人口減少社会を考える④ 財界の二律背反 大企業経営のあり方問う
経済研究者 友寄英隆さんに聞く
―「少子化」傾向にたいする財界・大企業の責任について、どう考えますか?
「少子化」の流れに歯止めがかからない、その根源を探ると、財界・大企業の目先の利潤追求の経営戦略があり、それを政府が一貫して放任し、「新自由主義」路線の労働政策の面からそれを促進・拍車をかけてきたことがあります。
1990年代以降に本格化した「新自由主義」路線のもとで、「労働法制の岩盤規制を突破する」などと言って、労働基準法の改悪、労働者派遣法の制定・改悪が繰り返され、低賃金・不安定雇用の非正規労働者が急増してきました。まさに「少子化」傾向が深刻になってきた30年は、財界・大企業の要求にそって労働法制の制度改悪が強行されてきた30年でもあったのです。
労働法制改悪に反対してデモ行進する人たち=5月24日、東京都千代田区
未婚率が急上昇
―「新自由主義」路線の労働政策が「少子化」を促進してきたとは、具体的にはどういうことですか?
労働法制の規制緩和などが、「少子化」に拍車をかけてきたことを象徴的に示す指標の一つが未婚率の急上昇です。図のように、1970年には男女とも1~3%だった生涯未婚率は、とりわけ90年代以降に急増し、2015年には男は23・37%、女は14・06%になりました。35年には男は約29%、女は約19%にまで上昇すると予測されています。
最新の「出生動向基本調査」(16年9月発表)によると、「いずれは結婚したい」と考える18~34歳の未婚者は、男性が85・7%、女性が89・3%となっています。若い人は結婚したいのに、現実には「結婚資金や住宅」「出産・子育て」
「安定した雇用」などの条件が障害となっています。長時間労働が若者の異性との出会いの機会を難しくしていることもあります。若者の雇用不安、将来展望の閉塞感が未婚率に拍車をかけているのです。
少子化に無反省
―しかし、最近は、財界も「少子化」対策の重要性を強調するようになっているのではないですか?
たしかに経団連も「人口減少への対応は待ったなし」(15年4月)などの提言を発表しています。しかし、財界提言を読んで感じることは、若者の未婚率上昇などをつくり出している労働条件の悪化にたいする財界としての責任、反省がまったく感じられないことです。
「少子化」対策における「財界の失敗」は、当面の利潤追求を最優先する「労務政策」と長期的な視点が求められる「労働力の再生産」との間には深刻なトレードオフの関係があるという認識がまったくないことです。トレードオフとは、「二律背反」「あちらを立てれば、こちらが立たず、こちらを立てれば、あちらが立たず」ということです。
―利潤追求は、資本主義的経営ならどこでも同じではないのですか?もちろん資本主義社会においては、企業の利潤追求を一般的に否定することはできません。
しかし、戦後日本の場合は、あまりにも異常でした。1990年代以降の大企業の経営戦略は、目先だけの利潤追求を極限まで徹底するということでした。それは長期的な視野に立った「労働力の安定的な再生産」の条件を根本的に掘り崩す結果をもたらしてきたのです。
しかも、本来なら、政府が「少子化」対策の立場から、あまりにひどい財界・大企業の短期的な利潤追求のやり方を規制して、長期的な「労働力の安定的な再生産」の条件を整えるべきだったのに、歴代自民党政府(最近は自公政権)は、その逆のことを推進してきました。
現代日本の「人口減少社会」のはじまりは、戦後日本の「大企業経営のあり方」を問うことでもあります。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年7月28日付掲載
企業の方が、長期にわたって人材を育てるって観点でなく、目先の利益を追求するあまり、その人材の後継者を育てられない。
経済研究者 友寄英隆さんに聞く
―「少子化」傾向にたいする財界・大企業の責任について、どう考えますか?
「少子化」の流れに歯止めがかからない、その根源を探ると、財界・大企業の目先の利潤追求の経営戦略があり、それを政府が一貫して放任し、「新自由主義」路線の労働政策の面からそれを促進・拍車をかけてきたことがあります。
1990年代以降に本格化した「新自由主義」路線のもとで、「労働法制の岩盤規制を突破する」などと言って、労働基準法の改悪、労働者派遣法の制定・改悪が繰り返され、低賃金・不安定雇用の非正規労働者が急増してきました。まさに「少子化」傾向が深刻になってきた30年は、財界・大企業の要求にそって労働法制の制度改悪が強行されてきた30年でもあったのです。
労働法制改悪に反対してデモ行進する人たち=5月24日、東京都千代田区
未婚率が急上昇
―「新自由主義」路線の労働政策が「少子化」を促進してきたとは、具体的にはどういうことですか?
労働法制の規制緩和などが、「少子化」に拍車をかけてきたことを象徴的に示す指標の一つが未婚率の急上昇です。図のように、1970年には男女とも1~3%だった生涯未婚率は、とりわけ90年代以降に急増し、2015年には男は23・37%、女は14・06%になりました。35年には男は約29%、女は約19%にまで上昇すると予測されています。
最新の「出生動向基本調査」(16年9月発表)によると、「いずれは結婚したい」と考える18~34歳の未婚者は、男性が85・7%、女性が89・3%となっています。若い人は結婚したいのに、現実には「結婚資金や住宅」「出産・子育て」
「安定した雇用」などの条件が障害となっています。長時間労働が若者の異性との出会いの機会を難しくしていることもあります。若者の雇用不安、将来展望の閉塞感が未婚率に拍車をかけているのです。
少子化に無反省
―しかし、最近は、財界も「少子化」対策の重要性を強調するようになっているのではないですか?
たしかに経団連も「人口減少への対応は待ったなし」(15年4月)などの提言を発表しています。しかし、財界提言を読んで感じることは、若者の未婚率上昇などをつくり出している労働条件の悪化にたいする財界としての責任、反省がまったく感じられないことです。
「少子化」対策における「財界の失敗」は、当面の利潤追求を最優先する「労務政策」と長期的な視点が求められる「労働力の再生産」との間には深刻なトレードオフの関係があるという認識がまったくないことです。トレードオフとは、「二律背反」「あちらを立てれば、こちらが立たず、こちらを立てれば、あちらが立たず」ということです。
―利潤追求は、資本主義的経営ならどこでも同じではないのですか?もちろん資本主義社会においては、企業の利潤追求を一般的に否定することはできません。
しかし、戦後日本の場合は、あまりにも異常でした。1990年代以降の大企業の経営戦略は、目先だけの利潤追求を極限まで徹底するということでした。それは長期的な視野に立った「労働力の安定的な再生産」の条件を根本的に掘り崩す結果をもたらしてきたのです。
しかも、本来なら、政府が「少子化」対策の立場から、あまりにひどい財界・大企業の短期的な利潤追求のやり方を規制して、長期的な「労働力の安定的な再生産」の条件を整えるべきだったのに、歴代自民党政府(最近は自公政権)は、その逆のことを推進してきました。
現代日本の「人口減少社会」のはじまりは、戦後日本の「大企業経営のあり方」を問うことでもあります。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年7月28日付掲載
企業の方が、長期にわたって人材を育てるって観点でなく、目先の利益を追求するあまり、その人材の後継者を育てられない。