テレビ時評 #選挙特番は投票日前に
●城西国際大学教授 佐滝剛弘
昨年秋に続く国政選挙となった第26回参議院議員選挙は7月10日に投開票が行われ、毎回同様テレビの各キー局は長時間の開票速報を繰り広げた。
「当確」(当選確実)競争と各党首などへのインタビューを中心とした開票速報は、見せ方に局ごとの違いはあれど、大枠は十年一日のごとくあまり変わりばえしなかった。しかし、今回の選挙では、事前の選挙戦さなかの報道のあり方について、これまでにない動きや現象が見られた。
□■市民からも声
一つは、「開票速報には全力を注ぐが、選挙期間中に投票の参考となるような検証や分析がほとんど報道されない」という課題に、市民からも疑問の声が高まったことである。
今回の選挙でも、経歴・政見放送を別にすれば、選挙期間中、選挙についての特集を組んだり、ニュース番組の中で長時間かけて報道する放送局はほとんどなく、テレビを見ている限り、選挙が行われていることさえ疑ってしまうほどだった。テレビ朝日系列は、選挙の仕組みや争点を伝える特番(「池上彰のニュースそうだったのか!!あすは参院選!)を夜の好視聴時間帯に放送したが、具体的な政党ごとの主張や争点を分析するということではなく、あくまで選挙の仕組みや争点の基礎を説明する初歩的な番組にすぎなかった。
近年、政権与党から「選挙の公平性」を求められ続けたこともあり、各局は時間的な公平を意識するあまり、演説を並べるだけだったり、そもそも取り上げないことで、批判をかわしてきた。
そうした後ろ向きの報道に一般の人からも疑問の声が湧き上がるようになったことが今回特筆すべきことである。オンライン署名プラットフォームの「チェンジ・ドツト・オーグ」では、「#選挙特番は投票日前に放送を」という呼びかけに6万近い署名を集め、各局に提出したし、一般紙にも「特番投票前に見たいのに」という特集記事が掲載された(7月5日付朝日新聞夕刊)。こうした市民の意識が高まれば放送局も無視できなくなるに違いない。
□■安倍氏の報道
もう一つは投票日の2日前に起きた安倍元首相の襲撃事件である。発生から深夜まで、テレビ東京を除く各キー局とNHKは、通常の番組の大半を飛ばして特別な報道態勢を敷いた。とはいえ、容疑者がつかまり、安倍氏の死亡も報道されたあとは、国内外の各界の反応を伝えるくらいしかなく、報道では犯行の瞬間の映像が繰り返されたり、安倍氏の「偉業」をたたえる談話や足跡をなぞるシーンが延々と流された。
あれほど「公平性」に気を使って選挙報道を避けてきた各局が、首相経験者が選挙運動中に撃たれるという重大な事件であったにせよ、手のひらを返すように特定の政党の派閥の長の「功績」を流し続けることには強い違和感を感じざるを得なかった。またその論調も、動機がまだ解明されていない中で、「民主主義や言論の自由への挑戦」などという政治家の勇ましい論調をなぞるものが多く、これによって「モリカケ」や「桜を見る会」など多くの疑惑の解明が事実上闇に消える可能性が高いことも含め、安倍氏の「功績」以外の部分にはほとんど触れないまま、称賛のインタビューやナレーションが続くのは「公平原則」に反しないのかどうか、考えさせられた。この長時間の特番対応が選挙にどう影響を及ぼしたかは、今後の詳細な分析を待つしかないが、あらためて選挙期間中の報道のあり方に一石を投じたと言えよう。
(さたき・よしひろ)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月13日付掲載
一つは、「開票速報には全力を注ぐが、選挙期間中に投票の参考となるような検証や分析がほとんど報道されない」という課題に、市民からも疑問の声が高まったこと。
オンライン署名プラットフォームの「チェンジ・ドツト・オーグ」では、「#選挙特番は投票日前に放送を」という呼びかけに6万近い署名を集め、各局に提出したし、一般紙にも「特番投票前に見たいのに」という特集記事が掲載された。
もう一つは投票日の2日前に起きた安倍元首相の襲撃事件。あれほど「公平性」に気を使って選挙報道を避けてきた各局が、首相経験者が選挙運動中に撃たれるという重大な事件であったにせよ、手のひらを返すように特定の政党の派閥の長の「功績」を流し続けることには強い違和感を感じざるを得なかった。
●城西国際大学教授 佐滝剛弘
昨年秋に続く国政選挙となった第26回参議院議員選挙は7月10日に投開票が行われ、毎回同様テレビの各キー局は長時間の開票速報を繰り広げた。
「当確」(当選確実)競争と各党首などへのインタビューを中心とした開票速報は、見せ方に局ごとの違いはあれど、大枠は十年一日のごとくあまり変わりばえしなかった。しかし、今回の選挙では、事前の選挙戦さなかの報道のあり方について、これまでにない動きや現象が見られた。
□■市民からも声
一つは、「開票速報には全力を注ぐが、選挙期間中に投票の参考となるような検証や分析がほとんど報道されない」という課題に、市民からも疑問の声が高まったことである。
今回の選挙でも、経歴・政見放送を別にすれば、選挙期間中、選挙についての特集を組んだり、ニュース番組の中で長時間かけて報道する放送局はほとんどなく、テレビを見ている限り、選挙が行われていることさえ疑ってしまうほどだった。テレビ朝日系列は、選挙の仕組みや争点を伝える特番(「池上彰のニュースそうだったのか!!あすは参院選!)を夜の好視聴時間帯に放送したが、具体的な政党ごとの主張や争点を分析するということではなく、あくまで選挙の仕組みや争点の基礎を説明する初歩的な番組にすぎなかった。
近年、政権与党から「選挙の公平性」を求められ続けたこともあり、各局は時間的な公平を意識するあまり、演説を並べるだけだったり、そもそも取り上げないことで、批判をかわしてきた。
そうした後ろ向きの報道に一般の人からも疑問の声が湧き上がるようになったことが今回特筆すべきことである。オンライン署名プラットフォームの「チェンジ・ドツト・オーグ」では、「#選挙特番は投票日前に放送を」という呼びかけに6万近い署名を集め、各局に提出したし、一般紙にも「特番投票前に見たいのに」という特集記事が掲載された(7月5日付朝日新聞夕刊)。こうした市民の意識が高まれば放送局も無視できなくなるに違いない。
□■安倍氏の報道
もう一つは投票日の2日前に起きた安倍元首相の襲撃事件である。発生から深夜まで、テレビ東京を除く各キー局とNHKは、通常の番組の大半を飛ばして特別な報道態勢を敷いた。とはいえ、容疑者がつかまり、安倍氏の死亡も報道されたあとは、国内外の各界の反応を伝えるくらいしかなく、報道では犯行の瞬間の映像が繰り返されたり、安倍氏の「偉業」をたたえる談話や足跡をなぞるシーンが延々と流された。
あれほど「公平性」に気を使って選挙報道を避けてきた各局が、首相経験者が選挙運動中に撃たれるという重大な事件であったにせよ、手のひらを返すように特定の政党の派閥の長の「功績」を流し続けることには強い違和感を感じざるを得なかった。またその論調も、動機がまだ解明されていない中で、「民主主義や言論の自由への挑戦」などという政治家の勇ましい論調をなぞるものが多く、これによって「モリカケ」や「桜を見る会」など多くの疑惑の解明が事実上闇に消える可能性が高いことも含め、安倍氏の「功績」以外の部分にはほとんど触れないまま、称賛のインタビューやナレーションが続くのは「公平原則」に反しないのかどうか、考えさせられた。この長時間の特番対応が選挙にどう影響を及ぼしたかは、今後の詳細な分析を待つしかないが、あらためて選挙期間中の報道のあり方に一石を投じたと言えよう。
(さたき・よしひろ)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月13日付掲載
一つは、「開票速報には全力を注ぐが、選挙期間中に投票の参考となるような検証や分析がほとんど報道されない」という課題に、市民からも疑問の声が高まったこと。
オンライン署名プラットフォームの「チェンジ・ドツト・オーグ」では、「#選挙特番は投票日前に放送を」という呼びかけに6万近い署名を集め、各局に提出したし、一般紙にも「特番投票前に見たいのに」という特集記事が掲載された。
もう一つは投票日の2日前に起きた安倍元首相の襲撃事件。あれほど「公平性」に気を使って選挙報道を避けてきた各局が、首相経験者が選挙運動中に撃たれるという重大な事件であったにせよ、手のひらを返すように特定の政党の派閥の長の「功績」を流し続けることには強い違和感を感じざるを得なかった。