碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録33 遠藤湖舟『ひるまの おつきさま』

2010年09月06日 | 言葉の備忘録

科学絵本「月刊かがくのとも」10月号(福音館書店)は、『ひるまの おつきさま』だ。

作者は、フォトグラファーの遠藤湖舟(えんどう・こしゅう)さん。

前著『宇宙からの贈りもの』(講談社)は、亡くなった平山郁夫さんをして、<時を超えた「美」が、ここにはあります>と言わしめた、素晴らしい写真集だった。

今回は、明るい昼間に見える「月」が主人公だ。

いつもながら、面白い着想だなあ、と思う。

また、例によって写真が美しい。

青空を背景に、真昼の月の前を通過する旅客機をとらえた一枚など、泣けてきそうだ。

なぜ、「ひるまの おつきさま」なのか。

明るいから見つけにくいけれど、昼間も月は空にいる。

たとえ見えなくても、確かに存在するものがあるということ。

ふだん気がつかないことに気がつくことの大切さ。

たぶん湖舟さんは、そんなことを、子どもたちに伝えたかったんじゃないだろうか。

ちなみに遠藤湖舟は本名で、父上のお名前は遠藤右近という。何だかすごい父子だ(笑)。

そして、遠藤君は、私の松本深志高校時代の同級生であり、一緒に写真研究会(後に写真部へと昇格)をやっていた仲間だ。

(参照:「文藝春秋」同級生交歓) 
 http://blog.goo.ne.jp/kapalua227/e/e56943db7c2476b4aa738859c94a0cff

この本に刺激されて、私も「ひるまの おつきさま」にカメラを向けてみました。



もちろん遠藤君のようには撮れません(笑)。



まいにち ぼくは そらにいる
――遠藤湖舟『ひるまの おつきさま』


田代真人『電子書籍元年』の書評

2010年09月06日 | 本・新聞・雑誌・活字

先日、北海道新聞に掲載された『電子書籍元年』の書評が、道新サイトにもアップされた。

以下、その内容です。



『電子書籍元年』田代真人著 インプレスジャパン 1575円
略歴:たしろ・まさと 1963年生まれ。メディア・ナレッジ代表。

 本と出版の今後を解説


さまざまな「元年」がある。最近も「地デジ元年」「3D(立体映像)元年」「EV(電気自動車)元年」などにぎやかだ。

そんな「元年」の掛け声を聞くたび、「時代に遅れていませんか」と脅されるような、背後に“商売”の影があるような、居心地の悪さを感じるのはなぜだろう。

さて、電子書籍である。実は、紙の代わりにパソコンを「器=プラットフォーム」とした電子書籍は、すでに1990年代から存在する。10年前には、その器がケータイとなり、昨年、日本の電子書籍総売り上げは500億円を超えたという。

今年が「元年」たるゆえんは、著者が「電子書籍の本命」と呼ぶiPad(アイパッド)の登場だ。これによって、今後、本はどうなるのか、出版はいかに変わるのかを解説しているのが本書である。

著者によれば、出版社はなくならないが、ビジネス構造は変わっていく。何を電子書籍として販売するのかを決めるのは、アップル、アマゾンなどプラットフォームを提供する会社だからだ。

書店は、これまで通りのやり方ではより苦しくなるため、著者は“セレクトショップ”化を提唱する。独自のテーマに沿って集めた本を並べることで店の特色を出すのだ。

東京・丸の内にある丸善には、編集者で著述家の松岡正剛さんが選んだ本だけを置く「松丸本舗」という魅力的な書棚がある。これも一つのヒントだ。

読者は自分の読書スタイルや目的に合わせて選択すればいい。利便性や低価格なら電子書籍。絶版本が電子書籍で復活することもある。手で触れる「本」の形で読みたければ紙だ。

先日、開高健「夏の闇 直筆原稿縮刷版」(新潮社 3360円)を入手した。文庫本で500円。電子書籍ならもっと廉価なはずだ。

しかし、本が与えてくれる悦楽は、活字が伝える内容だけにあるわけではない。電子書籍元年が、あらためて人と本の関係を考える、最初の年でもあってほしい。


評・碓井広義(上智大教授)

『借りぐらしのアリエッティ』は小品感漂う佳作

2010年09月06日 | 映画・ビデオ・映像

映画『借りぐらしのアリエッティ』を観た。

NHKと日テレ、それぞれのメイキング番組を見てあったこともあるが、
いろんな意味で予想通りの作品でした。

ひとことで言えば、佳作の小品。

というか、小品感の漂う佳作だ。

小人のアリエッティは、元気で、可愛くて、健気で。

もしも宮崎駿さんが監督していたら、もっと“借りぐらし”を軸にメッセージが強調されていたかもしれないが、米沢監督はそういう風にはしていない。

逆に、それがよかった。

ジブリ的大作ではなく、ちょっとせつないファンタジー。

そもそも“小人もの”というだけで、十分せつないのだ。

初めから、なぜか「ごめんね」(笑)、という気分で見てしまう。

それは原作「床下の小人たち」自体がそうで、小人が出てくる児童文学は、名作の誉れ高いものも基本的にはせつない。

映画の中で、少年・翔がアリエッティにこう言う。

「君たちは滅びゆく種族なんだよ」

うーん、ここは辛かった。

そうかもしれないけど、言われちゃったアリエッティは逃げ場がない。
かなり可哀想だった。

ストレート過ぎて、全体の中では違和感がある。

この部分の演出って、米沢監督の本心なのかな。

宮崎監督を、いやジブリブランドを意識してのものじゃないか、という気がする。考えすぎかもしれないけど。

とはいえ、前述のごとく佳作であるのは確かで、『ゲド戦記』よりは、
ナンボかいい(笑)。

おススメもできる。ただし、“小人もの”が大丈夫な人には。

米沢監督には、ほんと、「おつかれさまでした」と言いたいです。