子に、立ち竦んで、目を見張っている光君のお祖父様に、それ見ろと光君は言います。

何年あの子を見てきたんだよ、あんな奴なんだよあの子、遣られる前にやっつけ無いと駄目だろう。

 しかし、とお祖父様は言います。

「女の子は男の子とは違うんだよ。」

きちんと覚えておきなさい。男の子は女の子を傷つけてはいけないものなんだ。反対に守ってやるべきなんだよ。

ここで細かく詳しくは言えないけれど、お前をもう少し女の子について教育し直さないといけないなぁ。

お祖父様は溜息を吐きました。

 そして、今日は始めましての挨拶と、これからよろしくねだけ言って置きなさいと言います。

後はおいおいだな。そう言ってお祖父様は光君の手にしている竹箒に手を伸ばしました。

途端に光君は嫌だ嫌だと大騒ぎをして暴れ出しました。

そこで無理にお祖父さまが竹箒を取り上げたところ、光君は廊下に転がって、ワーッと泣き出してしまいました。

嫌だ嫌だ、負けるのは嫌だ、えーんと、叫び声と鳴き声が蛍さんの所迄聞こえてきます。

 『まだ戦ってもいないのに負けると決めてかかって、なぁにあのお兄ちゃん。』

私よりお兄ちゃんなのに泣き虫なんだなぁと、蛍さんは半ば呆れると戦意を喪失してしまいました。

 

 


ダリアの花、14

2017-02-11 17:24:32 | 日記

 程無くして、本堂の祭壇の真後ろから声が聞こえてきました。

「こら、そんなもの持って行くんじゃない。」

放しなさい、嫌だ、負けたくない、等々、声が聞こえてきます。

蛍さんが聞いていると、如何も男の子の声と大人の男の人の声です。

2、3人の声が混じっているようです。

 素手だと負けるからとか、素手の相手に武器は卑怯だとか、あんな大きいやつに武器無しで勝てるかとか…、

色々言い争っているようです。特に子供が譲らないで嫌だ嫌だと頑張っている声が強く聞こえてきます。

とうとう、お寺さんと、呼ぶ声がして、何とかしてくださいと言う懇願の声が聞こえ、

その内住職さんの声も交じって来て、お寺のご本尊の後ろはバタバタ騒々しく遣り取りしている様子に変わりました。

 多分子供はあの光という男の子だわ、と蛍さんは思います。

確かに男の子の声は光君なのでしょう、大人の人の声は、住職さん以外は蛍さんには知らない人の声のようでした。

彼女には誰の声か想像がつきませんでした。

 聞こえてくる声の人物と、その内容をあれこれと蛍さんが想像し、考え合わせていると、

祭壇脇から廊下に向けて、よっこらせと男の人に片手を抱えられ、引きずられるようにさっきの男の子が出て来ました。

男の子の抱えられていない片方の手には、しっかりと竹箒が握られています。

 『私はあんな物で叩かれるのかしら。』

蛍さんは顔をしかめます。痛そうね、光君って嫌な子だなと思います。

男の子は蛍さんを遠目に見ていましたが、蛍さんの目の前で醜態をさらしたくないと思い、

男の人に引きずられていた体制から、ちゃんとするから放してくれと言うと、きちんと廊下に立ちました。

蛍さんの方を見ながら衣類を整えて、にこにこ笑顔を作ると体裁を整えました。

 しかし、男の人に再度箒を手放すように言われると、ドキッとしたように顔は青ざめて、しょ気てしまうのでした。

箒は持って行っていいでしょう、という声が蛍さんにも聞こえてきます。


ダリアの花、13

2017-02-11 11:52:52 | 日記

 さあ、じゃあ、あの子と話しておいで、必ずこちらから話掛けるんだよ。

お前は男の子なんだから、女の子をリードしなくてはいけないよ。

落ち着いて、堂々として出て言って、あの子の前にドンと立つんだよ。

分かったね。そうお祖父様に念押しされて、光君は本堂の裏から出て、蛍さんのいる廊下の辺りまでやって来ました。

蛍さんは結構待っていた感じです。相当待ちくたびれていました。待つ身は長いというものです。

 『なんて声をかけたらよいだろうか。』

光君は考えます。

『如何言ってから、謝ろうかしら。』

蛍さんは考えます。

蛍さんの目の前に光君が見えてから、蛍さんは全くと言っていい程、挨拶の言葉が浮かんで来なくて困っていました。

もう光君は自分の目の前、すぐ前に迄来てしまいそうです。

 と、ここで光君が後ずさりを始めました。こちらに顔を向けたまま、蛍さんから後ろ向きに遠ざかって行きます。

廊下の向こう端まで光君は遠ざかりました。そして立ち止まると不安気にこちらを見ています。

そしてまた、前に進んで蛍さんに近付いて来ました。今度は彼女のかなり前で立ち止まりました。

後ずさりです。止まって、彼女の顔を深刻そうに見つめています。

蛍さんは彼が、そのまま横に向きを変えて、また元の本堂の裏に駆けて行くのかなと思いました。

 『私の事が怖いのかしら?』

蛍さんは思いました。ちょっと自分が優位に立った気分です。

優越感というものですが、蛍さんは自分の背丈が大きい分、相手に引け目を感じさせているのだと思ったのです。

 面と向かってやりあう気になれないのね、話だけなのに。

蛍さんは思わず手を組み合わせて、一戦交える前の指慣らしをして、はっと気が付くと手を離し、

光君にこやかな顔を向けると、大人し気に、何事もなかったようにそろそろと手を下におろして、両脇にそっと寄せます。

 この優越感と一瞬取った戦闘態勢を、蛍さんから目ざとく感じ取った光君は、

きゅっと唇をかむと、眉根に皺をよせ、こいつめ話だけじゃなくてやる気だな、と目に負けん気を燃やします。

そして、カッとした時にふいと頭に閃いた事がありました。

急いで身を翻すと、光君は蛍さんが前もって予期した通りに、本堂の裏へと走り去って行きました。