碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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”報道番組の作り方”をめぐる考察

2009年07月06日 | テレビ・ラジオ・メディア

先日の、テレビ朝日『スーパーJチャンネル』における“特集VTR”の作られ方に関して、放送批評懇談会が発行する雑誌『GALAC(ギャラク)』8月号で論評させていただいた。

問題のVTRは、1月20日の『スーパーJチャンネル』の中で流された「氷点下の札幌ホームレス~恋人に真実隠し、さまよう40歳男性」である。

取材されたホームレス本人からの告発に、テレビ朝日側が応えていった経緯は、6月22日発売の『週刊現代』で伝えられた。

『GALAC』の文章では、VTRや資料などを確認した上で、「何が起きていたのか」を考察してみたのだ。

「“やらせ”に至る制作現場の論理」と題した本編は雑誌をご覧いただくとして、最後の部分を、こんなふうに書いた。



Aさん(40歳のホームレス)の証言からは、以下のような「取材現場」が見えてくる。

制作側には「派遣切りで仕事を奪われ、ホームレスとなった人物が、厳冬の札幌をさまよっている。それに密着することで、派遣切りの悲惨な状況を視聴者に伝え、(たとえば)議論を巻き起こす」といった狙いがあった。

それはあって当然だし、悪い狙いでもない。しかし、思ったような“取材対象”が見つけられなかった。

そこで、確保したAさんとBさん(56歳の失業者。Aさんへの説教役)を、自らが想定した“ストーリー”に見合う“主人公”や“脇役”として生かそうとする。“演出”によってそれができる、と判断したのではないか。

だが、報道はドラマ作りとは違う。結果、<やらせ疑惑>といわれても仕方ないような内容となった。

制作側にとって都合のいい“主人公”にされたAさんは、5万円の報酬と引き換えにさまざまな迷惑を被った。

また、この件が明らかになった時点で、真っ当な取材によって「派遣切り」や「ホームレス」の問題を扱おうとしていた他の制作者は、番組を作りづらくなったはずだ。もう一つの迷惑である。

全国各地で地道な報道活動を続けている制作者たちにも、ぜひ意見をうかがってみたいと思う。



報道番組における“問題のある作り方”を、すべて「演出」という言葉で説明しようとするのは、やはり危険なことなのだ。


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