駄目だよ。成りは大きくても女の子なんだし、お前より年も1つ下なんだから。
そんな物で叩いたりして、顔に傷でもつけたらどうするんだい。
「顔の傷は勲章じゃないか。」
そう光君に言われて、男の人はハッとします。
そういえば、男の子の子育てだ、逞しく、頑張れと教育してきたが、男女の場合の違いを教えていなかったと気付きました。
う~んと、男の人はうなります。
今この場で手短に教えて置いた方がよいか、出直して仕切り直すか、後者の方がよいように思いました。
『結婚までは相当時間があるし、ゆっくりでいいな。』
男の人は思います。ちらっと蛍さんを眺めます。
蛍さんはというと、我知らずの内に、無意識のまま、竹箒で戦う相手に対しての戦闘態勢に入っていました。
堂々として姿勢を正し、手を組みパキパキと指慣らしをして、腕をぶんぶんと振り回し、
首を左右に捻じりパキパキと音を立て、バランスよくどっしりと足を開いて、
さあこい!と、ポーズが決まったところでした。
『そんじょそこらのガキ大将より逞しいんじゃないかな…』
蛍さんの様子を一目見て、開いた口が塞がらなくなったの男の人でした。
この人は光君のお祖父様でした。
孫の対戦相手の様子に、立ち竦んで、目を見張っている光君のお祖父様に、それ見ろと光君は言います。
何年あの子を見てきたんだよ、あんな奴なんだよあの子、遣られる前にやっつけ無いと駄目だろう。
しかし、とお祖父様は言います。
「女の子は男の子とは違うんだよ。」
きちんと覚えておきなさい。男の子は女の子を傷つけてはいけないものなんだ。反対に守ってやるべきなんだよ。
ここで細かく詳しくは言えないけれど、お前をもう少し女の子について教育し直さないといけないなぁ。
お祖父様は溜息を吐きました。
そして、今日は始めましての挨拶と、これからよろしくねだけ言って置きなさいと言います。
後はおいおいだな。そう言ってお祖父様は光君の手にしている竹箒に手を伸ばしました。
途端に光君は嫌だ嫌だと大騒ぎをして暴れ出しました。
そこで無理にお祖父さまが竹箒を取り上げたところ、光君は廊下に転がって、ワーッと泣き出してしまいました。
嫌だ嫌だ、負けるのは嫌だ、えーんと、叫び声と鳴き声が蛍さんの所迄聞こえてきます。
『まだ戦ってもいないのに負けると決めてかかって、なぁにあのお兄ちゃん。』
私よりお兄ちゃんなのに泣き虫なんだなぁと、蛍さんは半ば呆れると戦意を喪失してしまいました。