碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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渋谷・神山町が小説の舞台になった

2008年12月21日 | 本・新聞・雑誌・活字
加藤実秋さんの<インディゴの夜>シリーズの新作『ホワイトクロウ』を読んでいたら、懐かしい渋谷神山町が出てきて驚いた。

えーと、<インディゴの夜>のインディゴとは、小説の舞台というか、登場人物たちのベース基地みたいなホストクラブで、これは渋谷にある。

とはいえ、別にホストクラブ小説(ってジャンルはある?)ではなく、この店のホストたち(みんないい連中なんだ)が、いわば探偵役として活躍する異色のミステリー、いやソフトな(?)ハードボイルド小説なのだ。

この新刊には4つの中編が収められていて、その1篇が「神山グラフィティ」である。

「渋谷・神山商店街。東急百貨店の脇を抜け、井の頭通りと平行して走る一方通行の狭い通りに、小さな建物が並んでいる。オフィスビルやマンション、若者向けのカフェや居酒屋、洋服屋に交じり、屋根に物干し台を備えた木造の米屋や、タイル張りの床にレースのカーテン、店先にレトロなつくりの三色ねじり棒を回転させる理髪店など、昔ながらの商店も営業を続けている」

こんな描写に、「そうそう、あったあった」と喜んでしまうのは、1970年代半ばから80年にかけて、この神山町で暮らしていたからだ。ちょうど学生時代の後半から社会人になる頃だ。

あの当時でさえ、どこか懐かしさの漂う町だった。

渋谷駅からセンター街を抜けて神山町エリアに入ると、木造アパート(その1軒に住んでいた)が増えるせいか、わずか徒歩10分なのに、ぐっと生活感が増したものだ。

大きな道路1本隔ててNHK放送センターの巨大な建物がそびえ、24時間灯りの見える窓がたくさん並んでいた。でも、こちらは、ひっそり静かな、のんびりした町だった。

毎晩通っていた定食屋さん。小説にも出てくる床屋さん。自転車屋さんもあったっけ。

夜、銭湯からアパートに戻る道で、なぜかいつも、どこからかFM東京の「ジェットストリーム」のテーマ曲が聞こえてきた。

「神山グラフィティ」の舞台は<神山食堂>だが、私の知っている定食屋さんは移転したから、今は神山商店街にはない。でも、読んでいると、安くて美味かった「しょうが焼き定食」が目に浮かんでくる。

<神山食堂>の看板娘・可奈ちゃんに惚れたジョン太(ホスト君のひとり)が大いに活躍する「神山グラフィティ」以外の作品も、「うーん、いい話じゃねえか」と思わず言いそうになるのが、いかにも<インディゴの夜>シリーズだ。

インディゴの夜 ホワイトクロウ (ミステリ・フロンティア)
加藤 実秋
東京創元社

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