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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑦ 性暴力 背景に経済的搾取

2021-07-31 07:07:41 | 新型コロナウイルス
コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑦ 性暴力 背景に経済的搾取
縫製産業がバングラデシュで始まったのは、1970年代後半でした。その後、急成長し、今では、中国に次ぐ世界第2位の衣料品輸出国に発展しました。
それを支えてきたのが、極めて低い賃金で働く女性労働者たちでした。多くは農村部出身で、仕事を見つけるために都市部に移住した人たちです。彼女らは、家族や地域社会からの支援の網の目から切り離されるため、彼女らへの暴力に対し、社会的対抗力を持てない特徴があります。

闇に埋もれ
自分たちの権利を主張すると激しい報復を受けることが少なからずあります。そのため、女性労働者の被害が表面化することはまれで、闇に埋もれた事件がどれほどあるのか誰にもわからないのが現実です。
そういう中でも、バングラデシュ労働者連帯センター(BCWS)などが実施した調査(2020年、「沈黙を破る暴力をやめろ」)は、実態の一端を明らかにしています。調査では、642人の労働者をインタビューしました。76%の労働者が、工場でジェンダーに基づく暴力を経験していました。工場での生産目標が高い場合や納入期限が厳しい場合、監督者に殴打されることが常態化しています。平手打ちされる(80%)、殴られる(44%)、蹴られる(42%、複数回答)ことが多いと報告しています。さらに6%が上司からレイプされていました。
工場の監督者たちは、国際ブランドから示された生産目標が達成されない場合、ボーナスを出さないなどと脅迫することがよくあります。多国籍企業である大手ブランドによる略奪的な購買慣行が繊維工場での暴力や嫌がらせに直接影響を与えていることを裏付けています。実際、64%の労働者が、生産目標を達成するための強烈な圧力にさらされていると感じ、そのため35%が上司からの辱めや身体的脅迫を受けたとしています。
ナズマさん(22)は、村を出て、工場でヘルパーとして働くために15歳のとき、都心部に出てきました。
工場では、上司による激しい暴力を受けました。上司たちは、彼女にわいせつな言葉を人前で投げつけてきました。彼女は家族の中で唯一の稼ぎ手でした。家族を養うため、肉体的・精神的虐待にたえざるをえませんでした。



バングラデシュ労働者連帯センターなどが実施した調査報告書

抗議できず
22歳のリパさんは田舎から出てきて、縫製工場で働き家族を支えました。2人の妹と病気の母親がいました。彼女の監督者は、「あなたはとても見た目がいい女の子だね。なぜあなたはそんなに大変な仕事をしているの」などと言って近づき、彼女の仕事を教えるという口実で、彼女の体に触れてきました。でも、彼女は抗議する方法を知りません。
ある日、事務室でレイプされました。リパさんは事件を工場の経営者に報告。ところが、工場側は、「あなたは女の子です。なぜこの事件について騒いでいるのですか?それは社会でのあなたの評判を汚します。給料をもらってこの地域を離れたほうがいい」と言われました。
アスマさん(19)は監督者からお金と生産目標を低くするなどの便宜と引き換えに、性行為を求められました。彼女が応じないと、仕事量が増えました。
クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)は、「ジェンダーに基づく暴力は経済的搾取の原因と結果」だと告発しています。ここには、国際ブランド企業や大手小売店という巨大資本による小規模資本の収奪の構図が横たわっています。
縫製産業の女性労働者は、男性労働者よりも2割程度賃金が低いのが実態です。性的暴力をも含んだ女性労働者への差別と支配は、男性も含んだ縫製工場労働者、縫製工場、そして縫製産業全体を搾取する基盤となっています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月22日付掲載


農村部から都市部に出てきて縫製工場で働く女性労働者。家族の中で唯一の稼ぎ頭。
若い女性ということで、監督者から性的嫌がらせ、ひいてはレイプまでされても抗議ができない。闇に埋もれてしまう実態。
縫製産業の女性労働者は、男性労働者よりも2割程度賃金が低いのが実態。性的暴力をも含んだ女性労働者への差別と支配は、男性も含んだ縫製工場労働者、縫製工場、そして縫製産業全体を搾取する基盤。

コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑥ 需要減少の犠牲は底辺に

2021-07-30 07:11:03 | 新型コロナウイルス
コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑥ 需要減少の犠牲は底辺に
新型コロナウイルス感染の世界的拡大は、世界の衣料品サプライチェーン(供給網)における脆弱(ぜいじゃく)性と力の不平等を劇的に示しました。2020年の初め、多くの世界的な衣料品ブランドと大型小売業者は、消費者需要の急激な減少に直面。彼らの対応は、その犠牲をサプライチェーンの底辺に押し付けることでした。大手ブランド・小売業者は、生産を委託している途上国の製造業者への注文を、突然中止したのです。

キャンセル
ペンシルベニア州立大学国際労働者権利センター(CGWR)が発表したバングラデシュの労働者への聞き取り調査(2020年3月21~25日)によると、工場や労働者への「壊滅的な打撃」が明らかになりました。半数以上の工場で仕掛かり品や完成品がキャンセルされました。CGWRは「買い手側は、契約上、これらの発注に対する支払いの義務があるにもかかわらず、違反を正当化するために、(契約違反の責任を負わない)不可抗力条項規定を悪用している」と批判しています。
▽買い手が注文をキャンセルした際、工場側がすでに購入した生地などの原材料の支払いを72・1%拒否。
▽買い手の91・3%が生産コストの支払いを拒否。
▽買い手の97・3%が、バングラデシュの法的権利でもある解雇された労働者の退職金への拠出を拒否。
▽買い手の98・1%が、法律で義務付けられている一時帰休の労働者に部分的な賃金を支払う費用の負担を拒否。
さらに、報告書は、調査対象となった工場の58%が、ほとんど、またはすべての操業を停止した、としました。
その結果、バングラデシュの100万人以上の縫製労働者が解雇、または一時解雇されたといいます。一時帰休となった労働者の72・4%が無給。解雇された労働者の80・4%が、退職金が支払われませんでした。
バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会(BGMEA)のルバナ・バク会長は、20年3月23日、ビデオメッセージを公表し、ブランド企業に対し、生産中あるいはすでに完成している衣服の注文をキャンセルしないように求めました。
「支援がなければ、労働者が路頭に迷ってしまう。私たちには耐えることのできない社会的混乱だ」と訴えました。
BGMEAの報告書「アパレルストーリー」(21年1月~2月号)によると、20年3月、1150の工場で国際的な買い手と小売業者から輸入の取り消しや中止があり、金額にして31億8000万ドル(約3500億円)に上るといいます。
工場は資金難となり、その結果、賃金の支払いが困難となりました。最悪の場合は、倒産や永久閉鎖に追い込まれました。その後、受注が85~90%まで回復しました。ところが、その多くが2割から3割の値引きを押し付けられています。



コロナ禍で困窮する縫製労働者へ緊急食料支援をするバングラデシュ衣料品産業労働者組合連合〈NGWF〉のスタッフ=2020年6月26日、ダッカ(NGWF提供)

街頭で抗議
街頭では抗議行動が発生。サウジアラビアの英字紙アラブ・ニュースは、賃金の支払いを求めた労働者たちが、口々に「脅威はコロナより、飢餓だ」(20年4月13日付)と叫んだと報道しました。
「私たちに、選択肢はない。私たちは飢えている。もし、家にとどまれば、ウイルスから身を守れるかもしれない。でも、だれが、私たちを飢えから救うのか」「2カ月間も賃金を受け取っていない。私たちは飢えている」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月21日付掲載


世界の衣料品サプライチェーン(供給網)における脆弱(ぜいじゃく)性と力の不平等を劇的に。
買い手側が一方的に契約をキャンセル。発展途上国側の工場は、資金力がなく労働者を解雇せざるをえない。倒産する企業も。
街頭では抗議行動が発生。賃金の支払いを求めた労働者たちが、口々に「脅威はコロナより、飢餓だ」

コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑤ 労組結成阻む脅しと暴力

2021-07-29 07:13:44 | 新型コロナウイルス
コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑤ 労組結成阻む脅しと暴力
ラナ・プラザビル崩壊事故は世界に衝撃を与えました。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのブラッド・アダムズ・アジア局長は、「工場での労働者の死の長い記録を考えると、この悲劇は悲しいことに予測可能でした」と強調しました。

命救う問題
「ラナ・プラザ工場の一つ以上で労働組合が組織されていれば、工場が崩壊した日、労働者は建物に入ることを拒否することができたはずです」と、アダムズ局長は強調します。「この悲劇は、バングラデシュで労働組合を組織する権利は、公正な賃金を得ることだけではなく、命を救うことの問題であることを示しています」
ヒューマン・ライツ・ウオッチは、バングラデシュの工場から衣服やその他の製品を購入するグローバル企業はサプライチェーン全体で労働者の安全を維持する責任があると強調します。崩壊した建物の中から欧米の大手アパレル企業のタグが発見され、その責任を問う声が高まりました。多国籍企業によるサプライチェーンの問題点を赤裸々に示すものだったのです。
バングラデシュ衣料品産業労働者組合連合(NGWF)のアミルル・バク・アミンさんは本紙のオンライン取材に、事故を経ても労働環境はわずかしか改善していないと語ります。
「安全性に関しては、NGWFなどの交渉によって、バングラデシュから衣料品を調達する約200の多国籍ブランド企業が、国際的な労働組合や地元の労働組合とアコードと呼ばれる安全協定に合意しました。労働環境がほんの少し改善したと思います」
事故から1カ月後の2013年5月、「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(アコード)」ができ、建物・火災対策・電気系統の3分野で安全性の点検が義務付けられました。
賃金もわずかに上がったものの、「労働者とその家族が生き延びるには不十分です」。
労働組合に関しては、政府が国際労働機関(ILO)条約第87号(結社の自由及び団結権保護条約)と、第98号(団結権及び団体交渉権条約)を批准しました。ところが、そこに待っていたのは、活動家への暴力と脅しの数々でした。
国際労働者の権利フォーラムが2015年に発表した報告書「私たちの声、私たちの安全」には労働者の証言が掲載されています。
報告書は、「労働者にとって、私たちがインタビューした圧倒的な話の筋は、依然として暴力、脅迫、排除であり、夢が『呪い』になり、進歩が『悪夢』に変わる物語だ」と指摘します。



ラナ・プラザ事故から8年の式典で演説するNGWF代表のアミンさん(中央)=4月24日、ダッカ(NGWF提供)

幸福望んで
組合活動家は言います。
「ある工場では、労働組合の登録手順をほぼ完了していたとき、一部の組合指導者が凶悪犯に連れ去られ、脅されました」。他の工場でも、労働者たちは脅されました。「おまえらを9メートルも12メートルもの深い穴へ投げ込むぞ。遺体は二度と見つからんぞ」「彼らは金を握らされ、工場を去り、組合を去ることにしました」
工場外で脅された組合活動家は言います。
「彼らは私を工場の外で脅しました。そのうちの1人は、鋭い武器で私に一発食らわせば、金がもらえるんだ、と」
別の労働者は言います。「ある工場では、経営者が武器を持ったギャングを雇いました。ある日、工場で激しい衝突が起こり、一部の労働者が重傷を負い、その組合運動も失敗に終わりました」
「縫製労働者の前進を妨げるものは何か」という問いに対し、24歳の労働者が答えています。「工場所有者から賄賂を渡され、立場を変える政府の人々がいます。警察は時に、私たちを口汚くののしり、時に、私たちを殴りさえします。警察は私たちを脅し、現場の人は私たちを殴り、嫌がらせをします」
それでも、組合づくりを阻止することはできません。
23歳の労働者はいいます。「私は拷問を恐れていません。私は、間違いなくいつか死ぬから。私を威嚇して利益を得ることはできません」「労働者たちが幸福になることを望んでいるので組合を組織しています」。組合活動家は、死をも覚悟しています。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月20日付掲載


「ラナ・プラザ工場の一つ以上で労働組合が組織されていれば、工場が崩壊した日、労働者は建物に入ることを拒否することができたはずです」
労働者は一人では資本に対して弱いけど、労働組合に加入すれば対等に交渉できる。
だからこそ、労組結成に際して脅しがかけられる。「おまえらを9メートルも12メートルもの深い穴へ投げ込むぞ。遺体は二度と見つからんぞ」と。

コロナ禍と資本主義 見えざる鎖④ ラナ・プラザ悲劇 8年の現実

2021-07-28 07:11:09 | 新型コロナウイルス
コロナ禍と資本主義 見えざる鎖④ ラナ・プラザ悲劇 8年の現実
2013年4月24目朝9時、バングラデシュの首都ダッカの北にあるサバールで、8階建てのラナ・プラザビルが一瞬のうちに倒壊しました。
事故の前日である4月23日には、壁に大きなひび割れが生じ、労働者たちが不安を訴えましたが、工場側は仕事につくように労働者に呼びかけました。労働者たちには、仕事をしないと解雇される恐れがあったのです。
翌日、悲劇が起こりました。労働者が仕事に就いた朝9時に、大音響とともにビルががれきと化したのです。一瞬の出来事でした。ビルの崩落で1138人の労働者が死亡し、2500人以上が負傷しました。

不吉な亀裂
イギリスのガーディアン紙(13年4月28日付)は当時の様子を次のように報道しました。
「(事故前日の)水曜日、(ビルの所有者である)ラナ氏は不吉な亀裂の発見にもかかわらず、建物は安全であると自信を持って主張した。彼は、五つの縫製会社に雇用されている3200人の労働者に、心配することは何もないので、仕事に戻るべきだと語った。『建物には小さな亀裂があるが、深刻なものは何もない』と彼は主張した。『それは100年持つ』と」
ラナ・プラザの悲劇から8周年にあたる今年4月24日。両親を失ったラナ・プラザの孤児たちが集まり、「再び、あの事故を繰り返さないで」との願いを込め、バングラデシュ衣料品産業労働者組合連合(NGWF)が主催する式典でキャンドルをともしました。
バングラデシュでは、ラナ・プラザビル崩壊事故以前にも、多くの工場で死亡事故が発生していました。欧州の衣料労働者団体などでつくるクリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)によると、06年から10年にかけて、460人を超す労働者が工場火災で死亡しました。さらに、12年11月には、112人が死亡したタズリーン・ファッションズ社の工場火災が発生したのです。しかも、今回のラナ・プラザビル崩落事故は、事前に労働者が危険を察知していたのです。
「ラナ・プラザ崩落は単なる事故ではなく、過失による労働者の殺害です」とNGWFは指摘します。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチが発表した15年4月の報告書「出る杭(くい)は打たれるバングラデシュの縫製工場における労働者の権利問題」には労働者の声が紹介されています。
1人の労働者が証言します。
「工場の所有者は利益を最大化することを望んでいます。そのため、換気、および衛生措置を取りません。彼らは火災の非常出口を設置したり、消火器を備蓄したりしません」「労働者を奴隷のように扱っているのです」



取材に応じるシルピさん(報復の恐れがあるため顔を隠しています)(バングラデシュ衣料品産業労働者組合連合〈NGWF〉提供)

「死ぬかと」
本紙のインターネット取材に、ラナ・プラザ事故に遭遇し、九死に一生を得たシルピさん(33=仮名=が応じてくれました。19歳から縫製労働者として働きはじめたシルピさんにとって、ラナ・プラザは二つ目の工場でした。ビルの倒壊で、がれきの下敷きになりました。
「このままレスキュー(救助隊)が来ず、死ぬかと思いました」
事故から21時間後に救出されましたが、事故で頭、背中、胸、脚と、ほぼ全身にけがを負いました。
事故後、いくつかの縫製工場で働いてきました。コロナ禍で工場が閉鎖されるまで、下請けの小さな工場で3カ月間働いていました。主にミシンでシャツを縫ってきました。1日10時間以上の労働です。休憩は長くても30分しかありません。しかも、決まった休憩時間はなかったといいます。
「仕事が終わって家に帰ると疲労でぐったりです」
工場監督から顔をたたかれるなどの暴力を振るわれたこともあります。
シルピさんには、2人の子どもがいます。職を失ったことで、子どもたちの教育費をどう稼いでいくのか、心配しています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月17日付掲載


「工場の所有者は利益を最大化することを望んでいます。そのため、換気、および衛生措置を取りません。彼らは火災の非常出口を設置したり、消火器を備蓄したりしません」「労働者を奴隷のように扱っているのです」…
まさに『資本論』に言われている「“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”これがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」ということが、21世紀の今も横行しているのです。

コロナ禍と資本主義 見えざる鎖③ 慢性疾患 居住環境も劣悪

2021-07-27 07:17:11 | 新型コロナウイルス
コロナ禍と資本主義 見えざる鎖③ 慢性疾患 居住環境も劣悪
カナダの慈善団体(SHF)の報告書は、縫製労働者たちが陥っている健康問題を告発しています。
金銭的な余裕がなくなったとき健康問題は、後回しになります。報告書によると、インタビューに応じた女性の3分の2が、慢性疾患に苦しんでいました。各工場は、医師と看護師のいる医療施設が義務付けられていますが、限られた治療しかできず、薬も不足しています。治療が必要なときでも、医師にすぐに相談できない貧弱な体制です。
多くの労働者が、長時間で過酷な作業により、背中や関節の痛み、頭痛、呼吸困難、尿路感染症の症状を訴えています。労働者たちは、一日中、できるだけ水を飲まないといいます。トイレ休憩をとると生産ラインから脱落しかねないからです。その結果、極度の脱水症や尿感染症が常態化しています。



縫製工場で働く労働者=2月7日、バングラデシュのガジプール(ロイター)

熟睡できず
モモタさんは、最後に熟睡したのがいつだったのか覚えていません。工場は2シフト制で、朝のシフトは午前7時30分に始まります。夜のシフトの始まりは午後7時30分です。彼女は、隔週で夜のシフトに入らなければならず、一つの睡眠サイクルに体が慣れる前に、別の勤務番に切り替えなければなりません。慢性的な睡眠不足と、職場環境のストレスがモモタさんの健康をむしばみます。1年半前、13時間のシフトで疲れ果て、軽い脳卒中で倒れました。
「家に帰ると、疲れてめまいがしたので、いつもより、早く寝ました。真夜中に、冷や汗で目が覚めましたが、体の左半身が動きませんでした。死ぬかと思いました。夫が病院に連れていってくれなければ、永久に、私の体は麻痺(まひ)していたかもしれません」
とモモタさんは振り返ります。
コロナの発生と、受注の減少で、職場のストレスが高まっています。監督官たちは、以前よりも冷酷になったとモモタさん。「絶え間ないストレスとプレッシャーで私の血圧が急上昇したら、治療法はありません」
労働者たちの居住環境は、独房よりも劣悪です。
リアさんとその4人の家族は、彼女が働く工場から1キロ離れた1階のひと部屋を共有しています。部屋には、ベッドひとつのスペースしかありません。調理器具と台所用品は、ベッドの下に詰め込んで置かれています。床に空いたわずか60センチの空間が調理場と子どもたちの遊び場を兼ねています。共同トイレは外にあり、20人が使用。よく詰まるといいます。この部屋を借りたのは、「工場に近く、昼休みに帰ってきて、2歳の子どもに食事を与えることができたから」。でも「スペースがない。太陽の光が入らない。そして、すぐ外に排水設備があるので、部屋の中の小さな窓を開けると、臭いがすぐに充満します」。リアさんは言います。「私は、近くに住まいを探しています。でも、私たちの稼ぎでは無理」

台所を共用
ロシュニさんは、ほかの五つの家族と台所を共用しなければなりません。「台所には二つのコンロがあります。私たちは、同じ時間に食事を作ります。私は、列の最初になるように、4時30分に起きますが、ほかの人も同じ考えで、毎朝、家を出るまで戦争です。夜8時に家に帰ってきたときも、同じです。みんな夕食をつくるためにコンロをめぐってのたたかいになります」
バングラデシュのシンクタンク政策対話センター(CPD)によると、他の家族とトイレを共有している労働者は86%、台所を共有している労働者は85%に達します。17%の労働者が床に直接寝ています。
劣悪なのは労働者の住まいだけではありません。工場もまた、違法建築が横行していたのです。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月16日付掲載


労働者たちは、一日中、できるだけ水を飲まないといいます。トイレ休憩をとると生産ラインから脱落しかねないからです。その結果、極度の脱水症や尿感染症が常態化。
バングラデシュのシンクタンク政策対話センター(CPD)によると、他の家族とトイレを共有している労働者は86%、台所を共有している労働者は85%。
共有と言っても、5~6世帯で共有っていうのだから住環境は劣悪。