宇宙技術の“光と影” イプシロン~政・財界が狙う軍事転用
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げが今月14日、成功しました。国産の固体燃料ロケット打ち上げは7年ぶり。低コスト・高性能化で新しい宇宙輸送の時代を開く挑戦は、大きな喝采をあびました。しかし、日本の宇宙政策は軍事・産業優先へ大きくかじを切っており、手放しでは喜べない状況があります。イプシロンをとりまく宇宙技術の光と影とは―。
仲村秀生
「これまでの日本のロケット開発の集大成として、きれいに飛んで行った」。打ち上げ後の会見で、開発チームの森田泰弘教授は会心の笑みをみせました。
イプシロンは、小惑星探査機「はやぶさ」など数々の探査機・科学衛星を打ち上げてきた世界最高性能の固体燃料ロケット「M(ミュー)5」の後継機です。命題だったコスト削減を達成、これまで数十人で行っていた打ち上げ管制をパソコン2台を数人で操作するだけの“モバイル管制”に変え、ロケット打ち上げに革命をもたらしました。
今回打ち上げた小型天文衛星は太陽系惑星の進化を解明します。2015年には、太陽活動によって地球周辺の宇宙環境が変化し通信障害や人工衛星の故障を引き起こす宇宙嵐の謎を探る「ジオスペース探査衛星」を打ち上げるなど、今後、宇宙のより深い理解に貢献すると期待されます。

打ち上げられた新型固体燃料ロケット「イプシロン」1号機=9月14日、鹿児島県肝付町(JAXA提供)
1週間で発射可
しかし、開発チームの意図とは別に即応性に優れた固体燃料ロケット技術の軍事転用が懸念されます。
自衛隊の準広報紙「朝雲」は6月、防衛技術としてイプシロンを特集。「発射準備1週間でOK」だと着目し、「安全保障面からも大きなメリット」(27日付)と報じました。
「産経」は、固体燃料ロケットが弾道ミサイルの中核的技術だと指摘。日本の核武装の選択の自由という角度から、核兵器国や非友好国に「侮られないための保険」として打ち上げ成功を歓迎(9月21日付ネットニュース「安倍政権考」)。
自民党政務調査会の国防部会は2010年の提言で「日米安保体制下の敵ミサイル基地攻撃能力の保有」のため、固体燃料ロケット岡技術の活用にも言及。「わが国の宇宙科学技術力を総合的に結集」し、巡航ミサイルや小型固体燃料ロケット技術を組み合わせた飛翔体を正確に弾着させる攻撃能力をもつことが必要だとしています。
産業界も安全保障利用の推進要求を強めています。日本航空宇宙工業会は、固体燃料ロケットが得意とする小型偵察衛星の量産・打ち上げを提言しています。背景には、研究開発以外の衛星の政府調達を国際公開調達で行うと定めた、1990年の「日米衛星調達合意」があります。国際公開調達の“抜け道”となる「安全保障」用途の政府需要を増やすことで、着実なもうけを得る狙いです。
日本の宇宙開発利用は、1969年の国会決議で「非軍事」に限定されてきました。しかし2008年、自民・公明・民主の各党が、宇宙開発利用の目的に「安全保障」を掲げた宇宙基本法を強行。さらに12年のJAXA法改悪で「平和の目的に限り」業務を行うという規定を削除。今年1月改定の宇宙基本計画にはJAXAの「安全保障分野における貢献が重要」と明記し、軍事動員の意図をあらわにしました。
4月にはJAXAと防衛省技術研究本部が研究協力協定を結ぶなど、科学者・技術者を無理やり軍事研究に追い立てる動きが加速しています。
平和憲法の国で
災害対応と安全保障を導入目的に掲げた情報収集衛星(軍事スパイ衛星)の撮影画像が東日本大震災の被災状況を含めていっさい公開されないように、宇宙技術が軍事機密のべールに包まれてしまえば、平和利用分野での停滞をもたらすことは明らかです。折しも政府は秘密保護法案の提出を狙っています。
半世紀の日本の宇宙開発史は、科学・技術が、軍事ではなく、天文や惑星探査などの平和的な動機を原動力に発展することを証明しています。平和憲法をもつ日本は「非軍事」に徹するべきです。
(社会部宇宙担当)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年9月30日付掲載
サイエイスZEROでもイプシロンは取り上げられました。
◆名前の由来~ギリシャ文字(「E(イプシロン)」)を使ったことと、Evolution & Excellence(技術の革新・発展)という思いを込めている
◆固体燃料の燃焼効率を格段にアップ
◆ロケット本体が正確に組みあがっているか、点検をロケット本体に内蔵されたコンピューターでできるようにしたこと。
◆宇宙の敷居を低くすること。
◆衛星の投入軌道への姿勢制御の機能をロケット本体に持たせたこと。
などなど…
大学や高校の研究者、町工場などの技術者などが小型衛星を格安の資金で発射できるようになることはうれしい事です。
軍事ではなく、その方向で発展していってほしいものですね。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げが今月14日、成功しました。国産の固体燃料ロケット打ち上げは7年ぶり。低コスト・高性能化で新しい宇宙輸送の時代を開く挑戦は、大きな喝采をあびました。しかし、日本の宇宙政策は軍事・産業優先へ大きくかじを切っており、手放しでは喜べない状況があります。イプシロンをとりまく宇宙技術の光と影とは―。
仲村秀生
「これまでの日本のロケット開発の集大成として、きれいに飛んで行った」。打ち上げ後の会見で、開発チームの森田泰弘教授は会心の笑みをみせました。
イプシロンは、小惑星探査機「はやぶさ」など数々の探査機・科学衛星を打ち上げてきた世界最高性能の固体燃料ロケット「M(ミュー)5」の後継機です。命題だったコスト削減を達成、これまで数十人で行っていた打ち上げ管制をパソコン2台を数人で操作するだけの“モバイル管制”に変え、ロケット打ち上げに革命をもたらしました。
今回打ち上げた小型天文衛星は太陽系惑星の進化を解明します。2015年には、太陽活動によって地球周辺の宇宙環境が変化し通信障害や人工衛星の故障を引き起こす宇宙嵐の謎を探る「ジオスペース探査衛星」を打ち上げるなど、今後、宇宙のより深い理解に貢献すると期待されます。

打ち上げられた新型固体燃料ロケット「イプシロン」1号機=9月14日、鹿児島県肝付町(JAXA提供)
1週間で発射可
しかし、開発チームの意図とは別に即応性に優れた固体燃料ロケット技術の軍事転用が懸念されます。
自衛隊の準広報紙「朝雲」は6月、防衛技術としてイプシロンを特集。「発射準備1週間でOK」だと着目し、「安全保障面からも大きなメリット」(27日付)と報じました。
「産経」は、固体燃料ロケットが弾道ミサイルの中核的技術だと指摘。日本の核武装の選択の自由という角度から、核兵器国や非友好国に「侮られないための保険」として打ち上げ成功を歓迎(9月21日付ネットニュース「安倍政権考」)。
自民党政務調査会の国防部会は2010年の提言で「日米安保体制下の敵ミサイル基地攻撃能力の保有」のため、固体燃料ロケット岡技術の活用にも言及。「わが国の宇宙科学技術力を総合的に結集」し、巡航ミサイルや小型固体燃料ロケット技術を組み合わせた飛翔体を正確に弾着させる攻撃能力をもつことが必要だとしています。
産業界も安全保障利用の推進要求を強めています。日本航空宇宙工業会は、固体燃料ロケットが得意とする小型偵察衛星の量産・打ち上げを提言しています。背景には、研究開発以外の衛星の政府調達を国際公開調達で行うと定めた、1990年の「日米衛星調達合意」があります。国際公開調達の“抜け道”となる「安全保障」用途の政府需要を増やすことで、着実なもうけを得る狙いです。
日本の宇宙開発利用は、1969年の国会決議で「非軍事」に限定されてきました。しかし2008年、自民・公明・民主の各党が、宇宙開発利用の目的に「安全保障」を掲げた宇宙基本法を強行。さらに12年のJAXA法改悪で「平和の目的に限り」業務を行うという規定を削除。今年1月改定の宇宙基本計画にはJAXAの「安全保障分野における貢献が重要」と明記し、軍事動員の意図をあらわにしました。
4月にはJAXAと防衛省技術研究本部が研究協力協定を結ぶなど、科学者・技術者を無理やり軍事研究に追い立てる動きが加速しています。
平和憲法の国で
災害対応と安全保障を導入目的に掲げた情報収集衛星(軍事スパイ衛星)の撮影画像が東日本大震災の被災状況を含めていっさい公開されないように、宇宙技術が軍事機密のべールに包まれてしまえば、平和利用分野での停滞をもたらすことは明らかです。折しも政府は秘密保護法案の提出を狙っています。
半世紀の日本の宇宙開発史は、科学・技術が、軍事ではなく、天文や惑星探査などの平和的な動機を原動力に発展することを証明しています。平和憲法をもつ日本は「非軍事」に徹するべきです。
(社会部宇宙担当)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年9月30日付掲載
サイエイスZEROでもイプシロンは取り上げられました。
◆名前の由来~ギリシャ文字(「E(イプシロン)」)を使ったことと、Evolution & Excellence(技術の革新・発展)という思いを込めている
◆固体燃料の燃焼効率を格段にアップ
◆ロケット本体が正確に組みあがっているか、点検をロケット本体に内蔵されたコンピューターでできるようにしたこと。
◆宇宙の敷居を低くすること。
◆衛星の投入軌道への姿勢制御の機能をロケット本体に持たせたこと。
などなど…
大学や高校の研究者、町工場などの技術者などが小型衛星を格安の資金で発射できるようになることはうれしい事です。
軍事ではなく、その方向で発展していってほしいものですね。