碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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映画『ディア・ドクター』で合掌

2009年07月15日 | 映画・ビデオ・映像

関東は梅雨明けだそうで・・・


映画『ディア・ドクター』を観てきた。

うーん、傑作であります。

西川美和監督に拍手。

映画を観ながら、池波正太郎さんの小説を思い浮かべていた。

「人間は、いいことをしながら悪事を働き、また悪事を働きつつも、それと知らずにいいことをしているものだ」といった意味の言葉。

誰もが、少なからず、そうなのかもしれない。もちろん、私も。

それにしても、鶴瓶さんは、得したねえ。その実像と虚像の両方を、西川監督が最大限に生かしてくれたんだから。

八千草薫さんは、さすがと言うしかない。

香川照之さんも相変わらず上手い。

岩松了さんをキャスティングしたのも正解。

まあ、それもこれも、西川さんの“物語るチカラ”があればこそだ。


もう随分前の、テレビマンユニオンのオフィスを思い出す。

是枝裕和監督の映画チームに、一番駆け出しの助監督(だったと思う)として参加した西川さんが、通路を早足で行き来していた光景だ。

何人かの監督についた後、『蛇イチゴ』で見事な初監督。

2作目の『ゆれる』もよかった。

そして、ホップ・ステップ・ジャンプじゃないけど、この3作目が一番いい。


この作品のエンドロールにも、企画者として、エンジンフィルム会長・安田匡裕(やすだ まさひろ)さんの名前があった。

是枝監督のデビュー作『幻の光』以来、是枝作品や西川作品をずっと支援し続けてくださった人だ。

私も、20年近く前に檀太郎さんを通じて知り合い、交流させていただいた。

たまに会えば、にこにこしながら、「どうしてる?」と近況を聞いてくださったっけ。

その安田さんが、3月8日に亡くなった。

確か、完成した『ディア・ドクター』は、ご覧になっていなかったはずだ。

安田さん、西川監督の新作は、堂々の傑作でしたよ。

合掌。


きのうの神さま
西川 美和
ポプラ社

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