本のカバーを見て、いいなと思い、そのまま買っちゃうことがある。
“カバー買い”だ。
レコード(今はCDだけど)のジャケット買い、“ジャケ買い”と同じ。
矢作俊彦さんの『複雑な彼女と単純な場所』(新潮文庫)は、そんな一冊だった。
単行本は東京書籍から1987年に出ているが、3年後に出たこの文庫版のカバーのほうが10倍くらい素敵だったのだ。
これって、矢作さん初のエッセイ集である。
漫画家の大友克洋さんと一緒に、函館までカニを食べに行く珍道中を描いた伝説のエッセイ「カニを、もっとカニを!」「カニを、さらにカニを!」が収録されている。
何より「複雑な彼女と単純な場所」のタイトルと、このカバー写真。
20年後の今見ても、いいものは、やはりいい。
ボリス・ヴィアンに仏訳を出されたレイモンド・チャンドラーが幸福だったかどうか、誰にも判らない。
――矢作俊彦『複雑な彼女と単純な場所』