北海道新聞に書かせていただいた「お前はただの現在にすぎない」(朝日文庫)の書評が、14日(日)の読書欄に掲載された。
萩元晴彦・村木良彦・今野勉 著
「お前はただの現在にすぎない~テレビになにが可能か」
評・碓井広義(東京工科大教授・メディア論)
メディアの本質に肉薄
本書は文庫による〔復刊〕である。「テレビ論の名著」といわれる
原本が出版されたのは1969年で、3人の著者はTBSに在籍し
ていた。
前年の68年3月、萩元と村木は突然の異動を命じられる。理由は
「番組内容の偏向」。萩元の「日の丸」、村木の「ハノイ・田英夫
の証言」などに対し、政府が露骨な圧力をかけてきたのだ。
労組はこれを不当な配置転換として抗議し、やがて「TBS闘争」
と呼ばれる争議へと発展した。本書はこの闘争の克明な記録であ
ると同時に、制作者自身がテレビの<本質>に迫った画期的なド
キュメントである。
ここには様々な言葉が集録されている。議事録、声明文、ビラ、発
言、証言などだ。その間を縫うように3人の<問い>が続いていく。
テレビとは何なのか。テレビに何ができるのか。テレビの表現とは
いかなるものか。それらの問いかけは「おまえはいま、どう生きて
いるのか」という問いと同義だった。
彼らは探り、自答する。テレビは時間である。テレビは現在である。
テレビはドキュメンタリーである。テレビは対面である。テレビは
参加である。テレビは非芸術・反権力である。そして、さらに書く。
「テレビが堕落するのは、安定、公平などを自ら求めるときだ」。
70年2月、TBSを退社した3人は、日本初の制作者集団「テレ
ビマンユニオン」を創設。<自立した制作者>を目指して、放送史
に残る多くの仕事を成し遂げていく。しかし、萩元は2001年
9月に、村木が08年1月に鬼籍へと入った。今野だけは現在も旺盛
な制作活動を続けている。
本書が著されてから約40年。今、テレビにはビジネスを軸とした
「面白さ」と「わかりやすさ」ばかりが氾濫している。視聴者のテ
レビ離れもメディアの多様化だけが理由ではない。かつて著者たち
が考え続け、自らと社会に向けて発し続けた「テレビとは何か?」
の問いを、私たちが引き継ぐべき時が来ているのだ。
(朝日文庫 1155円)
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この書評を読んでくださった北海道のテレビ関係者の方々から、以下のような感想をいただきました。ありがとうございます。
●今朝、興味深く拝読しました。
今野さん以外のお二人は既に他界されたのですね。
現在のテレビへの鋭いご指摘、たいへん勉強になります。
●TV界の先輩たちが追い求めたもの…骨太な内容に
「今、こんな風にのびのびTVの世界で働けるのも、
先輩方の残してくださったものがあるからなんだな」と。
またこの環境にあぐらをかかないように…とも感じました。
●たまたまタイトル名に魅かれて購入したばかりでした。
タイトル名がとてもいいですね。
そして道新で、先生の書評を拝読。
先生のおっしゃるとおり、
「テレビ」とは・・・の永遠のテーマを
考えさせる本です。
●先生が書評の最後で述べられているのは、
今のテレビとそれに関わっている
私たちへの叱咤とも感じました。
テレビと正面から向き合い格闘した
大先輩たちの自問自答が、
今どのように感じられるのか、
年末年始の休みに手にとってみようと思います。
●道新の書評、拝見させていただきました。
本当に視聴者のテレビ離れが進んでいる、
と感じている今日この頃です。
自分に何ができるか、
もう一度立ち止まって振り返る機会になります。
本、読んでみます。ありがとうございました。