TBSで再放送されている『水戸黄門』が、ちらっと目に入った。
その瞬間、ふと思い出したのは、懐かしい時代劇のことだ。
面白い時代劇の第1条件は魅力的な主人公。
次に、複雑すぎない明快なストーリー。
そしてこれが必須なのだが、名脇役の存在である。
少年時代、毎週必ず父親と一緒に見ていた『素浪人 月影兵庫』は、思えばこれらの要素をすべて満たしていた。
放映が1965~66年、そして67~68年。
かつてのNET(現 テレビ朝日)。
素浪人とは「無一物の浪人」のことであり、浪人をさげすんだ表現である。しかし、金も家も家族も持たぬ月影兵庫(近衛十四郎)は、それゆえに自由人だった。
好きな街道を歩き、適当な宿場でわらじを脱ぎ、事件に巻き込まれれば弱きを助け強きをくじく。自由で、武骨で、しかも腕が立つ大人の男。私も憧れていた。
この番組での脇役といえば、なんてったって焼津の半次(品川隆二)だ。
陽気でおっちょこちょい。剣の腕前はハンパなのに強気。困ったら、あの鼻の穴を大きくふくらませた顔で「だんなあ~」と兵庫に泣きつく。
でも、憎めないのだ。画面の中に半次がいないと、やけに寂しいのだ。
もちろん兵庫が見事な剣をふるう場面は見せ場だったが、同様に、いやそれ以上に兵庫と半次の掛け合いが楽しみだった。
ついには<半次あっての月影兵庫>とさえ思わせた、インパクトのある名脇役。
嗚呼、焼津の半次は、今も蜘蛛が苦手なままなんだろうか。