きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

中小企業と賃上げ⑥ 支援第1位は社会保険料軽減

2024-11-15 06:59:46 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ⑥ 支援第1位は社会保険料軽減

静岡県立大学准教授 中澤秀一さん

日本の賃金の構造的引き上げには、最低賃金の引き上げが極めて重要です。今年の改定により、10月から最賃の全国加重平均額は1055円になりました。2015年に安倍晋三政権が「全国加重平均1000円」の目標を掲げてから、急ピッチで引き上げられています。昨年、次なる目標として岸田文雄政権は「30年代半ばまでに全国加重平均1500円」を掲げました。

最賃引き上げを
しかし、全国各地で実施されている最低生計費試算調査では、最賃は少なくとも1500円、人間らしい労働時間も加味すれば1700円ほどに引き上げるべきだとの結果が出ています。いますぐ1500円に引き上げなければならないのです。
近年の最賃引き上げは、中小企業経営にどのような影響を与えたでしょうか。また、いますぐ1500円に引き上げるとしたら、どのような条件が必要になるでしょうか。
表は、私たちが23年に中小企業の経営者を対象に実施した調査(経営者調査)の結果です。安倍政権が加重平均1000円の目標を掲げた時期から22年にかけての毎年約3%の最賃引き上げ(20年を除く)に対し、中小企業がどのような対応をしたのか示しています。
最も多い回答は「正規従業員の賃金水準を引き上げた」で34・6%でした。ミクロ経済学では「賃金を引き上げると雇用は減る」というのが通説ですが、経営者調査で「人員削減をした」は1割弱にすぎません。政府統計の「労働力調査」では、「勤め先や事業の都合」で失業した人は20~21年にかけて増大したほかは、ほぼ横ばいです。
次に、就労調整について見ましょう。昨年9月、岸田政権は年収の“壁”対策を打ち出しました。最賃を引き上げても、所得税の非課税限度額超えなどによる所得の目減りを避けるために就労時間を減らす動きがでると、人手不足が解消できないからだといいます。


2022年にかけての最低賃金引き上げへの対応(複数回答)
価格・料金に転嫁した29.7%
非正規従業員全体の賃金水準を引き上げた19.9%
正規従業員の賃金水準を引き上げた34.6%
正規従業員の賃金をカットした3.0%
人員削減をした9.1%
正規従業員を非正規に転換した1.0%
非正規従業員を正規に転換した2.5%
非正規従業員の労働時間を短縮した2.4%
正規従業員の労働時間を延長した0.9%
賃金以外のコストを削減した19.4%
高付加価値の製品・サービスを開発した4.4%
役員報酬を削減した18.0%
資産を取り崩した9.6%
借金をした9.7%
その他4.0%


就労調整は少数
しかし、経営者調査の回答企業では「就労調整をした人はいない」が43・4%、「1割未満」が26・5%、「1~2割程度」が13・2%と続き、就労調整は少数派でした。就労調整は、より規模の大きい企業の従業員で行われているのかもしれません。
では、中小企業経営者はどんな支援策を求めているのでしょうか。公的支援策の有効性について尋ねたところ、最も多いのは「社会保険料の負担軽減」の62・6%、次に「消費税率引き下げ」の60・5%、「賃上げ時の一時的な助成金の支給」の54・0%でした。このあたりは実際に経営者から要望としてよく聞きます。特に社会保険料の負担軽減は、近年の韓国での最賃引き上げに欠くことのできなかった支援策です。実現が望まれます。
また、「人材育成や人材確保への支援」は52・7%、「取引適正化に向けた法整備や行政指導」は48・6%、「低利融資・債務保証等の金融支援」は46・1%、「新技術や製品・サービスの開発への支援」は44・9%、「経営改善等に向けた専門家によるアドバイス」は36・9%と続きました。
最賃が大きく引き上げられても、賃金引き上げ分を価格・料金に転嫁できれば問題にはなりません。ただ、転嫁した結果、その企業の製品やサービスが“選ばれない”と経営は悪化します。経営者調査で「価格・料金に転嫁した」企業が29・8%と限定的なのは、“選ばれない”リスクを恐れたからでしょう。企業として“選ばれる”ように競争力を高めなければなりません。製品・サービスの品質、従業員の能力、ブランド力等の向上に資する支援策も考えなければなりません。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年11月7日付掲載


私たちが23年に中小企業の経営者を対象に実施した調査(経営者調査)の結果です。安倍政権が加重平均1000円の目標を掲げた時期から22年にかけての毎年約3%の最賃引き上げ(20年を除く)に対し、中小企業がどのような対応をしたのか示しています。
最も多い回答は「正規従業員の賃金水準を引き上げた」で34・6%でした。ミクロ経済学では「賃金を引き上げると雇用は減る」というのが通説ですが、経営者調査で「人員削減をした」は1割弱にすぎません。
中小企業経営者はどんな支援策を求めているのでしょうか。公的支援策の有効性について尋ねたところ、最も多いのは「社会保険料の負担軽減」の62・6%、次に「消費税率引き下げ」の60・5%、「賃上げ時の一時的な助成金の支給」の54・0%でした。このあたりは実際に経営者から要望としてよく聞きます。特に社会保険料の負担軽減は、近年の韓国での最賃引き上げに欠くことのできなかった支援策。
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中小企業と賃上げ⑤ 価格転嫁阻む値引き要請

2024-11-14 07:15:09 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ⑤ 価格転嫁阻む値引き要請

日本大学教授 村上英吾さん

私たちが2023年2月に実施した中小企業経営者に対する調査(経営者調査)では、22年以降のコスト上昇分を製品やサービスに価格転嫁できないだけでなく、取引先から値引き要請を受けている企業も少なくないことが明らかになりました。
取引先・顧客から一方的に取引価格や単価の値引きを要請されたことがあるかという質問に、「何度もあった」との答えが30・4%もあり、「定期的にあった」の5・0%と合わせると3分の1が頻繁に値引き要請をされていました。値引き要請をされたことが「ない」は57・2%、「1回だけある」は7・4%でした。




公的機関からも
21年の売上額の半数を企業、消費者、公的機関のいずれかが占めている中小企業について、主要取引先別に「対企業」「対消費者」「対公的機関」として分類し、値引き要請の頻度を集計しました(図)。「何度もあった」と回答したのは「対企業」が32・8%と最多でしたが、「対公的機関」も30・7%ありました。「対消費者」は24・6%でした。
値引き率(平均して価格の何パーセントを値引きするようにいわれたか)は、「1~10%未満」が19・4%、「10~20%未満」が16・8%、「20~30%未満」が4・5%、「30~50%未満」は1・2%、「50%以上」は0・9%でした(値引き要請がなかった企業の値引き率は「0%」です)。
こうした点や、連載3~4回目で見たような業種や規模の違い、労働者の発言権が与える影響を考慮した上で、企業の収支状況に影響を与える要因について分析しました。値引き要請が行われた、あるいは値引き率が高まると収支状況は有意に悪化する一方、コストの増加を価格転嫁できる割合が大きくなれば収支状況は有意に改善することが示唆されました。

収支状況を悪化
値引き要請はコスト増の価格転嫁を困難にして収支状況を悪化させる傾向があります。政府は下請け取引の適正化に取り組んでいますが、公的機関が過度の値引き要請により取引業者の価格転嫁を困難にし、収益性を圧迫していないかどうかも注意が必要です。
そのほかの収支を改善する要因としては、過去3年間に実施した国内設備投資、従業員の教育・能力閥発への投資は有意に収支を改曽させることが示唆されました。コロナ禍の影響もあるかもしれませんが、新製品や新技術の開発、広告宣伝の充実はむしろ有意に収支を悪化させるという結果が出ました。
ただし、これらはあくまで平均的な傾向であって、必要な対策は産業や個々の企業ごとに異なっているでしょう。個別企業の事情に応じて必要な対策にアクセスできるよう支援することが重要です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年11月6日付掲載


取引先・顧客から一方的に取引価格や単価の値引きを要請されたことがあるかという質問に、「何度もあった」との答えが30・4%もあり、「定期的にあった」の5・0%と合わせると3分の1が頻繁に値引き要請をされていました。値引き要請をされたことが「ない」は57・2%、「1回だけある」は7・4%。
「何度もあった」と回答したのは「対企業」が32・8%と最多でしたが、「対公的機関」も30・7%ありました。「対消費者」は24・6%。
値引き要請はコスト増の価格転嫁を困難にして収支状況を悪化させる傾向があります。政府は下請け取引の適正化に取り組んでいますが、公的機関が過度の値引き要請により取引業者の価格転嫁を困難にし、収益性を圧迫していないかどうかも注意が必要。
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中小企業と賃上げ④ 価格転嫁「全くできない」3割

2024-11-13 07:12:17 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ④ 価格転嫁「全くできない」3割

「標準的」経済学者たちは、賃上げを実現するには生産性の上昇が必要だと言い続けてきました。これは、彼らが依拠するミクロ経済学の基礎に「限界生産力説」があるからでしょう。

賃上げと生産性
労働の限界生産力は、労働投入量を1単位増やすことで増加する生産量のことです。ミクロ経済学では、生産設備を一定とすると、労働投入量を増やすにつれて生産量は増加しますが、稼働率が高くなるにつれて生産の増加量(労働の限界生産力)は低下すると考えます。これを収穫逓減法則の仮定といいます。この仮定のもとでは、ある水準を超えると売り上げの増加額がコストの増加額を下回り、利潤が減り始めると考えます。
したがって、売り上げの増加額がコストの増加額と等しいところで利潤が最大化されることになります。このことから、企業の利潤が最大化されるとき、実質賃金は労働の限界生産力と等しくなるという命題が導き出されます。それゆえ、実質賃金を引き上げるためには労働の限界生産力を上昇させなければならないと考えるのです。
生産性が上昇しないのに強制的に賃金を引き上げたらどうなるでしょうか(例えば最低賃金の引き上げ)。企業は利潤を最大化するために、限界生産力と賃金が等しくなるまで労働投入量を減少させ(労働需要が減少し)失業が増加します。これがミクロ経済学の論理です。
たしかに、私たちの賃金所得は経済全体の付加価値の合計である国内総生産(GDP)の一部ですから、付加価値を増やすことが賃金所得の増加につながります。
しかし、GDPは労働者の賃金と企業の利潤に分配されるので、GDPの増加分が利潤に分配されれば賃金は増えません。また、産業や企業によって生産性の上昇率は異なるので、経済全体の付加価値がどのように分配されるかも重要な問題です。生産性さえ上がれば実質賃金が上がるというのは、こうした問題を見落としています。




中小企業の実態
近年、生産性上昇率が低い部門で賃上げを実現するには価格転嫁が必要だということがようやく論じられるようになりました。政府も「成長と分配の好循環」を実現するためには「企業の適切な価格転嫁」が必要だとして、取り組みを進めつつあります。
私たちが2023年2月に実施した中小企業経営者に対する調査(経営者調査)の結果から、中小企業における価格転嫁の実態をみましょう。
経営者調査では22年以降のコスト上昇分を製品やサービスの価格にどの程度転嫁できたかについて、「全て転嫁できた」から「全く転嫁できなかった」まで6段階で回答してもらいました。全体として「全て転嫁できた」は8・5%、「8割以上転嫁できた」は13・8%、「5~8割程度転嫁できた」は17・0%、「2~5割程度転嫁できた」は15・6%、「1~2割程度転嫁一できた」は16・0%、「全く転嫁できなかった」は29・2%でした。
図は業種別の価格転嫁状況を示しています。「全く転嫁できなかった」が最も多いのは「医療・福祉」で57・7%でした。価格転嫁ができるよう十分な診療報酬・介護報酬の引き上げが求められます。次に「教育・学習支援業」と「金融・保険業」が40・0%、「不動産業・物品賃貸業」38・5%、「運輸業」38・4%、「情報サービス産業」37・0%と続きます。一方、8割以上転嫁できたという回答が多かったのは「卸売業」34・0%、「不動産業・物品賃貸業」27・4%、「金融・保険業」26・4%、「電気・ガス・水道業」26・3%でした。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年11月2日付掲載


GDPは労働者の賃金と企業の利潤に分配されるので、GDPの増加分が利潤に分配されれば賃金は増えません。また、産業や企業によって生産性の上昇率は異なるので、経済全体の付加価値がどのように分配されるかも重要な問題です。生産性さえ上がれば実質賃金が上がるというのは、こうした問題を見落としています。
近年、生産性上昇率が低い部門で賃上げを実現するには価格転嫁が必要だということがようやく論じられるようになりました。政府も「成長と分配の好循環」を実現するためには「企業の適切な価格転嫁」が必要だとして、取り組みを進めつつあります。
「全く転嫁できなかった」が最も多いのは「医療・福祉」で57・7%でした。価格転嫁ができるよう十分な診療報酬・介護報酬の引き上げが求められます。次に「教育・学習支援業」と「金融・保険業」が40・0%、「不動産業・物品賃貸業」38・5%、「運輸業」38・4%、「情報サービス産業」37・0%と続きます。
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中小企業と賃上げ③ 賃金・離職率に「発言効果」

2024-11-12 07:12:49 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ③ 賃金・離職率に「発言効果」

日本大学教授 村上英吾さん

筆者らは、2023年2月に中小企業経営者を対象に調査を実施しました(以下、経営者調査)。インターネット調査会社に登録しているモニターのうち、職業が「会社経営」「会社役員」「自営」のいずれかで、自社企業の正規・非正規従業員数が3人以上300人未満、創業年が19年以前の人を抽出し回答を依頼しました。ネット調査のため、回答者の年齢構成は70歳以上の割合が少なく、50歳未満の割合が多くなっています。

業種で収支に差
21年度の自社の収支状況について5段階で質問したところ、「黒字」は32・9%、「やや黒字」が22・8%でした。「ほぼ収支均衡」は20・5%、「やや赤字」は13・6%、「赤字」は10・2%でした。
国税庁が公表している黒字申告企業数(35・8%)と比べると経営状況の良い企業が多いように思われますが、他の調査(CRD協会のアンケート調査、TKC全国会の会員企業の申告状況)でも黒字企業が半数強を占めます。
収支状況は業種別に大きな差がありました。図1は5段階の回答を「黒字」「収支均衡」「赤字」の3区分にして業種別に示したものです。黒字と回答した企業が多かったのは「金融・保険業」の70・3%を筆頭に、「不動産業・物品賃貸業」66・4%、「電気・ガス・水道業」64・9%、「情報サービス産業」63・9%、「卸売業」58・5%、「建設業」58・5%、「専門サービス業」58・2%と続きます。一方、赤字が多かったのは「宿泊業・飲食サービス業」40・8%、「生活関連サービス・娯楽業」29・9%、「製造業」29・4%、「小売業」29・3%、「運輸業」26・9%でした。収支状況を規模別に見ると、規模が大きくなるほど黒字が多くなり、赤字が減少します(図2)。






経営者調査では地域の同規模の企業と比べた場合の自社の労働条件についても質問しました。正規従業員の労働時間が他社と比べて椙対的に短いと経営者が認識している企業ほど黒字の割合が高い傾向にありました。賃金に関しては、「大幅に高い」「どちらかといえば高い」という企業で黒字企業の割合が高く、「大幅に低い」という企業では赤字企業の割合が高い傾向がありました。

労働環境を改善
経済学における労働組合の役割に関する仮説の一つに「発言効果」があります。労働組合は団体交渉を通じて労働条件の改善に努めますが、単に賃金を引き上げるだけではなく、労働環境を改善させて労働者の不満を減らし、離職率の低下をもたらすことが指摘されています。離職率の低下は、採用や教育訓練のコストを抑制し、労働者全体の技能・能力水準を維持・向上させるため、企業の収益性を高める効果が期待されます。この点について検討した結果を紹介します。
経営者調査は中小企業を対象としており、労働組合がない企業が多数あると考えられたため、従業員が仕事の内容や進め方について意見や要望を述べられるかどうかに関する経営者の認識を従業員の労働環境への発言権と考えました。発言権のある企業では、正規従業員の労働時間が同規模の他社より短く、賃金は高く、離職率は低い傾向がありました。そこで、発言権が収支状況に影響を与えるかどうかについて分析したところ、企業規模や産業ごとの違いを考慮した上で、収支状況を有意に改善することを示唆する結果が得られました。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年11月1日付掲載


収支状況は業種別に大きな差がありました。図1は5段階の回答を「黒字」「収支均衡」「赤字」の3区分にして業種別に示したものです。
経済学における労働組合の役割に関する仮説の一つに「発言効果」。労働組合は団体交渉を通じて労働条件の改善に努めますが、単に賃金を引き上げるだけではなく、労働環境を改善させて労働者の不満を減らし、離職率の低下をもたらすことが指摘。
労働組合のない企業でも、発言権のある企業では、正規従業員の労働時間が同規模の他社より短く、賃金は高く、離職率は低い傾向が。そこで、発言権が収支状況に影響を与えるかどうかについて分析したところ、企業規模や産業ごとの違いを考慮した上で、収支状況を有意に改善することを示唆する結果が得られました。
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中小企業と賃上げ② 企業規模と生産性の関係

2024-11-11 06:30:58 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ② 企業規模と生産性の関係

日本大学教授 村上英吾さん

「中小企業淘汰(とうた)論」を振りまいたデービッド・アトキンソン氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータを用いて、中小企業で働く労働者の比率が高い国ほど生産性が低いことが証明されたと主張しています。
そこで私も、OECDデータを用いて散布図を作成しました(図1)。アトキンソン氏はOECD加盟38カ国中14カ国を抽出しましたが、私は直近で最もデータに欠損が少ない2016年のデータ(34カ国)を用いました。横軸は「大企業比率(250人以上の企業に勤める人の割合)」を、縦軸は「米ドル換算した労働時間あたりの国内総生産(GDP)」を示しています。




有意性見られず
図1の上方にある数式は、大企業比率を説明変数(x)、時間あたりGDPを被説明変数(y)として回帰分析した結果です。回帰分析は、特定の結果に特定の要因がどの程度影響したのかを調べる統計手法です。ここでは「労働時間あたりのGDP」という結果に、「大企業比率」という要因がどの程度影響したのかを分析しています。
回帰式の係数の下のカッコ内は、分析が統計的に有意かどうかを示しています(t値といいます)。t値はおおむね2を超えれば統計的に有意な結果と言えるのですが、x(大企業比率)の係数のt値は1・30で統計的に有意とは言えません。
グラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。




豊かな社会とは
少し前にアトキンソン氏の母国であるイギリスの研究者が来日した際、かつて日雇い労働者の街だった東京都台東区山谷の老舗の喫茶店「カフェ・バッハ」へ案内したのですが、個人経営の喫茶店が日雇い労働者の街に残っていることに感銘を受けていました。同店の門下生は全国に200人以上いるようですが、従業員数は十数人です。
私は仕事や旅行先で時間があると、街のジャズ喫茶を探してコーヒーを飲みに行くのを楽しみにしているのですが、日本にはこうした地域に根付いた個人店が各地に残っています。これらを大手チェーン店に置き換えることが豊かな社会と言えるでしょうか?生産性を重視するあまり、中小企業の淘汰ありきの議論になっていないか注意が必要です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月31日付掲載


図1のグラフの右下のメキシコやコロンビアなど中米諸国を例外としてデータを除外するとt値は3・20となりますが、結果に対する要因の寄与率を示すR²(決定係数といいます)は0・27で、大企業比率は国ごとの生産性のばらつきの4分の1程度を説明できるにすぎません。大企業比率が日本と同程度の国や日本より低い国でも生産性が高い国は多数あります。
図2は説明変数を小企業比率にしたものですが、中米諸国のデータがあってもなくても有意な結果は得られませんでした。つまり、OECDの国際比較データから、中小企業を減らして企業規模を大きくすれば生産性が高まるという結論を導き出すのは、やや短絡的だと言わざるを得ません。
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