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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

追悼・小林桂樹さん

2010年09月20日 | テレビ・ラジオ・メディア

俳優の小林桂樹さんが亡くなった。

16日のことだったそうだ。

小林さんと聞いて、真っ先に思い出すのは、1973年にTBSで放送されたドラマ『それぞれの秋』だ。

脚本は山田太一さん。

両親(小林桂樹・久我美子)と3人の子どもたち(林隆三・小倉一郎・高沢順子)という、一見ごく普通の家庭。

しかし、実はそれぞれが勝手なことを考え、行動していてバラバラなことに小倉一郎が気づく。

ある日、小林さん演じる父親が脳腫瘍で倒れたことで、家族も大きく変わり始める。

小林さんの口から出る、家族への罵詈雑言が凄まじかった。一種の本音かもしれないと妻も息子たちも思うのだ。

最近のドラマだと、3年前、倉本聰さん脚本の『拝啓、父上様』(フジテレビ)だろうか。

舞台となる料亭の女将(八千草薫)のパトロンという役柄で、小林さんが出演していた。どこか艶っぽさもある政界の大物が、見事にはまっていた。


映画だと、観てきたものでいえば、『日本のいちばん長い日』(1967年・東宝)、『日本沈没』(1973年・東宝)、『連合艦隊』(1981年・東宝)、『ゴジラ』(1984年・東宝)、そして伊丹十三監督の『マルサの女』(1987年・東宝)などたくさんある。

しかし、“小林桂樹さんの映画”という意味で忘れられないのは、岡本喜八監督作品『江分利満氏の優雅な生活』(1963年・東宝)である。

なんてったって“主役”なのだ。

映画の公開時には、私はまだ小学生で、観たのは大学生になってから。銀座か池袋の名画座だった。

当時、すでに山口瞳作品の愛読者だったから、直木賞受賞作『江分利満氏の優雅な生活』がどんなふうに映画化されていたのか、興味があったのだ。

画面の中の小林桂樹さんが、作者であり、いわば主人公でもある山口瞳さんに、とてもよく似ていたのを覚えている。

全体としては、重さと軽さ、暗さと明るさの入り混じる、ちょっと不思議なタッチの映画で(笑)、でも、いかにも岡本喜八監督という異色作だった。

主演ということが、そんなに多くなかった小林さんの、貴重な1本だ。

伊丹監督の『マルサの女』も印象に残っている。ヒロイン(宮本信子)の上司にあたる査察部の管理課長だ。

その他の作品でも、画面の中に小林さんがいると、据わりがいいというか、安定感というか、重厚感というか、どこかゼイタクな感じになった。そういう役者さんだった。


小林桂樹さんを追悼して、今夜は『江分利満氏の優雅な生活』を読んでいます。

合掌。

(写真は、47年前、1963年に文藝春秋から出た初版本)