課税新時代③ 最低税率へ新提案
政治経済研究所理事 合田寛さんに聞く
これまで法人税の引き下げ競争を先導してきたのは米国、英国など主要国でした。このまま続けば破滅的な「底辺への競争」を招き、各国の法人税収はなくなってしまう恐れがあります。
この流れを変えるためには、世界共通の最低税率を設定する国際的な合意が不可欠です。タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)、国際企業課税の改革を求める独立委員会(ICRICT)など、国際的市民運動や専門家は早くからそのために取り組んできました。
これまで国際的な最低税率を設定する交渉が進まなかった原因の一つに、税率の設定は各国の主権に属するものだという考え方がありました。しかし、税率引き下げ競争は自国だけでなく、他国の税収を奪う競争です。互いに他国の税収を奪い合うことが国の主権の名のもとに行われていいはずはありません。特にコロナ禍の下で命を守り、経済を回復するために各国が巨額の財源を必要としている今、国家間の税の競争はすべての国の主権を失わせるものといわなければなりません。
実現のチャンス
20カ国・地域(G20)と経済協力開発機構(OECD)が主導し、約140カ国が参加する「包摂的枠組み」が国際的最低税率の具体案を示し、米国が意欲的な姿勢に転じた今、それを実現する最大のチャンスが訪れています。
国際的最低税率制度の設計にあたっては、①最低税率の水準は十分な税収増が期待できる高さであること②税率引き上げによる増収分は多国籍企業の母国だけでなく経済活動に応じて各国が受け取ること③簡素な仕組みで実行が容易なこと―などに配慮する必要があります。
この4月、英国ランカスター大学のソル・ピチオットら国際的に著名な税制専門家グループは、法人税の国際的最低実効税率(METR)を設定する新しい提案を示しています。
新提案はOECD「包摂的枠組み」の下で行われてきた交渉の行き詰まりを打開し、これまでの合意を踏まえつつ、実現可能な提案としてまとめられています。新提案はグローバルな最低税率の設定によって多国籍企業が利益を低税率国に移転する誘因をなくし、投資の呼び込みを目的とした各国の優遇措置を抑制する効果を期待しています。
新提案は国際的な最低税率の水準として、世界の法人税率の加重平均である25%を提案しています。OECD「包括的枠組み」のブループリントは10・5%、米国の税制改革プランは21%なので、とりあえず妥当な提案といえます。
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新型コロナウイルスが原因で夫を亡くし、病院の外で慰められる女性=4月20日、インド・アーメダバード(ロイター)
日本税収増3位
新提案は多国籍企業が低課税によって得られた利益の総額を一定のルールにもとづいて各国に配分する、いわゆる「定式配分法」を提案しています。
配分の基準は各国の有形資産、雇用者数、売上高にもとづくものとし、配分された利益に対して、各国は自国の税率を適用して課税するというものです。
新提案によって期待される税収増は、設定される税率の水準によって異なります。新提案の25%を前提にすると、世界全体で7840億ドル(約86兆円)、米国案の21%でも5400億ドルの税収増が期待できます。
地域別に見ると、これまで巨大企業による利益移転の損害をもっとも多く受けてきた途上国、貧困国ほど、大きい税収増が期待されます。
国別ランキングでは、最大の税収増を得るのは米国で、1814億ドル(法人税収に占める割合は45%)となっています。次いで中国で1235億ドル(同24%)、3位に日本がランクされており、966億ドル(10兆円超、同50%)と、かなり大きい税収増が見込まれています。
ともあれ、決着のタイムリミットである今年半ばまでに、すべての国にとって好ましい国際的合意に達することは可能であるし、そうしなければなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月29日付掲載
多国籍企業が低課税によって得られた利益の総額を一定のルールにもとづいて各国に配分。
税収増により新型コロナ対策のための財源に期待が。
政治経済研究所理事 合田寛さんに聞く
これまで法人税の引き下げ競争を先導してきたのは米国、英国など主要国でした。このまま続けば破滅的な「底辺への競争」を招き、各国の法人税収はなくなってしまう恐れがあります。
この流れを変えるためには、世界共通の最低税率を設定する国際的な合意が不可欠です。タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)、国際企業課税の改革を求める独立委員会(ICRICT)など、国際的市民運動や専門家は早くからそのために取り組んできました。
これまで国際的な最低税率を設定する交渉が進まなかった原因の一つに、税率の設定は各国の主権に属するものだという考え方がありました。しかし、税率引き下げ競争は自国だけでなく、他国の税収を奪う競争です。互いに他国の税収を奪い合うことが国の主権の名のもとに行われていいはずはありません。特にコロナ禍の下で命を守り、経済を回復するために各国が巨額の財源を必要としている今、国家間の税の競争はすべての国の主権を失わせるものといわなければなりません。
実現のチャンス
20カ国・地域(G20)と経済協力開発機構(OECD)が主導し、約140カ国が参加する「包摂的枠組み」が国際的最低税率の具体案を示し、米国が意欲的な姿勢に転じた今、それを実現する最大のチャンスが訪れています。
国際的最低税率制度の設計にあたっては、①最低税率の水準は十分な税収増が期待できる高さであること②税率引き上げによる増収分は多国籍企業の母国だけでなく経済活動に応じて各国が受け取ること③簡素な仕組みで実行が容易なこと―などに配慮する必要があります。
この4月、英国ランカスター大学のソル・ピチオットら国際的に著名な税制専門家グループは、法人税の国際的最低実効税率(METR)を設定する新しい提案を示しています。
新提案はOECD「包摂的枠組み」の下で行われてきた交渉の行き詰まりを打開し、これまでの合意を踏まえつつ、実現可能な提案としてまとめられています。新提案はグローバルな最低税率の設定によって多国籍企業が利益を低税率国に移転する誘因をなくし、投資の呼び込みを目的とした各国の優遇措置を抑制する効果を期待しています。
新提案は国際的な最低税率の水準として、世界の法人税率の加重平均である25%を提案しています。OECD「包括的枠組み」のブループリントは10・5%、米国の税制改革プランは21%なので、とりあえず妥当な提案といえます。
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新型コロナウイルスが原因で夫を亡くし、病院の外で慰められる女性=4月20日、インド・アーメダバード(ロイター)
日本税収増3位
新提案は多国籍企業が低課税によって得られた利益の総額を一定のルールにもとづいて各国に配分する、いわゆる「定式配分法」を提案しています。
配分の基準は各国の有形資産、雇用者数、売上高にもとづくものとし、配分された利益に対して、各国は自国の税率を適用して課税するというものです。
新提案によって期待される税収増は、設定される税率の水準によって異なります。新提案の25%を前提にすると、世界全体で7840億ドル(約86兆円)、米国案の21%でも5400億ドルの税収増が期待できます。
地域別に見ると、これまで巨大企業による利益移転の損害をもっとも多く受けてきた途上国、貧困国ほど、大きい税収増が期待されます。
国別ランキングでは、最大の税収増を得るのは米国で、1814億ドル(法人税収に占める割合は45%)となっています。次いで中国で1235億ドル(同24%)、3位に日本がランクされており、966億ドル(10兆円超、同50%)と、かなり大きい税収増が見込まれています。
ともあれ、決着のタイムリミットである今年半ばまでに、すべての国にとって好ましい国際的合意に達することは可能であるし、そうしなければなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月29日付掲載
多国籍企業が低課税によって得られた利益の総額を一定のルールにもとづいて各国に配分。
税収増により新型コロナ対策のための財源に期待が。