碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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実相寺昭雄監督”三回忌”のこと

2008年12月07日 | 日々雑感
早い。師走だから、と思うせいか、毎日が猛スピードで過ぎていく。

公開シンポジウム「ギャラクシー賞受賞報道活動を見て、制作者と語る会」が開かれてから、もう一週間経ってしまった。

http://www.teu.ac.jp/information/2008/012972.html(会の報告)


実は、シンポジウムがあった先月の29日というのは、一昨年に亡くなった実相寺昭雄監督の命日だったのだ。

この日の夜、シンポジウムの後の懇親会も終えて帰宅し、一人で監督の作品をDVDで見た。自分だけの「偲ぶ会」のつもりだった。

ATG時代の映画ではなく、監督と知り合ってからの作品にした。

最も思い出深い作品『波の盆』(83年)は、11月に札幌へ行ったとき、北海道文化放送の方たちと行ったドラマ勉強会でプレビューしていたので、まず『春への憧れ』(84年)を流した。

これは、池上通信機製の「EC-35」という、当時最新のビデオカメラのデモンストレーション用作品だ。このカメラの名称に「35」とあるのは35ミリのフィルムに迫るという意味で、しっとりとした画調、締まった黒が印象的だった。『波の盆』でも使われている。

『春への憧れ』は一種の映像詩だ。奈良でロケーションが行われており、雪と氷の季節に始まり、雪解け水が流れ出し、やがて緑の季節へと向かっていく。バックに流れるのはモーツアルトのピアノ曲のみ。

監督の好きだったものだけが、監督の好きだった構図で切り取られ、監督の思うように編集されていく。わがままでゼイタクな13分間だ。

その後は、『東京幻夢』(86年)を見た。当時、実用化が始まったハイビジョンによる、やはり実験作である。

堀内正美さんと志水季里子さんが出演しているが、いわば14分の無言劇。ベートーベンの曲を背景に、夢とも現実ともつかぬ物語が展開される。ノスタルジックでエロチックな映像だ。

さらに、火曜サスペンス劇場で放送された『青い沼の女』(86年)を見始めたところまでは覚えているが、シンポジウムの疲れか、途中で寝てしまったようだ。気がついたら“上映”は終わっていた。

さすがに朝にはなっていなくて、外は、まだ暗い。モニターの灯りが、ぼんやりと室内を照らしていた。眠っている間に、珍しく夢を見たようだ。誰か人物も出てきたのだが、内容は思い出せなかった。

その夢の中に出てきたのが実相寺監督だったのなら、嬉しいのだが。そんなことを思いながら、モニターを消して、再度眠った。これが一人だけで行った、監督の“三回忌”だ。

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