経労委報告を読む③ 「賃金カーブ」変更 団結を壊す
労働総研顧問 牧野富夫さん
財界は大変な「ヤキモチ焼き」である。というのも、職場で労働者が仲良くするのを嫌う、労働者が企業を超えて仲良くすると怒り出す、労働者が産業を超えて全国規模で仲良くしようものなら半狂乱になるからである。かれらは団結が大嫌いなのだ。怖いのだ。
その団結を、職場・企業で切り崩そうというのが、「経労委報告」の「賃金カーブ(賃金体系)改定」にほかならない。隠されたねらいは、これだけではない。その改定を通じて人件費をうんと減らしたいのだ。また、労働者の「流動化」(出し入れ・異動)を経営者の思い通りにしたいというねらいも汰きい。今回は、このような「賃金カーブ(賃金体系)改定」論を俎上(そじょう)にのせる。
新たな切り口
これまでも「経労委報告」で賃金体系が「改革」の課題とされてきたが、今回は「新たな切り口」での提起になっている。
つまり、「高齢法」(高年齢者雇用安定法)の改定を逆手に、「65歳までの雇用確保を前提とした賃金カーブの全体的な見直しはもとより、継続雇用者の賃金制度との整合性を図る観点から、仕事・役割・貢献度を基準とする賃金制度に再構築していく」(66ページ)というのだ。要するに、これからは定年後も、希望すれば何らかの形で(段階的に)65歳まで雇用を継続することが義務づけられたので、そのための費用“以上”のカネを、賃金カーブを40歳ごろから寝かせることで捻出しようという魂胆である。
以上をふまえ、「仕事・役割・貢献度を基準とする賃金制度」なる“キツネ”の化けの皮をはがそう。これは「二重のテスト」で前記“ねらい”を実現するための「新型・成果主義賃金」である。一つ目のテストは、個々の労働者を、「仕事・役割」の軽重の順に作られた階段の、どこに座らせるかを決めるテスト。これで「2階建て賃金」の1階部分が決まる。二つ目は、同じ階段に座らされた労働者グループについて各人の「企業への貢献度」の違いを判定するテスト。これで賃金の2階部分が決まる、という仕組みだ。
一見、すっきりした制度にみえる。だから先に“キツネ”と名づけた。
一つ目のテストでの労働者の「品定め」でも、それまでの「企業への貢献度」が多分に混入しカウントされる。二つ目のテストはずばり「貢献度」だけで決まる。これは結局、「貢献度賃金」なのだ。そうすると、「ゴマスリ上手」が上司の受けがよく、筋を通す正義漢は煙たがられ評価が下がるというよくあることが、この賃金体系をゆがめる。
そもそも「貢献度」なるもの自体が多様・多面的・曖昧で、客観的な測定にたえられない代物である。ここが根本問題である。だから上司もいきおい、「ゴマスリ上手」に“高い点数”を与えてしまいがちになる。ところが経営者には、ここがミソなのだ。かれらが年功賃金を嫌うのは、それが「年齢」や「勤続」といった誰がみても同じ“客観的な基準”に基礎づけられているからである。
「曖昧な基準」
財界・経営者はすべて承知で、「曖昧な基準」の「新型・成果主義賃金体系」に切り替え、これをあやつり悪辣(あくらつ)な差別支配を強めようという算段である。だからこそ、それに「合理」のべール(つまり化けの皮)をかけようと躍起になっているのだ。
いま10人一組のAとBの2チームが「綱引き」をし、Aチームが勝ったとしよう。そこから確実にわかるのは、Aチームの力の総和がBチームの力の総和より大であった、ということだ。にもかかわらず、先の「成果主義賃金」は、AとBチームのそれぞれ一人ひとりが発揮した力の量がわかる、そういう前提に立っている。わかるはずがない。前提から間違っている。
そのような“欠陥賃金体系”ではあっても、ひとたび導入されると、化けの皮に厚化粧で労働者をあざむき、悪事を働く。13春闘にあたり、本質を見抜く「科学の目」を互いに養い強めようではないか。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年1月28日付掲載
「成果主義賃金」は、以前から評価者の恣意的な判断が多かった。5段階評価などで、いくら頑張っても一定の数の労働者は下位に評価されるなど問題点があった。
それが、40歳代以降の教育費が特にかかる世代の賃金カーブを寝かせるてことは、労働者の暮らしを考えない無謀としかいいようがない。
労働総研顧問 牧野富夫さん
財界は大変な「ヤキモチ焼き」である。というのも、職場で労働者が仲良くするのを嫌う、労働者が企業を超えて仲良くすると怒り出す、労働者が産業を超えて全国規模で仲良くしようものなら半狂乱になるからである。かれらは団結が大嫌いなのだ。怖いのだ。
その団結を、職場・企業で切り崩そうというのが、「経労委報告」の「賃金カーブ(賃金体系)改定」にほかならない。隠されたねらいは、これだけではない。その改定を通じて人件費をうんと減らしたいのだ。また、労働者の「流動化」(出し入れ・異動)を経営者の思い通りにしたいというねらいも汰きい。今回は、このような「賃金カーブ(賃金体系)改定」論を俎上(そじょう)にのせる。
新たな切り口
これまでも「経労委報告」で賃金体系が「改革」の課題とされてきたが、今回は「新たな切り口」での提起になっている。
つまり、「高齢法」(高年齢者雇用安定法)の改定を逆手に、「65歳までの雇用確保を前提とした賃金カーブの全体的な見直しはもとより、継続雇用者の賃金制度との整合性を図る観点から、仕事・役割・貢献度を基準とする賃金制度に再構築していく」(66ページ)というのだ。要するに、これからは定年後も、希望すれば何らかの形で(段階的に)65歳まで雇用を継続することが義務づけられたので、そのための費用“以上”のカネを、賃金カーブを40歳ごろから寝かせることで捻出しようという魂胆である。
以上をふまえ、「仕事・役割・貢献度を基準とする賃金制度」なる“キツネ”の化けの皮をはがそう。これは「二重のテスト」で前記“ねらい”を実現するための「新型・成果主義賃金」である。一つ目のテストは、個々の労働者を、「仕事・役割」の軽重の順に作られた階段の、どこに座らせるかを決めるテスト。これで「2階建て賃金」の1階部分が決まる。二つ目は、同じ階段に座らされた労働者グループについて各人の「企業への貢献度」の違いを判定するテスト。これで賃金の2階部分が決まる、という仕組みだ。
一見、すっきりした制度にみえる。だから先に“キツネ”と名づけた。
一つ目のテストでの労働者の「品定め」でも、それまでの「企業への貢献度」が多分に混入しカウントされる。二つ目のテストはずばり「貢献度」だけで決まる。これは結局、「貢献度賃金」なのだ。そうすると、「ゴマスリ上手」が上司の受けがよく、筋を通す正義漢は煙たがられ評価が下がるというよくあることが、この賃金体系をゆがめる。
そもそも「貢献度」なるもの自体が多様・多面的・曖昧で、客観的な測定にたえられない代物である。ここが根本問題である。だから上司もいきおい、「ゴマスリ上手」に“高い点数”を与えてしまいがちになる。ところが経営者には、ここがミソなのだ。かれらが年功賃金を嫌うのは、それが「年齢」や「勤続」といった誰がみても同じ“客観的な基準”に基礎づけられているからである。
「曖昧な基準」
財界・経営者はすべて承知で、「曖昧な基準」の「新型・成果主義賃金体系」に切り替え、これをあやつり悪辣(あくらつ)な差別支配を強めようという算段である。だからこそ、それに「合理」のべール(つまり化けの皮)をかけようと躍起になっているのだ。
いま10人一組のAとBの2チームが「綱引き」をし、Aチームが勝ったとしよう。そこから確実にわかるのは、Aチームの力の総和がBチームの力の総和より大であった、ということだ。にもかかわらず、先の「成果主義賃金」は、AとBチームのそれぞれ一人ひとりが発揮した力の量がわかる、そういう前提に立っている。わかるはずがない。前提から間違っている。
そのような“欠陥賃金体系”ではあっても、ひとたび導入されると、化けの皮に厚化粧で労働者をあざむき、悪事を働く。13春闘にあたり、本質を見抜く「科学の目」を互いに養い強めようではないか。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年1月28日付掲載
「成果主義賃金」は、以前から評価者の恣意的な判断が多かった。5段階評価などで、いくら頑張っても一定の数の労働者は下位に評価されるなど問題点があった。
それが、40歳代以降の教育費が特にかかる世代の賃金カーブを寝かせるてことは、労働者の暮らしを考えない無謀としかいいようがない。