先日、読売新聞から「監視カメラ」や「グーグル・ストリートビュー」などに関する取材があり、コメントさせていただいたが、その記事が今日(17日)の朝刊に掲載された。
知らない間に自分が見られていたり、撮られていたり、記録されていたりすることの、何ともいえない不安感、不快感が、いつの間にか消えて、少しずつ「普通のこと」「当たり前のこと」になっていくのが一番気になる。以下はその記事です。
2008年12月17日 読売新聞・朝刊
連載タイトル:「カメラは見ている」(下)
見出し:信号待ちのあなたも…街角カメラ、防犯・商業目的で増殖
信号待ちの歩行者の姿が、テレビモニターに映し出される。退屈そうに顔を上げた若い女性の顔をカメラがとらえた。その瞬間、赤い枠がパッと彼女の顔を囲む。コンピューターには自動的に「20代、女性」と登録された。
1日30万人が行き交う東京・渋谷のハチ公前交差点。その頭上約30メートルで、大型ビジョンの上下に設置された2台のカメラが通行人の姿を追っていた。
設置したのは横浜市の看板制作会社「アビックス」。大型ビジョンを見上げた歩行者の顔をコンピューターが自動識別し、広告別の視聴者の数や性別、年齢層などを分析する実験で、10月に始まった。イスラエルで開発された軍事技術の転用で、精度は「90%以上」と時本豊太郎社長(53)は胸を張る。「指名手配犯の顔を登録すれば、見つけて警察に通報することも技術的には可能です」
1日に集まるデータは約2万人分。「映像は保存せず、解析データのみを抽出するので個人情報の面では問題ない」と、時本社長は全国展開に意欲を燃やす。
だが、交差点周辺にカメラ撮影に関する告知はない。友人と待ち合わせしていた渋谷区の女性(21)にカメラの存在を教えると、「勝手に調査に使われるなんて気味が悪い」と嫌悪感を示したが、「大勢の人が映るんだし、別に気にならない」という女性(20)もいた。
日本で街頭カメラの存在が初めて問題になったのは、1966年から大阪府警が大阪市西成区に設置し始めたカメラだった。プライバシー侵害だとして住民らがカメラ撤去などを求めた訴訟では最高裁が98年、15台のうち特定の建物の出入り口を写す1台を「違法」とした。
だが2002年、警視庁が東京・歌舞伎町に50台の防犯カメラを設置して以降は、カメラは急速に街に広がっていく。同庁によれば今年11月現在、同庁や商店街によるカメラは都内だけで約2570台に上った。
治安対策から受け入れられていった街のカメラは、いつの間にか商業分野にも侵食している。
簡易型携帯電話(PHS)会社のウィルコム(東京都)などで作る研究会は来年から、全国のPHS基地局を利用して街頭カメラを設置する。その数は16万台。車や人の流れを監視し、当面は渋滞情報などを提供するが、将来は事業会社に発展させる予定だ。
カメラに対する意識も変わりつつある。三菱電機ビルテクノサービス(東京都)が今年1月に全国約800人を対象に行った意識調査でも、防犯カメラで自分自身の行動が録画されることを約9割が「気にならない」「最近は気にならなくなった」と回答したという。
「若い世代ほどカメラへの拒否反応がなくなってきているが、便利さだけで容認していると後戻りできなくなるかもしれない」と警告する東京工科大学の碓井広義教授(メディア論)は「何の目的で撮影し、その情報はどう処理されるのか。透明性を高め、社会全体でルールを作る必要がある」と提言している。(社会部 山下昌一、田中健一郎)