きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

資本主義の現在と未来 気候変動⑧ 生産手段の社会化を推進 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-16 06:53:08 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動⑧ 生産手段の社会化を推進 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

―気候危機のティッピングポイント(転換点)回避の取り組みは、社会にどのような変化をもたらしますか。
ティッピングポイントの回避には、これまでの持続不可能な生産のあり方を、持続可能なあり方に転換することが不可欠です。具体的には、エネルギー生産を化石燃料から再生可能エネルギー中心に、物的生産は完全循環型へ切り替えることです。

廃棄から循環へ
そのことによって、エネルギーは、企業だけでなく、市民や自治体、協同組合など「あらゆる主体」が所有する多様な再エネ発電所で生産されるようになります。従来の資本主義的な生産手段の所有形態を大きく変えることになります。私はこれを「生産手段の民主的社会化」と呼んでいます。気候危機防止の中核となる再エネ100%社会をつくる取り組みが、エネルギー生産手段の民主的社会化を必然的に推進することになるのです。
完全循環型社会の実現も物的生産のあり方を大きく変えます。従来は生産過程と消費過程が分断され、生産物は最終的に廃棄されました。完全循環型の社会では、生産物は使用後に再資源化して繰り返し使われ、それができない有機物原料はエネルギーや肥料に有効活用されます。廃棄が前提の消費過程は再資源化に向かう生産の「静脈過程」に変わり、市民を中心にあらゆる主体が生産の一翼を担うようになり、生産手段の民主的社会化が生じます。
その結果、生産のあり方は、利潤優先の資本主義的生産から、人間や社会の発展のための生産へと変わっていくことになります。




―デンマークでは生産手段の民主的社会化が進んでいるという話でした。(連載⑥)
デンマークは資本主義社会ですが、再エネを中心に生産手段の民主的社会化が進んだことで、かなり社会主義的な意味合いを持った社会になっています。
ギャラップ社の調査をもとにした24年の世界幸福度調査でデンマークは世界2位です。高い1人当たり国内総生産や充実した社会保障、少ない格差、高い個人の自由度や肯定的感情、少ない政治やビジネスの汚職などが要因です。

発展の扉を開く
デンマークは労働時間が短く、午後4時にはほとんどの人が帰宅の途につきます。労働時間は短いのに、国際経営開発研究所が発表している国際競争力ランキングでは23年1位、24年3位です(日本は24年38位)。
デンマークは教育費も医療費も全部無料です。18歳になって収入がなければ生活費が支給されますし、転職するときは研修の機会が与えられます。再エネ普及と同時に物的生産でも循環型化を早くから追求してきました。国民1人ひとりの力量を高める機会を保障し、循環型化で社会全体の無駄をなくしたことが国際競争力の高さにつながっています。
1980年代に原発を持たないと決め、96年には世界に先駆けて2030年までに二酸化炭素排出量を半減すると決め、11年には35年までに電力と熱、50年までに全エネルギーを再エネ100%にすると決定しています。こうした国家の重要方針は、常に国民的議論を経て民主的に決めているのも特徴です。
気候危機という人類が直面している最大の矛盾に市民が積極的に関わり、生産手段の民主的社会化を実現することは、社会発展の扉を開く大きな力になります。そのことは一部の人間に巨大な富が集中する構造を転換し、貧富の格差是正や労働時間の短縮、自由な時間の獲得にもつながるのです。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月12日付掲載


完全循環型の社会では、生産物は使用後に再資源化して繰り返し使われ、それができない有機物原料はエネルギーや肥料に有効活用。廃棄が前提の消費過程は再資源化に向かう生産の「静脈過程」に変わり、市民を中心にあらゆる主体が生産の一翼を担うようになり、生産手段の民主的社会化が生じます。
その結果、生産のあり方は、利潤優先の資本主義的生産から、人間や社会の発展のための生産へと変わっていく。
デンマークは労働時間が短く、午後4時にはほとんどの人が帰宅の途につきます。労働時間は短いのに、国際経営開発研究所が発表している国際競争力ランキングでは23年1位、24年3位。
気候危機という人類が直面している最大の矛盾に市民が積極的に関わり、生産手段の民主的社会化を実現することは、社会発展の扉を開く大きな力に。そのことは一部の人間に巨大な富が集中する構造を転換し、貧富の格差是正や労働時間の短縮、自由な時間の獲得にも。
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資本主義の現在と未来 気候変動⑦ 日本で再エネ100%は可能 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-15 07:17:01 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動⑦ 日本で再エネ100%は可能 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

―日本と同じものづくり国家、ドイツの再生可能エネルギーの所有形態はどうなっていますか。
世界有数の工業国ドイツでも、再エネ発電容量の4割以上は市民が所有し、自治体や中小企業などを含めると6割以上が地域所有です。家畜の糞尿(ふんにょう)や農業廃棄物を利用したバイオガスプラントが約1万基もあり、そのうち4分の3を農民が所有しています。
全国各地にエネルギー協同組合やエネルギー市民会社といった市民組織が900ほどあり、自治体の再エネ専門の部署と連携して再エネ普及に取り組んでいます。
デンマーク国境沿いの北海の干拓地につくられた、人口わずか170人ほどの小さな農村があります。1990年代初頭に有志が市民会社を設立して風力発電に取り組み、いまでは全村民参加で10万世帯分の電力を供給しています。以前は貧しい村でしたが、農業収入と同程度の売電収入で豊かになり、後継者難も解消しています。このように再エネで自立発展する地域が全国に数多くあります。




市民が取り組み
―ドイツやデンマークに比べ、日本では再工ネ普及が大きく遅れています。

日本は再エネ資源の種類も量も、両国と比べてはるかに豊富です。政府のエネルギー政策を原発優先から再エネ優先に切り替え、市民と地域の取り組みを推進すれば再エネ100%も実現可能で、どの地域も発展します。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は2016年、再エネを倍増した場合の各国の国内総生産の伸びを試算し、日本は世界でトップクラスの伸び率だとしています。
実は日本は04年まで太陽光発電の導入量が世界トップで、その7~8割は住宅用でした。採算が取れないころでも市民が中心となって再エネ普及に取り組んできたのです。
1997年に私たち17人が20万円ずつ出し、4キロワットの小さな市民共同太陽光発電所を滋賀県石部町(現・湖南市)につくりました。同年末に京都市で第3回気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)が開かれ、地球温暖化に注目が集まったこともあり、取り組みがメディアで紹介されると、各地で市民が資金や労力を負担しながら共同発電所をつくり始めました。
2002年には第1回市民共同発電所全国フォーラムを滋賀県で開催。その後も各地で開催して、互いの実践から学び合い、共同発電所の普及とともに、固定価格買い取り制度(FIT)の創設などを求めました。民主党政権下の12年にFITが実現し、16年に市民共同発電所は全国で1000基以上になりました。その後、市民地域共同発電所全国フォーラムと改称して、昨年、通算11回目を京都で開催しました。

自治体にも動き
全国1112自治体が50年までの二酸化炭素排出実質ゼロを表明するなど、自治体にも注目すべき動きが出ています。
福島県は原発事故を契機に県内の全エネルギーを40年(電力は25年)までに再エネで賄う計画を立て、電力については前倒しで達成しそうです。長野県飯田市は13年、地域資源を再エネとして利用することを市民の権利とする条例を策定。市が再エネ普及を積極的に支援し、400以上の市民共同発電所が誕生しています。
使用電力の再エネ100%化を目指す企業や団体も増えています。太陽光発電コストが大幅に下がったことで、自ら発電設備を持ち、電力自給した方が経済的になり、企業も、教育、医療、福祉などのあらゆる団体も再エネ100%を目指せる時代になっているのです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月11日付掲載


世界有数の工業国ドイツでも、再エネ発電容量の4割以上は市民が所有し、自治体や中小企業などを含めると6割以上が地域所有。家畜の糞尿(ふんにょう)や農業廃棄物を利用したバイオガスプラントが約1万基もあり、そのうち4分の3を農民が所有。
日本は再エネ資源の種類も量も、両国と比べてはるかに豊富。政府のエネルギー政策を原発優先から再エネ優先に切り替え、市民と地域の取り組みを推進すれば再エネ100%も実現可能で、どの地域も発展。
福島県は原発事故を契機に県内の全エネルギーを40年(電力は25年)までに再エネで賄う計画を立て、電力については前倒しで達成しそう。
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資本主義の現在と未来 気候変動⑥ 市民・地域の主導でこそ 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-14 08:20:45 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動⑥ 市民・地域の主導でこそ 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

―日本では自然や地域に悪影響を与える一部の大規模太陽光発電所などが、再生可能エネルギーの印象を悪くしています。
問題を起こしているのは大企業や地域外の企業による利益優先の再エネ事業です。一方、市民や地域主導で再エネを普及してきたデンマークやドイツでは、再エネに世論の高い支持があります。
デンマークは世界で最も早く風力発電を導入した国ですが、けん引したのは市民と農民でした。1970年代の石油危機を受け政府が北海油田の開発に乗り出すなか、市民や農民は風車の伝統に着目し、風力発電に取り組みだします。
風力発電機の開発を農業機械メーカーのベスタス社に依頼し、小規模な風力発電から出発。ベスタス社は、いまでは世界トップの風力発電機メーカーです。さらに風力発電機所有者協会を78年に立ち上げ、風力発電の設置補助金や電力買い取り制度の創設を政府に働きかけ、実現していきます。



ミドルグルン風力発電所(同発電所ホームページから)

ドイツにも波及
こうした取り組みが隣国ドイツにも広がり、2000年には電力買い取り制度を発展させた、再エネを一定価格で一定期間買い取る固定価格買い取り制度が誕生します。
再エネ普及における市民と地域主導の重要性は、再エネの特性自体にあります。石炭や石油などの地下資源は有限かつ特定の場所に集中して存在します。日本など資源のない国は輸入に依存せざるを得ません。
一方、再エネはほぼ無限にあり、世界中どこにでも存在します。ただしエネルギー密度は低く少量ずつ分散して存在します。地域資源を活用する小規模分散型の生産手段だからこそ、市民や自治体などの地域主導の普及に適しているのです。
実は、デンマークでも風力発電で収益性が見込めるようになると企業が参入してきます。ところが地域住民の意見が反映されない企業主導の事業には、やはり住民から反対運動が起こるのです。所有者協会も企業主導の風力発電所建設は不適切だと主張し、その結果、風力発電所の設備容量の20%以上は地域住民所有を義務づける法律が08年に制定されます。
デンマークは電力の半分以上を風力発電で賄っていますが、現在でも陸上風力発電所の約4分の3は市民所有です。
洋上風力発電でも、首都コペンハーゲンの沖合に並ぶミドルグルン風力発電所の20基のうち10基は電力会社が、後の10基は沿岸住民8650人が出資し、所有しています。風力発電への出資は銀行の定期預金より有利なので、市民は出資を自分たちの権利だと考えています。

住民に利益還元
21年には、出資の有無に関係なく再エネ発電所から一定の距離内の全居住者に売電収入の一部を支給する仕組みができました。出資できない住民にも利益を還元する仕組みです。支給額は平均すると風力発電で年間13万円程度、太陽光発電で5万円程度になるとされています。

―再エネが低所得者のくらしを底上げする福祉的機能まで担っているのですね。
このように市民と地域主導の再エネ普及では、再エネを通じて地域に利益が還元され、社会や経済にも好影響が生まれてきます。エネルギーの自給率向上や化石燃料の輸入減少による社会負担の軽減にもつながります。国内総生産(GDP)でみても日本は1990年比で約1・3倍と横ばいですが、デンマークは約2・9倍に伸び、1人当たりGDPは日本の2倍以上です。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月10日付掲載


問題を起こしているのは大企業や地域外の企業による利益優先の再エネ事業。一方、市民や地域主導で再エネを普及してきたデンマークやドイツでは、再エネに世論の高い支持が。
デンマークは世界で最も早く風力発電を導入した国ですが、けん引したのは市民と農民。
一方、再エネはほぼ無限にあり、世界中どこにでも存在します。ただしエネルギー密度は低く少量ずつ分散して存在します。地域資源を活用する小規模分散型の生産手段だからこそ、市民や自治体などの地域主導の普及に適している。
市民と地域主導の再エネ普及では、再エネを通じて地域に利益が還元され、社会や経済にも好影響が生まれます。
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資本主義の現在と未来 気候変動⑤ 大手電力が価格つり上げ 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-13 07:12:25 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動⑤ 大手電力が価格つり上げ 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く


―原発や石炭火発に固執する大手電力会社が、日本の卸電力市場をゆがめていることも問題になっています。
日本の電力市場の約7割の電力は、東京電力や関西電力など従来の大手電力が供給しています。発電会社と小売り会社が取引する卸電力市場で、大手電力会社が圧倒的な市場支配力を背景に不当な価格操作を行っていた疑いが出ています。
2020年12月~21年1月には、卸電力市場の電力が急激に減少して市場価格が10倍に暴騰し、大問題になりました。新電力会社の契約者の電気料金が跳ね上がるとともに、多くの新電力会社も電力の調達価格が販売価格を上回る逆ザヤに陥り、撤退・倒産が相次ぎました。一方、価格相場が上がったことで大手電力会社は大もうけし、1兆5千億円以上が新電力から大手電力に流れたと言われています。

カルテルを結ぶ
この問題をみるうえで、日本の大手電力会社の発電部門と送配電部門の経営分離の不徹底さを見ておく必要があります。
他の国では、送配電会社は法的にも経営的にも発電会社から独立しています。日本も法的には分離していますが、かつての大手電力管内ごとに送配電会社が置かれ、経営分離が不十分な実態も見られます。
関電、中部電力、中国電力、九州電力が17~18年にかけて電力カルテルを結んでいたとして、23年3月に公正取引委員会は関電を除く3社に合計1010億円の課徴金納付命令を行いました。関電は、公取委の立ち入り検査前に自己申告したため、課徴金を免れました。公取委はこのなかで、卸電力市場への供給量を絞り込むことで市場価格を引き上げ、新電力の競争力を低下させることを企図した者がいたと批判しています。
関電など少なくとも大手電力6社が、送配電会社などが保有する新電力と契約している顧客情報を違法に入手し閲覧していたことも明らかになっています。
わたしは新電力会社から再エネ100%電力を購入する契約を結んでいますが、関電から何回も営業の電話がかかってきました。関電は関西電力送配電会社が漏えいした名簿を使って、先述のような新電力会社の電気料金高騰も利用し、関電の方が電力料金が安いなどと営業をかけ、新電力から顧客を奪っていたのです。




過剰に買い取り
関電は、23年12月には、市場価格の高騰を招いたとして経済産業省から業務改善勧告を受けています。22~23年に複数回にわたり卸電力市場で過剰に電力を買い取っていたのです。過剰買い取りについて関電は発注ミスと言い訳していますが、到底信じられません。
―帝国データバンクの調査によれば24年3月までに撤退・倒産した新電力会社は累計119社に上り、21年4月に登録のあった706社の2割弱に相当するといいます。
新電力会社の経営を弱めるために大手電力会社が市場価格を操作していることについて、監督官庁はもっと監視を強化すべきですし、送配電会社は全国で東西2社程度に統合し、不正の温床となっている発電会社と送配電会社の癒着を断ち切るための経営分離を徹底すべきです。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月7日付掲載


公取委は、卸電力市場への供給量を絞り込むことで市場価格を引き上げ、新電力の競争力を低下させることを企図した者がいたと批判。
関電など少なくとも大手電力6社が、送配電会社などが保有する新電力と契約している顧客情報を違法に入手し閲覧していたことも明らかに。
新電力会社の経営を弱めるために大手電力会社が市場価格を操作していることについて、監督官庁はもっと監視を強化すべきですし、送配電会社は全国で東西2社程度に統合し、不正の温床となっている発電会社と送配電会社の癒着を断ち切るための経営分離を徹底すべき。
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資本主義の現在と未来 気候変動④ 再エネ遅れる日本 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-12 07:12:49 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動④ 再エネ遅れる日本 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く


―世界で再生可能工ネルギーの普及が進む一方、日本は足踏み状態です。
問題の第一はエネルギー政策が再エネ優先になっていないことです。ドイツの固定価格買い取り制度の法律名は「再生可能エネルギー拡大法(旧・優先法)」といい、再エネが最優先だということが法律にはっきり書かれています。日本の固定価格買い取り制度には、その言葉がありません。

出力制御で損失
日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけています。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで狙っています。世界が石炭火発ゼロに向かうなか石炭比率が19%というのもあり得ません。
こうした再エネ軽視政策を背景に起きているのが、再エネの出力制御です。日本では電力供給が需要を上回りそうなときは最初に火力発電の出力を50%程度まで減らし、次に太陽光や風力の出力を制御します。原発は最優先で供給されるうえ、火力も一定の出力が保障されます。
しかも発電側に対し出力制御は無補償かつ無制限に行われます。23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当します。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことになります。出力制御による損失は家庭の電気料金に換算して595億円です。
仮に出力制御をすべて石炭火発で実施していれば、海外からの石炭購入を約100億円節約でき、家庭の電気料金も安くなり、二酸化炭素の排出量も144万トン削減できたはずです。
出力制御によって売電収入が半分以下になり、太陽光発電所の建設資金の返済が難しくなる事業者も出てきています。農地での太陽光発電には重要な意義があるのですが、農家の間では太陽光発電に手をだしたら損をすると言われているという話も聞きました。
欧州では、電力供給の優先順位は追加の発電費用(限界費用)が低い順です。追加費用がかからない再エネが最優先で、原発、火力の順です。




送配電網も問題
―出力制御に加え、送配電網も問題になっています。

日本では、送配電網がないところに再エネの発電所をつくるには、送配電網を新たに引くための費用を発電側が負担しなければいけません。送配電網の設置に1億円かかると言われ、太陽光発電の設置を断念したケースもあります。
再エネを優先する国では、送配電網の設置費用の半分を国が持ったり、あらかじめ再エネ発電所を設置していい地域を決め、その地域に設置するときは送配電会社が送配電網を整備することになっていたりします。
日本では、送配電網はすでにあるのに枠が満杯で使えないといわれるケースも多くあります。この場合も、送配電網の強化や新設のための費用負担を求められます。
ところが、実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されているのです。ここにも再エネ軽視の政府の姿勢が反映しています。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月6日付掲載


日本のエネルギー基本計画では、原発の電力を最も優先的に供給するベースロード電源と位置づけ。政府のエネルギーの将来見通しでは2030年の電源構成は再エネが36~38%、原発が20~22%、石炭が19%です。
多くの国が再エネ100%を目指すなか再エネ目標はあまりに低い一方、原発は現在の数%から大幅に引き上げ、新増設まで。
23年に出力制御された太陽光と風力の電力量は合計19・2億キロワット時に上り、45・1万世帯の年間電力消費量に相当。つまり100万都市の家庭の年間消費電力量に匹敵する電力の売電収入が出力制御で失われたことに。
送配電網の枠。実際はほとんど枠がふさがっていない。日本では送配電網の利用は申し込み順で決まるため、原発の再稼働や石炭火力の新設を前提に送配電網の利用枠が埋められ、再エネが締め出されている。
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