眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

卒業ロケット

2019-04-26 02:21:08 | 夢追い
「あなたの話をわかる人。それが理解者というものです。もしもあなたの話を聞いて何も理解を示さない、あるいはまるで耳を貸さないというなら、その人はあなたに向いていないのです。それは善し悪しとはまるで関係がなく……」
 ほとんどの者は、先生の話をまるで聞いていない。さっきから、先生の話は、ずっと同じところをさまよっていて、発展性が感じられない。まるでただ時間をつぶしているかのように眠気を誘う。半数近くの生徒は眠っているのかもしれない。

「もしもあなたの話に耳を傾けて、時折相槌を打ったり、少なからず関心を寄せている。そういう人は、あなたの理解者である。あるいは、あなたのよき理解者になる素質を備えている。その人はあなたに向いているのです。例えば風なら、あなたの方に吹いているのです」
 先生が背中を向けた瞬間、僕は教室のドアを潜り抜けた。誰も気づかない。
「理解者は、あなたの話をわかるだろう……」
 

 罰走のように校庭を走った。
 眠りに落ちないためには、そうするしかないのだ。与えれた罰よりも強く働きかけるのは、自身からの指令。無慈悲な理解者たちが空虚な場所で空回りしている間に、僕はここで出口を見つけるために、走り続けなければならない。時折、振り返って、誰かがついてきていないことを確かめる。僕を先頭に偶然の授業が始まってしまうことは避けなければ。これはただ一人の、自分を高見へと押し上げるための疾走だ。まだ、誰にも見つかってない。この円周は、自分だけの滑走路となるだろう。
 その先に何がある? 
 安易に先へ先へと思考するようでは、まだ、僕はちっぽけな教室の中から抜け出せていない。
 あと何周? 違うんだ。カウントすることに、意味はない。
 

 後をついてくるものは、自身からくる不安に過ぎない。
(不安は生きたお友達)
 僕のポケットはちっぽけだ
 僕の逃避はちっぽけだ
 僕の体はちっぽけだ
 僕の足跡はちっぽけだ
 僕の夢はちっぽけだ
 僕のすみかはちっぽけだ
 僕の未来はちっぽけだ
 僕の寝息はちっぽけだ
 僕の不安はちっぽけだ
 僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
(不安は絶望とは違うよ)
 

 照りつける不安から逃れて、木陰に入った。
 風を受けて、僕と同じ歳の木は静かに何かを語り始めていたけれど、理解者になれない。
 頭上の枝の一つから、音もなく葉が落ちる。
 手を差し出して、受け止めようと思った瞬間、もう一枚の葉が落ちる。葉が、二枚。僕の体は反応を止めた。一枚なら、全力を尽くして受け止めることができた。(自信があった。受け止めることが好きだった)
 その瞬間、僕はもう歩み寄ることをやめた。
 ただ、舞い落ちる様を見送ることを選んだ。
(もう、何もしなくていいんだ)
 あきらめる道を開いてくれたのは、風。
 

 風のように戻ると自分がいた机には鬼が着いていて、自分の席はなくなっていた。少し離れた間に、理解を超えた時が流れていたのだ。
「助走は楽しんだか?」
「今、戻りました」
「今、戻りました?」
 先生は馬鹿みたいに繰り返した。
「だが、もうここにおまえの場所はない」
「どうしてですか?」
「おまえはここにいてもいいんだぞ」
「では、新しい席を作ってください」
「だが、おまえはここだけにいてはならん!」
「でも、僕は一人だけです」
「だから自分で選ばねばならん。おまえだけの居場所を、今。
校門の前に、ロケットを待たせてある」
「どこに行けばいいんですか?」
「行けばわかるさ。さあ、そこまで送ろう」
 生徒はみんなロボットとなり、熱心にノートを取っていた。

 学校を出ると美しい馬が待っていた。
「ロケット。いい子にしてたな」
 僕は馬上の人。乗馬教室で習った通りに、ロケットを操って町を出た。
 

「言葉にすればほんの一行だ。だがそれは宇宙の果てまで続いていく。そんな一行を見たことがあるかね?」
「いいえ。僕が見たことがあるのは、飛行機雲だけです」
「そうかね。だったら、それはまた先の話だね」
「ここはどこなんですか?」
「私の名前は疑問惑星さ」
「あなたは話せるんですね?」
「私の中で疑問を失うことはできないからね。どこへでも、好きに行くがいいよ」
「僕に選べるんでしょうか?」
「選んでいくしかないだろう」
「どうしてですか?」
「それだよ。その心を、忘れないようにすることさ」
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雨と太陽

2019-04-26 01:26:05 | 短歌/折句/あいうえお作文
雨粒がぽつり帽子に落ちたとも推測される信号は青
 
 
雨風が強まる中に出て行った君の野心は尽きぬ太陽
 
 
回答を寄せた頃には雨風が強まり街は僕を打ち消す
 
 
雨雲に僕が与えた一瞬の名前を君は覚えておいて
 
 
水を知り水を得る手を知る人がみずともなれる水を得た魚
 
 
七色のため息を持つ傷心の君が吐き出す明日への虹


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シングル・スクール

2019-04-26 00:41:22 | 自分探しの迷子
 
 教えなければならないことが私の持ち時間を遙かに超えてしまったから。私に教えることは何もなくなった。そう言い残して先生は教室から出て行こうとしている。先生は逃げるんですね。僕たちを置いて。今までのことはどうしてくれるのです。何もなかったというのに何を教えていたのです。僕は逃げ出していく先生の肩にぶつかって先生を止めた。ファールだと窓にくっついていた虫が騒いだけれど、主審はファールを取らなかった。先生そうはいきませんよ。もしも行くなら僕も一緒です。先生のいない教室はただの部屋、公園、大通り……。私はいずれにせよ、この場所に残る以外のことを考えることはしなかった。与えられた時間を与えられた場所で過ごすこと。
 
 それ以外に私たちが学んだことはなかったのだから。動こうとしても動くことができないのです。教えることがなくなったとしても、私たちには学ぶべきことが残されている。先生が逃げ出すしかなかった理由について、私たちは最初に学び始めることができます。まさにそこに先生という存在がいないからこそ、より長くより深く、それぞれの想像を働かせて、そこにぽっかりと空いた空間のことをじっと考えることができるのです。俺は先生を追いはしない。俺にとっては元からそこに存在していないからだ。俺は先生の声を信じない。
 
 俺は人間の声を信じない。俺は主人公の声を、二次元の声を信じない。元をたどればそこにはいつも人間がいる。ふっ、人間じゃねえか。信じられないな。俺と同じ生き物なんて。俺は鳥の歌声を信じる。俺には理解できない歌だ。だから、疑う余地もない。いったいここにいる人々は何を待っておるのかのう。わしはラーメン・コールを待ちながら、ふとそんなことを考えておったもんじゃ。今そこにある雨はほんの序の口。本降りと言える強い雨は、この先に控えておる。それなのにここにおる人々は何をのんびりと構えておるのじゃろうか。おぬしはそれについてどう考えておるのかの。
 
のーよ。
 
 ふん、聞く耳持たずか。まあ、それもよかろう。何でも聞いておったらろくなことにならんからの。まったく油断ならん世の中よの。雨はどんどん強くなるぞ。おぬしもそうかの。「どうせ教え切れないのだから」それが立ち去る理由だと言うのですか。「そうともさ」だって、教えなくても同じことでしょう。
 
「だったらどうして教えないのですか」
 
 僕は先生のあとを追って教室を飛び出した。逃げていく自分を僕は追いかける。追いかけずにいる自分。居座る自分、不動の自分、居残る自分、動かぬ自分、微動だにしない自分、岩のような自分、銅像のような自分……。「現実から逃げるんですか」いいえ。逆よね。先生が去ったあとの教室には、今までで最も難しい授業が残された。独りの僕と、無数に見え隠れする自分たちが、戸惑いながらも逃避の先にある新しい現実と向き合おうとしていた。
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする