八ツ場(やんば)ダムをはじめ、全国のダム計画が見直されている中、国交省元幹部が語る!
八ツ場(やんば)ダムをはじめ、全国のダム計画が見直されているなか、国土交通省でダム事業に携わってきた専門家が、“初めにダムありき”の国交省の姿勢を批判しています。同省近畿地方整備局の元河川部長で、淀川水系流域委員会委員長も務めた宮本博司氏に聞きました。
三浦誠記者
優先すべきはダムより堤防
私は若いときには霞が関の建設省(現、国土交通省)で、ダムや河口堰(ぜき)を計画していました。1990年に岡山県の苫田(とまた)ダム工事所長となって初めて、住民の痛みや苦しみにふれました。
当時、500戸のうち430戸が推進、70戸が絶対反対でした。町は推進と反対に分かれ、家族ですら、いがみ合う関係が数十年続いていました。
私たちは現場のことは何も分からず、机上でものを考えていたんですね。私は、絶対にこういう人たちをごまかしたらいかん、うそをついたらいかん、と誓いました。
ダム建設の理由として国交省が主にあげるのは、「利水」と「治水」です。
利水は、いまや水需要がどんどん増えるという理屈は通りません。そこで国交省は、何十年に1回という渇水に備えてなどといっていますが、それを言い出したらキリがない。もはや、ダムをつくるためにどんな理屈でもつける状況になっています。
利水・治水言うが
治水については、その目的は住民の命を守ることです。国交省は、都市部の河川で200年に1回の大雨を想定し、ダムで水をため、洪水を防ごうと計画しています。
しかし、実際には、ダムの効果には、限界があります。首都圏の利根川のよう
に流域が広いところでは、上流の群馬県にダムをつくっても、下流で豪雨が降れば効果はありません。堤防が壊れてしまいます。堤防が一気に決壊すれば多くの人命が失われます。堤防は堅そうに見えますが、土や砂を盛ってあるだけ。洪水が堤防を越えれば、簡単に破壊されます
住民の命を守るためにいま最優先になすべきは、ダム建設ではなく、すでにある堤防の強化です。国交省の計画の方向を変えないといけないと思いますね。
根本的には、ダムに水をため、洪水を押し込め、はんらんを防ぐという考え方自体がおかしいのです。
地域住民から離れてはダメ
日本の洪水対策の基本は長年にわたって、洪水エネルギーを地域に分散させるということでした。堤防が低い場所をつくり、わざと洪水をあふれさせ、下流に洪水を集中させないという手法でした。
それが明治以降の近代治水は、堤防を高くして、降った雨をすべて川に集めるようにしました。
押さえ込もうとすればするほど、堤防が切れたときの被害はひどくなります。
堤防を高くした結果、洪水がはんらんしやすい地域まで都市開発が進みました。非常に不自然で、水害にもろい地域をつくってきたのです。
本当に安心できる地域をつくるためには、洪水エネルギーを分散させ土地利用を変えることです。洪水があふれる地域は遊水池(ゆうすいち)にしたり、公園や農地にしたりなど土地利用を変えることが必要です。
情報公開し議論を
流域全体での治水にいたるには地域住民の意見が反映される保障が必要です。
国交省が持つ全情報を公開し、地域みんなで議論しあって、大半の人が「なるほど」と思えるような手順を経て、治水計画を決定しなければなりません。
実は、国交省河川局でも流域全体で治水をしようという話は何度も出ていました。が、方向転換しようとするたびに、国交省内でゆり戻しが出るのです。以前の計画を否定することは自分たちの正しさを否定することになるからです。
このゆり戻しの流れをどこかで断ち切らないといけない。政権が交代したいまがチャンスです。
新しい政権にも、現場で地域の人と話し合って政策を出すことを望みたい。現場の痛みから離れてはいけません。
群馬県の八ツ場ダムにしても、水没住民の生活がたちゆくようまず補償することが最優先です。
「ダムがなければ住民の生活が悲惨になる」というように、住民を盾にとってダム建設を進めるようなやり方は絶対にしてはなりません。
公共事業は本来、地域住民のためにやるものです。その公共事業で役所と地域住民が争うという悲劇を繰り返してはなりません。
【近畿地方整備局元河川部長 宮本博司さん】
1978年に建設省入省。苫田ダム事務所長、長良川河口堰建設所長として反対住民と対話。近畿地方整備局では淀川河川事務所長、河川部長などを経て、06年に国交省を退職。07年には淀川水系流域委員会委員長に就任しました。同委員会は、宮本氏が淀川河川事務所長の時に立ち上げたもので、淀川水系河川整備計画に住民の意見を反映させるのが目的。
「しんぶん赤旗日曜版」2009年11月1日付けより紹介します。
八ツ場(やんば)ダムをはじめ、全国のダム計画が見直されているなか、国土交通省でダム事業に携わってきた専門家が、“初めにダムありき”の国交省の姿勢を批判しています。同省近畿地方整備局の元河川部長で、淀川水系流域委員会委員長も務めた宮本博司氏に聞きました。
三浦誠記者
優先すべきはダムより堤防
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当時、500戸のうち430戸が推進、70戸が絶対反対でした。町は推進と反対に分かれ、家族ですら、いがみ合う関係が数十年続いていました。
私たちは現場のことは何も分からず、机上でものを考えていたんですね。私は、絶対にこういう人たちをごまかしたらいかん、うそをついたらいかん、と誓いました。
ダム建設の理由として国交省が主にあげるのは、「利水」と「治水」です。
利水は、いまや水需要がどんどん増えるという理屈は通りません。そこで国交省は、何十年に1回という渇水に備えてなどといっていますが、それを言い出したらキリがない。もはや、ダムをつくるためにどんな理屈でもつける状況になっています。
利水・治水言うが
治水については、その目的は住民の命を守ることです。国交省は、都市部の河川で200年に1回の大雨を想定し、ダムで水をため、洪水を防ごうと計画しています。
しかし、実際には、ダムの効果には、限界があります。首都圏の利根川のよう
に流域が広いところでは、上流の群馬県にダムをつくっても、下流で豪雨が降れば効果はありません。堤防が壊れてしまいます。堤防が一気に決壊すれば多くの人命が失われます。堤防は堅そうに見えますが、土や砂を盛ってあるだけ。洪水が堤防を越えれば、簡単に破壊されます
住民の命を守るためにいま最優先になすべきは、ダム建設ではなく、すでにある堤防の強化です。国交省の計画の方向を変えないといけないと思いますね。
根本的には、ダムに水をため、洪水を押し込め、はんらんを防ぐという考え方自体がおかしいのです。
地域住民から離れてはダメ
日本の洪水対策の基本は長年にわたって、洪水エネルギーを地域に分散させるということでした。堤防が低い場所をつくり、わざと洪水をあふれさせ、下流に洪水を集中させないという手法でした。
それが明治以降の近代治水は、堤防を高くして、降った雨をすべて川に集めるようにしました。
押さえ込もうとすればするほど、堤防が切れたときの被害はひどくなります。
堤防を高くした結果、洪水がはんらんしやすい地域まで都市開発が進みました。非常に不自然で、水害にもろい地域をつくってきたのです。
本当に安心できる地域をつくるためには、洪水エネルギーを分散させ土地利用を変えることです。洪水があふれる地域は遊水池(ゆうすいち)にしたり、公園や農地にしたりなど土地利用を変えることが必要です。
情報公開し議論を
流域全体での治水にいたるには地域住民の意見が反映される保障が必要です。
国交省が持つ全情報を公開し、地域みんなで議論しあって、大半の人が「なるほど」と思えるような手順を経て、治水計画を決定しなければなりません。
実は、国交省河川局でも流域全体で治水をしようという話は何度も出ていました。が、方向転換しようとするたびに、国交省内でゆり戻しが出るのです。以前の計画を否定することは自分たちの正しさを否定することになるからです。
このゆり戻しの流れをどこかで断ち切らないといけない。政権が交代したいまがチャンスです。
新しい政権にも、現場で地域の人と話し合って政策を出すことを望みたい。現場の痛みから離れてはいけません。
群馬県の八ツ場ダムにしても、水没住民の生活がたちゆくようまず補償することが最優先です。
「ダムがなければ住民の生活が悲惨になる」というように、住民を盾にとってダム建設を進めるようなやり方は絶対にしてはなりません。
公共事業は本来、地域住民のためにやるものです。その公共事業で役所と地域住民が争うという悲劇を繰り返してはなりません。
【近畿地方整備局元河川部長 宮本博司さん】
1978年に建設省入省。苫田ダム事務所長、長良川河口堰建設所長として反対住民と対話。近畿地方整備局では淀川河川事務所長、河川部長などを経て、06年に国交省を退職。07年には淀川水系流域委員会委員長に就任しました。同委員会は、宮本氏が淀川河川事務所長の時に立ち上げたもので、淀川水系河川整備計画に住民の意見を反映させるのが目的。
「しんぶん赤旗日曜版」2009年11月1日付けより紹介します。