碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「達人について」について

2008年12月23日 | 本・新聞・雑誌・活字
搭乗前、空港内の書店で、吉行淳之介さんのエッセイを集めた新しい文庫を見つけ、購入。

亡くなって14年が過ぎても、こうして本が出て、買う人、読む人がいる。

私にとっての吉行さんは、どこかで「達人」という言葉と重なっていて、吉行さんを読むのは、少しでも学びたい、たぶん「人間」や「人生」について達人の指南を仰ぎたいという気持ちが強い。

この本の中に「達人について」と題する一編がある。

書かれたのは昭和39年。文中での達人は終始「佐藤先生」と記されているが、これはもちろん佐藤春夫のことだ。

吉行さんが、自身の女性関係のことで、佐藤春夫夫人に叱られているのを、黙って見ている先生。「ズルイや」と抗議すると、先生曰く「達人はずるいものじゃ」。

やがて、吉行さんが帰ろうとすると、先生、今度は「半達人のまま、帰るのか」。

それだけの話なのだが、吉行さんが語ってくれると、読み手のほうがあれこれ考えてしまう。やはり達人の文章なのだ。

文庫本を手に降り立った北の大地は、すでにマイナスの温度。札幌の街は、道路の雪が凍結していて、アイスバーン状態だ。それでも運転の達人ばかりなのか、どのクルマも結構なスピードで走っている。

さて、もうしばらくすると、井筒監督たちとご対面だ。「トークDE北海道」の生放送が始まる。

なんのせいか (ランダムハウス講談社文庫 よ 1-2) (ランダムハウス講談社文庫)
吉行 淳之介
ランダムハウス講談社

このアイテムの詳細を見る